【I'm a hungry…】
「お仕置きだ…」
自分の口が勝手に動き、これから始まる素晴らしい楽しみにニヤリとする。
目の前には、ウツクシイモノ。
スカートと下着のしたには、丸みを帯び、肌がピンと張ったお尻が隠れてる。
ベッドに手を突いて彼女は俯き、表情は見えない。
しかし、もはやそれはどうでもいいこと。
これからボクは、この突き出されたお尻と話をする。
「……!」
チェックのスカートをそっとめくりあげる瞬間、彼女は震え。
でも。
ボクはかまわず、手始めに掌をめいっぱい開き持ち上げ…力を込めて振り下ろした。
バシッ
下着の布に吸収されても、なお大きい音が響いた。
掌にはお尻の感触。
「…ぁん!」
これだ…!
これだよ…!!
高揚感が、五臓六腑を駆け巡る。
目を細めて、彼女を見る。
ボクがずっと求めていたもの…。
愛おしい可愛い存在。
手に入ることはないと思っていたモノ…!!
喜びが湧いてくる。
その時。彼女自身と、かつてずっと恨んでいるだけだった人外の力…神か?…に感謝した…!!
**********
世の中には幸せそうなカップルがあふれ、雑誌の中にも甘ったるい恋愛事情が語られる。
デートに行くならベスト3!
男の気持ち、女の気持ち。
SEXについてのエトセトラ…
ある暑い日の夜。不意に襲ってきた不快な想いを飲み込んで雑誌を置き、ボクはコンビニを出た。
イライラする理由はわかっている。
自分は―――フツウデハナイ。
いや、普通のシュミではない。
SEX?
そんなもんどうでもいい。
心の底からわきあがってくる…嗜虐的な想い。
叩きたい叩きたい叩きたい叩きたい
何を?
…女のお尻を。
そう、ボクはスパンキング愛好者だ。
スパンキング。
お尻を叩いたり叩かれたりする、ある特殊な性癖…
そこに性的にも精神的にも重きを置いている…
有名なSMとも違う、どっちかっていうとマイナーなジャンルに属される。
カー…叩きたい者
キー…叩かれたい者
スイッチ…どっちでも可
どうして叩きたいのか、叩かれたいのかはもはや判らない。
ただ、お仕置きとしてのその行為が気になってしかたなく、漫画やアニメでそのシーンが出てきたりするとドキドキして喜んでしまう。
最初は見るだけで満足だったのが…自分もそうしたい、そうされたい。
そう思うようになる。
あこがれて...。
だが、実際はそう上手くはいかない。
彼女が出来たとしても、彼女自身がスパンキング愛好者ではないと叩けない。
叩けば、その関係性はすぐ消えてしまうだろう。
性欲は満たせてもSP欲は満たせない。
何故こんな性癖に生まれた?
とろりとした不満が溜まっていくのを日々感じていた…。
ボクはいろいろな人と付き合っては別れていく。
そして次こそは…!
周到に会話をしながら女性たちのM性やキー性を探っていく。
「あたしぃ、ひっぱっていってくれる人が好きなんですぅ」
「怒られるのって愛を感じるじゃないですかー」
「Sな人に惹かれちゃう〜♪」
が、それだけではSP関係になれないことも確かだ。
シリヲタタカレタイヤツハドイツダ?
―――イネエ…
何度も失望を味わう。
もう、そんな思いはたくさんなのに。
そんな中…彼女に出会った。
ありきたりの、女の子。
残念に思ったことは確かだが、SPを抜かしても不思議とウマが合うと思った。
雰囲気が似てるのか?
まんざら悪い気もなかった。
会話を重ねて親密度をあげていき…デート…カラオケやディズニーランドなんていう可愛いものだ。
晴れて彼女と彼氏彼女の仲になる。
明るく元気な彼女のことを可愛く想い、大切に思うと共に、同時にふとした瞬間ひどく叩きたくなる。
ひどく…
泣き叫ばせて。
その柔らかいお尻をむき出しにして、真っ赤に腫らすまで叩きのめす。
抵抗するのなら、もっと罰を重くするだけだ。
暴れる身体をしっかりと押さえつけて、膝にその重みを感じたい。
それはどんなにか甘美で…とろけるような瞬間だろうか―――!!
