【 再会 】

 

注:▼←オリジナルではなく、版権ものです。『幽遊白書』です。
  18巻あたりのお話ですが捏造あり。
  それでもよろしければどうぞ♡

 


癌陀羅に遠雷の音が響いている。
我が国の産声。
激しいはずのそれも私にとっては愛しいものだ。

コッコッコッ…
靴音が響いてくる。

500m…300m…

もうすぐだ。ずっと求めていたものが手にはいる。
思わず、身震いが出た。

 


トントン

「何だ」

「黄泉さま、蔵馬を連れて参りました」

「入れ」

扉がゆっくりと開き、使い魔と蔵馬が姿を見せる。
使い魔には用はない。
軽く手を振ると、一礼して去っていく気配がした。
同時に扉が閉められる。
私は、蔵馬と二人きりになった。

「久しぶりだね」

「ああ…」

声は知っているものとは違い、随分と可愛らしいものになっていた。
しかし、今は固く抑揚もない。

くすっ

強情そうなお前の顔がよく見えるようだよ。
だが知らないふりをして話を進めていく。
先手必勝。
早めにお前の気概を削いでおくことにしよう。

「早速だが、いいものを拾ったんでね…。見るかい?」

「………」

疑問系だが、断る権限はそちらにはないことを暗に匂わせておく。

壁わきの隠しボタンを押すと、鋼鉄性の扉が出てくる。
そこから漏れてくる冷気と臭気に気付いたようだな。
だがなにも言わない。
私も尋ねない。
ただ微笑み、扉を開ける。

「……!!」

そこに置いておいたのは、腐った妖怪。
百年ほど前に捕まえ、この日のために鎖で両手両足を拘束し、生かさず殺さずなぶってきた。
体は腐り異臭と共に糸を引いている。
目は潰した。
簡単にはくたばらないように冷気を送り込んだが…そろそろ限界のようだな。

「…殺して……殺してく…れ…」

うわ言のように呟くそいつを見たとたん、蔵馬の気が変化した。

「知った顔か?」

心泊数が急上昇する。血圧にも乱れ。
ビンゴ。

「もう一度聞く。正直に言えば今度こそ楽にしてやる。」

「俺を襲い、この目を奪ったのは誰だ?」

「ぎ…銀髪の冷たい目をした…妖孤…蔵馬」


ぐしゃ


言い終えるのを待ってそいつの顔を踏み潰した。
もう、これで用済みだ。
その瞬間、静寂が訪れた。

 


そう、私の目は見えない。
何百年も前に盗賊として一緒に組んでいた相棒に裏切られ、そいつの依頼を受けた妖怪に襲われ、視力を失った。
相棒とは目の前にいる少年・・・かつての銀髪の妖孤。
沈着冷静で残酷だが、頭がよく計画を重視する傾向にある。
そして当時の私は我が強く、力を過信し、なにより頭が悪かった。
そんな愚直な玉砕主義は、盗賊の頭であった彼の懸念材料となり・・・結果、排除されたのだった。
だが命までは奪えず、回復を待つうちに蔵馬は霊界のハンターに狙われ重症のまま人間の女の受胎に憑依。
こうして姿を変え、目の前に姿を見せる。
私が呼んだ。
何百年かのうちに私の力は巨大なものとなった
魔界の微妙なバランスが崩れ始め、いよいよわが勢力が魔界全土を統一する機が近づいたからだ。
蔵馬の頭と協力が必要だと思った。
それともうひとつ・・・

 

「断っておくが恨んではいない。
今考えれば当時のオレは確かに無知だった。切られて当然だ。
だが・・・」

「何が望みだ」

硬質な声。流石だ。心拍数が元に戻り、完全に平常心になった。

「お仕置き」

「!?」

「少しばかりの罰を・・・。そしてこれからの魔界統一に向けての画策を練り、協力して欲しい。」

「・・・ふざけるな」

「あのころのオレはバカなりに役に立っただろう?今度は今のお前なりに力を助けて欲しい。
それから少しばかりの罰とは・・・尻叩き500回だ。」


今回の目的はちょっとした報復でもある。
殺すことは望んでいない。まだまだ利用価値があるからな。
しかしこの身にされてきたことを思えば、そのくらいの痛みと屈辱は甘受してしかるべきだと思うのだが。

「・・・・・・!」

完全に怒ったようだが、まだ黙って抑えている。
蔵馬はまず相手の小手技を見極めそれから対処していくタイプだ。
今回も私の真意を測り、それからしかるべき報復を加えようとするだろう。
それくらいは私も読んでいるさ。

「いやだといったら?」

「人間は旅行好きらしいな」

「!?」

「飛行機が落ちないといいが・・・熟年カップル、再婚旅行で悲劇。
ワイドショーのネタにしてもB級だ」

「貴様・・・・・・」

大切な蔵馬の人間界での母親。再婚をし、彼の勧めで新婚旅行に出かけている。
その飛行機を落としたら・・・?無言の脅迫だ。
 
「戦略の第一歩は情報収集。これもお前の教えだよ」

平常であれば即座に戦闘に突入するであろう侮辱だが。
この切り札は絶対、だ。
なにがあろうとも、どんなことでも従う。確信した。
そして蔵馬の決意がそれを物語っている。
くっくっく・・・・・・


