【蝶の夢】

 

鏡…

横にある鏡を見てみる。

そこには自分がいた。

赤く火照ったお尻が写っていた。

ところどころ、鋭い刻み跡も見える。

背中からお尻のラインは、自分のお尻なんて思えないほどの…キレイなラインをしている。

丸みを帯びた二つの丘が、どちらが赤いか競っているようにジンジンと自己主張して。


ちらりと見た後は、バレないようにすぐ視線を戻す。

そして目の前に置かれているのは、さきほど自分を嫌というほど痛めつけた道具の数々…。

ベルトにヘアブラシにケイン。

ご丁寧に並べて置かれているのが恨めしい。

見ただけで恐怖心を煽るのだから。

ぎゅっと眼をつぶると、少しラクになれる気がした。

でも、膝立ちで目をつぶると体勢がふらつく。

やむなく諦めて、また眼を開ける。

お尻を触ってみたい。

触って、撫でて、その熱さと痛みをやわらげたい。

しかし、厳命がある。

主は言ったのだ。

   「絶対に 勝手に お尻に触ってはいけないよ」

身体を縛るものはなにもない。

が、心はしっかりと絡めとられて檻の中。

もし主の命令に逆らったら…考えるだに恐ろしい。。。

さきほどその恐ろしさ味わったばかりなのだから。

私は、広いベッドの上で所在無げに漂うちっぽけな存在だ。


後ろを向けば磔台。先ほど自分を捕らえていた忌まわしいモノ。そしてソファー。

そこに主はいる。

黙って見ている。

私が、きちんと時間がくるまで動かずに、立ち膝のままで、無様にお尻を晒しているのを眺めるために。

コーナータイム。

そんな時間が、罰のうちに組み込まれているなんて。

誰が考え付いたやら。
バッカじゃないの!!??
どんな気分か考えたことある?

それは、とても気まずくて、空気すべてが重苦しい。

この時間が終わらないと、私の罰は終わらないのだ。

何故…

もう充分だと思うの。



主に逆らった罰…

思い知らされた。

とっつかまって、磔台に繋がれた。
拘束された身は、蜘蛛の巣にひっかかった蝶のように無力。
台にうつぶせて、両手首は台の下側にいっしょくたになっている。
足は左右に開かれた。
足首も固定される。

動かない…

あごをそっと持ち上げて、目線を合わせて、静かに言われた…

「悪い娘だ。」

「…!」

「おいたをするツケは重いからな…容赦しない…」

この場に及んで、ぞくっと性感帯が刺激されたのはナイショである。

感じるのは絶望…
恐怖…
嘆願にも似た想い
そして…
期待。

身に降りかかる災厄を知っているくせに、何故期待を抱くのか…
この厄介な性癖のせいか…


ビシィィィィィィ!!

最初から情け容赦もなかった。
激しいベルト打ちを皮切りに、地獄のような責め苦が始まった。

拘束されて、抵抗する術を一切もたない私は、ただ叫び、喘ぎ、息を切らして…それでも息をしようと必死だった。

切れるような痛みがお尻に与えられる。
ケインもベルトも、大嫌い!

蚯蚓腫れが押しつぶされるような、内部が腫れ上がるに違いない…ヘアブラシなぞほろびてしまえ!!

この罰は臀部以外には与えられないのだが、だからといって慰められるはずもない。
まとめて。
全力の力が、お尻全体に集中されている。

主の力…想い…

――逆らってはいけない!

――お前は私のモノだ!!
――身の程知らずの報いよ…
――存分に苦しみ、もがき、その汗と赤みにまみれる肢体を晒せ…!!


――判りました…!!
――私のすべては主様のモノ…
――ですから…この激しい叱責…もうおやめください…!!
――壊れる…壊れちゃう…あぁぁぁぁあああああ!!!!


涙は出ないが、血の涙は流れているような錯覚が起きる。
痛みの間中、くらくらとしている瞳で床をみつめていた。

――あれ、どうしてココにいるんだろ?
――床の水滴…汗だろうか…


永遠にも似た時間。
それで、すべすべだった白いお尻は、見事にでこぼことして熟れた桃のような色になってしまった。

   「反省の時間だよ…」


それで。
今に至る。


裸の自分。

色が付いた自分。

罪を刻み込まれた自分。

羞恥心なぞ、この際捨ててしまえ…と想いつつ、胸も尻も震えてしまう。
手は頭の後ろで組んでいる…それを外せたら。


哀れな蝶に、どうか…御慈悲を…!!!


そして、長かった時間は、待望の終わりを迎える。

主が静かにベッドに近づく気配。


   びくっ

そぉっと、肩に手を置かれ、耳元で「お仕置きは終わりだ…」

ほっとした安堵で倒れそうになる。

「おっと」

すぐ身体が支えられ、体勢がひっくりかえされて主の腕の中…

温かい腕のぬくもりが…心底嬉しかった…


そのままベッドに押し倒される。
捕らえられた蝶…捕らえた蜘蛛…
たとえ喰われても…この想いが味わえるなら…もういい…
むけてくれるこの愛情が全てだ…!!
私も主様へ…永遠の愛を誓おう…!!


極上の気分で、堕ちていく…

 ともに沈もう…主よ…


あんなに忌まわしかった時間…お仕置きすら…最上の思い出へ変化していく…

柔らかに溶けていく、幸せな夢のような…

 

 

 

 

 

はやと

2007年07月30日(月)

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