が、その想いは彼女に知られてはならない。
「どうしたの?」
「なんでもないよ」
「そっか♪」
にこ、と微笑み、他愛もなくあれが可愛い、これが面白い…よくしゃべる口だなぁ…。
無邪気な彼女をそんな想像で汚していると思うたびに、胸が苦しくなる。
罪悪感…。
付き合って数ヶ月。
悶々としながらも楽しい日々を過ごす。
1日に何回も交わすメールには絵文字が並び、電話も毎日。
恋人らしく、ショッピングをして映画を見てご飯を食べた。
水族館にも行ったり、動物園で手を繋いだり、海にもいった。
白いビキニの彼女は美しく、…がその時は、白いお尻を紅く染めたい誘惑と戦わなければならなくなった。
苦しいよ。
いっそ、この想いをぶつけてしまおうか。
でも…彼女を失いたくない。
彼女に「最低!!暴力なんて最低よ!!」と責められるのが怖い。
沈む…
この頃沈みがちのボクを彼女は気遣い、次第に心配そうな顔になっていく。
ゴメンな。
お前にそんな顔をさせたいわけじゃないのに。
「圭ちゃん、優しいけど…。なんかわかんない。」
「本当の気持ち、話してよ。私、いくらだって力になるよ?」
「それとも私のこと…本当は…キライなの?」
違う!違う!違う!!
声にならない声で、激情をぶつけるかのようにボクは彼女を抱いた。
SPの想いをかき消すかのように…
彼女はまたにっこりし、「キライなの?」深刻なそんな雰囲気が過ぎたように感じた。
のに…根深い性癖がボクを苦しめて離さない。
が、その時から彼女が少し変わった。
ボクの本心を知ろうとするように…
カリ。
いきなり首筋に爪を立てたり、待ち合わせの時間に遅れてきたりする。
ワガママを言うことも増えてきた。
きまぐれな猫みたいに…
しっぽをしゅっと振ってるときはなにか考えているときだろう?
何を考えている?
そしてじーっと見てる。
目線をあわそうとすると逃げる。
そしてまたじーっと見てる…
そして、ボクはまた戦わなくてはいけなくなった。
―――彼女をお仕置きしたい欲求と…!!
数日間はガマンした。
が、いい加減限界だった。
優しい彼氏でいるのはもう。
もういい。
1度だけ。
思い切りやって別れてしまおう。
お前を傷つける最低な男として、一生記憶してくれるならもう…いい。
が、勇気がでない…。
どうしようもない。
どうしようもない、ボク。
が、その時は意外に訪れた。
ホテルに行ったときだった。
また彼女が試す。
「やっぱ今日は気分じゃないもん」
「なんで?」
「圭ちゃん優しいけど、そんなのヤダ」
「…どういうのがいいの?」
「……」
「…どうしてそんなこと言うの?」
「…知らない!もう!」
「…」
「もー圭ちゃんのバカ!!!」
いきなり枕を投げられた。
それで理性は…抑えていたはずの制御装置がいとも簡単に外れたのだ。
バカ?
バカってなんだ?
ボクの気持ちも知らないで?
この耐え忍んでいた気持ちも知らないで?
勝手なことばかり言うな!
お前が好きだからここまでガマンしたのに!!
ものすごく腹が立った。
「コラ!」
ベッドに座り込んで次の枕に手を伸ばしている彼女の腕をつかんだ。
「!?」
自分でも険しい顔をしていたと思う。
彼女の驚いた顔っていったらなかった。
もう、どうでもよくて。
ぐいっと力任せにひっぱり、強引にうつぶせにさせた。
左手で腰を抑え右手で、クリームイエローのワンピもレースの下着も、通り越すぐらいの力で叩いた。
うつぶせのお尻は突き出されない分、ちっさくて叩きにくい...!
ボクの体制もベッドに飛び乗ってそのままだから、不自然きわまりない。
でも、とりあえずは相手を屈服させるくらいまで…!
彼女は痛さにわめいた。
「いたあぁぁぁぁい、やだぁぁぁ!!」
じたばたと足が跳ね、ベッドも揺れる。
手が、後ろに伸びてきて庇おうとするのを腰と一緒に押さえ込み、しばらくは勢いのまま叩きまくった。
必死だ。
甘美どころか、彼女VSボクの身体と身体の闘いみたいだ。
が、いくらもしないうちに勝敗は決まった。
ボクが勝つに決まってるだろ!!
はぁはぁ…と2人とも息をしている。
彼女はくったりとうつぶせのまま動かない。
が、これで終わらせない。
終わるわけはない。
もう今日で最後なら。
知りたがっていた本心をしりたいなら、たっぷりと教えてやる…!!!
