落第忍者乱太郎番外編SS(ショートショート)
                 【仲良しにはなれないの段】
 
 
 
 
「おれが先に並んでたん  だッ!」
 
「な ん だ とおおお!横入りすんじゃねぇ、バカ三郎!」
 
「ね、ねえ、ふたりとも・・・もうやめなよぉ…先生、戻ってきちゃうよ…」
 
 
1年生合同授業の真っ只中、先生が急用で席をはずした隙に、
その取っ組み合いは始まった。
 
渦中の人物こそ、1年生の中で一番の犬猿の仲、と評されている
は組の食満留三郎とい組の潮江文次郎である。
 
 
手裏剣の授業では、数の限られている「的」の順番待ちで必ず揉める。
もはやその見慣れすぎた光景を前に、苦笑いで形ばかりの仲介に入った
善法寺伊作の声はむなしくかき消され、
先生がいないのをいいことに手を休めた他の級友たちも
二人を囲んでそれいけ、やっちまえ、などと煽るものだから、
ますますヒートアップするばかりだった。
 
 
「こらあっ!何をしている!」
 
怒号とともに鈍い音がして頭に電撃が走る。
終止符を打ったのは、用を済ませて戻ってきた先生であった。
 
「「ったぁ…」」
 
「食満ッ!潮江ッ!全くお前たちというヤツは…!
毎回毎回合同授業のたびに!目を離すとすぐこれだ!」
 
「「でも、こいつが!」」 
 
 
先生は、尚も牽制しあう二人を剥がしてそのまま腕を引くと、
ずるずると校舎裏の空き庫庫へと連れて行く。
 
(だから、言ったのに・・・)
 
土埃の向こうのその姿を見送る伊作は、大きくため息をついた。
 
***
 
「喧嘩しているだけなら授業はもう受けんでいい!しばらく頭を冷やしてなさい!」
 
先生は一瞬にして二人まとめて縄でぐるぐると縛り上げ、
薄暗い空き倉庫の中に放り投げると乱暴に戸を閉めてしまった。
ガタン、と、扉の向こうで押さえ棒が置かれる音。
これで、完全に閉じ込めの刑になってしまった。 
 
「くっ…そおおお… 」
 
「どうするんだよ!おまえのせいだ文次郎!」
 
「留三郎があそこでつかみかかってこなければ、こんなことにはならなかった!」
 
 
お互いの悪口を一頻り怒鳴ったあとは、
互いの顔を見ることもなく、背を向けて黙り込む。
 
外から入ってくる級友達のにぎやかな声は、うるさくて、余計に心細さを煽って仕方ないのだった。
 
 
                                                              
 
 
 
 
 
***
 
結局、授業が終わって、教室に戻り、放課後の清掃が始まり、
夕食前になっても2人は戻ってこなかった。
まだ閉じ込められているのだろうか。
 
薬草を探してくる、と言いつつ、様子を見に行こうと
空倉庫に近づいた伊作は、すすり泣いているような声を聞いた。
 
(泣いてる…?)
 
友の泣き声に心が痛む。
何食わぬ顔で素通りするなんてできない。
この押さえ棒を取って、扉を開けて、縄を解いてやれば、助けられるかな。
心拍数が上がって、どきどきが抑えられない。
 
 
「善法寺、やめなさい。あいつらのためにならん。」
 
手を伸ばしかけたその刹那、突然背後に気配を感じて慌てて振り向くと、先生が立っている。
すっかり心を読まれ、クギを刺されてしまった。
でも、"あいつらのためにならん" なんて言ったって、
伊作にはよく分からなかった。
このまま夕食抜きではかわいそうだ。
 
 
「出してあげてください、おねがいします…」
 
普段なら先生の言うことには素直に従う伊作が
めいっぱい頭を下げ、そのまま握りこぶしを作って俯いていると、
 
「わたしからも、おねがいします。
 止めずに加勢したわれわれにも責任があります」
 
と、いつの間に現れたのか、い組の立花仙蔵の声が加わった。
びっくりして見やると、(部屋にひとりでは、つまらぬ)、 そう耳打ちした。
 
「「おねがいします!」」
 
2人で頭を下げる。
 
これには先生も折れて、やれやれ、と、押さえ棒を外した。
倉庫の木戸を開けると、そこには涙でぐしゃぐしゃな2人の姿があった。
ようやく開けてもらえたことに対して顔を綻ばせたが、
伊作と仙蔵がいることに気づいた途端、慌てて鼻をすすりながら、
 
「な、なんでお前たちまで来るんだよ!」  と、声を上げる。
 
 
「バカモノ、何を言うか、善法寺と立花が、出してやってくれと頼んできたのだぞ」
 
「「え…」」
 
「さあ、早く仲直りせんか!互いの顔を見て!」
 
しぶしぶながらもぐるり、と体を捻り、向かい合う。
すると、あれだけ固く結ばれていたはずの縄が、ウソのように外れた。
 
 縄が解け、身体が離れてよろめいた2人は、すかさず先生の片膝にうつぶせられ、
バシッ、バシッと、それぞれ目が覚めるような一発を尻に喰らう。
 
「ちゃんと向かい合えば外れる仕組みになっていたというのに、お前たちは…!」
 
「ったぁ!」
 
「うわあん!」
 
 
そのまま何度か平手が落とされるたびに、2人の甲高い声が上がる。
 
 
 
 
ずっと座りっぱなしで、ただでさえジンジンと痛む尻に更に痛みが加えられ、
まさに泣きっ面に蜂状態だ。
傍観してるだけの伊作が顔をしかめるほどの威力で落とされる平手には、
いくら友達が見ている前とはいえ、本格的に泣き出すまでに時間は要らなかった。 
 
 
                                                                   
 
 
 
「や! も、 ゆるし・・て、くだ・・・さいっ うぇええ」
 
「ごめんなさぁあ 、い!  いたいっ! うぁあん!」
 
その後、叩かれながらごめんなさいを言わされ、もう授業中ケンカしないと誓わされ、
涙も声も枯れそうな2人だったが、
(2人が向かい合えばはずれた? このアホ!助けに来てソンした!)と
内心苛苛している仙蔵の
 
 
「先生、まだ反省していないとおもいますが?」
 
 
という一声で、お仕置きはしばらく続いたとか。
 
 
                                              
 
 
 
 
***
 
 
めでたしめでたし…
って
 
違う?
 
「「違う!!!」」
 
 
ちゃんちゃん♪♪

 

 

                                  ☆☆十緯ちゃん、ありがとう!!!☆☆

inserted by FC2 system