「500は多い。10回だ」

「おいおい無茶を言うなよ。目を潰されて殺されかけたんだぞ。」

いきなり値切ってきたのには驚いた。やはりお前は面白いヤツだよ。
まあ、良い。
そう簡単に堕ちるとは思っていない。これくらいの交渉はむしろ楽しいくらいだ。

「お前に協力してやるんだから当然だろ。もっと少なくしろ。」

そんなやりとりが数回続き、結局きりがよく100回になった。
半数の250回くらいはいきたかったのだが、蔵馬は流石に駆け引きがうまい。
ただし屈辱感はたっぷりと味わってもらう。

「OK。成立だな。こちらにおいで」

鋼鉄製の扉から出て、またもとの部屋に戻る。
デスクから椅子を引っ張り出して、足を組んで座った。
勝者の威厳を見せ付ける。
黙って蔵馬が近づいた。
心拍数・血圧ともに変化無し。
しかし、気迫を充分に漲らせ冷ややかな気配を纏う。
触れれば切り裂かれそうな危うさ・・・。
だがお前は私には逆らえない。
ふふ・・・本当に面白いよ・・・・・・。

 

そのまま腕を掴んで膝に引きずり倒す。
無抵抗なので、蔵馬はあっけなく腹ばいになった。
頭が下がり尻が突き出される形になる。
ズボンが邪魔だったが、これ以上の辱めは逆効果になりそうだ。
手負いの獣が激しく牙を剥くように、刃向かってくるだろう。
ぎりぎりの線で交渉して言ったのだから我慢して、そのままの形で行うことにした。


まず強めに一発。
バッシ―――ン!!

「!」

声は出さない。
が、わずかに力がこもったのが感じられる。
いつまで耐えられるか。

バッチ―――ン!!

バシッ 

バシッ

パシィッ・・・・・・

一つ一つをゆっくりと、たっぷりと時間をかけながら叩いていく。
こんな機会はおそらくもうない。
それだけに貴重だな・・・。


ビシィッ

ビシィ!

バシッ!・・・・・・


強さも思いもありったけを込めて、蔵馬の双丘をあますところなく打ちのめす。
けれど、彼は声は出さない。
もしかしたら声なんて出さないと決めているのかもしれない。
泣く事もないだろう。
しかし、時折息遣いが乱れるのと、身体に走る緊張がその身に降りかかる負担が大きいことを示す。
私に気づかれないためか、足を跳ね上げようとするのを必死に堪える様子がいじましいこと。
これがかつて恐れられていた、妖孤、蔵馬。
体つきも華奢になってとても同一人物とは思えない。
しかし人間臭に混じってのなつかしい妖気。
態度、言葉付き、そしてなにより魂の輝きが紛れもない事実だと知らせる。
ふっ・・・やはり私はお前が好きだ。
 

バッシィィィ・・・!!

「・・・クッ」


何十発か殴打の末、初めて吐息が聞こえた。
苦痛に満ち、耐えて耐えてそれでも出てしまう声。
きっととても屈辱だろう。
顔が見えないのが残念だな。
だが、体温・感触。膝にかかる蔵馬の身体の重みが、全てを征服したような気持ちにさせてくれる。
目が見えていたあの頃は、こんなことになるなんて夢にも思わなかった。
頭である妖孤を対等と思い、どこか敗北感も感じていた。
がむしゃらにただひたすら追いかけ、追い抜こうと突っ走っていた。
そして裏切り。絶望。
・・・今は?
力も手に入れ蔵馬をも手に入れた。
とても満足だ。
もっともっとお前の泣き声が聞きたいよ。

バッチィィィン!!

「・・・・・・っ」

バッシ――――ン!

「うっ・・・・・・!」

そうだ
泣け!
叫べ
取り乱し
詫びを入れ
跪き
服従し
みっともなく騒ぎ立てろ・・・・・・!!

 

 

そして永遠の甘美な夢とも思える時間も、あっという間で。
約束の100打が終わる。
終わった途端私の膝から離れ、それでも立ってはいられなかったみたいで膝をつく。
離れる瞬間触れた蔵馬の手やうなじは汗が滲み、長髪は乱れ、息が荒くなっていた。
私も。
興奮したせいか呼吸が乱れて。
力の限り打ち続けたせいで掌全体がじんじんと疼いて熱をもっている。


・・・・・・結局、蔵馬は泣かなかった。


どれくらい経ったか。そんな長い時間でもないだろう。
徐々に蔵馬が落ち着きを取り戻す。
髪をかき上げ、何事も無かったかのように立ち上がり、抑揚のない声で言った。


「これで借りはない。
参謀は学校の始まるまで、夏休みの間だけなってやる。
協力するだけだ。従うわけじゃない。
以上だ」

そう言い捨てて私の返事を待つことなく、きびすを返し去っていった。
そうだ、それでいい。
なにはともあれ、目的は果たした。
後は、魔界統一へ動き出すだけ。
そして力の限り打ち尽くした尻の痛みに、人知れず苦しんでいるお前の姿でも想像して楽しむことにするかな。
誇り高いお前の肌に刻まれた忌むべき刻印、傷。屈辱感。
後々まで容易には消えないことだろう。
それこそ・・・ちょっとした報復。


くっ
ふふふ・・・はははははは・・・・・・!!!

 
 
はやと

2005年05月16日(月)

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