「起きるんだ。俺の顔を見て」
のろのろと彼女が動き出し、振り返った。
火照った顔がうるんだ目が、可愛かった。
「ずっとワガママばっかだったよな?優しいばっかりが嫌なら、ちゃんと教えてあげる。俺を怒らせたらどうなるか…。おいで。」
びくん。
一瞬ためらって震えたけど、無言ですりよってきた。
ベッドのふちに腰掛けて、彼女を待ってたボクはそこで彼女を膝の上に誘う。
夢にまで見たお尻が目の前に。
さっきより少し冷静になってきて、よく観察できる。
やはり、OTKは良い。
暴れなくなった彼女をいいことに、さっさとワンピースの裾をめくり、下着をおろした。
「ゃん」
小さく呻いた声は無視だ。
全体的にピンク色に染まった肌の美しさに息を呑む。
「おいたばかりする悪い娘は、こうだよ!!」
言ってみたかった言葉で彼女を嬲り、尻の下部を思い切り叩いた。
もうじんじんしているはずであろうお尻に、さらに渾身の力が入ったものだから高い悲鳴が漏れる。
「―――ぁぁぁぁーーーー!!」
ぞくぞくするような感覚が襲い、悦楽の波に呑まれそうになる。
同時に彼女の骨部分には当たらないように注意し、より痛みが与えられるように…計算がどこかで働いている。
気持ちが良かった。
彼女の悲鳴も、より一層の効果を与える。
夢のような時間が過ぎていった。
念願通り、彼女のお尻があますことなく紅色に染まり腫れ上がった。
そこで、手を止め「なんていうんだ?」と助け舟を出す。
切れ切れに「ご…め…んな…さ…」
「よくできました」
よしよしと頭を撫でる。
そして、また苦しい気持ちに襲われる。
やっちゃった…
とうとうやっちゃったんだ…
もうこの娘とは…終わりなんだ。
たまらない寂寥感。
でも、きちんと話さなければ。
彼女を抱き起こし、膝に据わらせる。
そして、抱きしめ…耳元で囁く。
「俺も謝るよ…俺の趣味はお尻叩きだ。だから、ずっとお前のお尻を叩きたかった。こんな変態…で…ごめんな…。もう、別れよう…その方がお前のためだ…」
「痛くしてごめん…」
話すたびに、心臓が切り裂かれてるみたいだ。
ぎゅぅ…と抱きしめた力を込めて、放した。
彼女は涙ににじんだ顔でこっちを見ている。
そして言った。
「ヤダ…」
…そんな目で見るな。
捨てられたような仔猫の目で見るな。
もう、いいから離れろ。
また、痛くてたまらないことをしたくなる、
次はもっと酷いことになるぞ?
上手く言えずに、ぽつりぽつりとつぶやくのみ。
身支度を整えて、ボクらはホテルを出た。
雨が降ってる。
涙みたいに……
駅で別れた。
先ほどの興奮が収まると、あとは苦いため息のみ…。
泣きたい気分だった…。
が、それは長く続かなかった。
彼女はあくる日の朝、ボクの家の前に立っていた。
「おはよ!」
ちょっと恥ずかしそうに、笑って。
「話があるの。いい?」
機械的に頷き、リビングへ通した。
そこで衝撃的なことを聞いた。
「…私…ずっと…ああされたかったの」
彼女の内なる欲求。
求めていたもの。
恥ずかしさを押し殺し、何食わぬ顔でノーマルのフリをしてきた。
ボクが打ち破ったもの。
既に…彼女は…キーだったのだと…!!!
「お尻がじんじんして眠れなかった。でも、すごくすごく嬉しかったんだ。圭ちゃんが変態なら私もヘンタイだよ。だから…別れるなんて言わないで!!」
話ながら感情が高ぶり彼女は泣いた。
こんな…こんな話があるのか…?
夢か幻じゃないのか…?
しかしぎゅぅと抱きしめても、彼女は消えなかった。
なんたることだ!!
彼女の行動全て、叩かれたい気持ちの現われだったのか!
この厄介な性癖が、満たされる日が来るなんて?
彼女を傷つけることを恐れて、過ごさなくてもいい!?
もう離さなくていいんだ!!
それから、ボクたちはいろんな話をした。
人に言えない趣味を、思い切り話せるのはものすごい解放感だった。
連帯感も生まれた。
相手への想いもより一層高まった。
そして―――冒頭へ戻る。
彼女自身を好きにしても良い権利を得たボクは、イキイキと彼女の望む支配者(カー)になる。
彼女は大分素直になった。
暴れるよりも、じっと耐えようとする。
(途中で耐え切れず動き出すのだが)
道具もうけつけるようになった。
そして、SP中はボクを「主」と呼ぶ。
彼女自身が望んでいる。
2人の欲求が互いに絡まっている…なんて幸せなことだろうか…!!
ボクは彼女への愛情と感謝を忘れない。
愛情を込めて、痛く痛く…心も身体も解放してあげる…!!
2人が共に見る夢は…いつまでも壊れることはない……
2007年08月25日(土)