【ちぁーずにようこそ〜☆☆☆8】

 

 

 

都心からかなり離れた町田。
駅から少し離れたマンション風の建物1階に、「メイド喫茶」ならぬ「あにまる喫茶ちぁーず」はできた。
あにまる喫茶とはその名の通り、色んな動物たちを真似、コスプレした女性たちが癒しの空間をつくる喫茶店である。

クリームイエローの可愛らしい、…色んな動物たちが描かれている扉は、さながらペットショップを思わせる。
犬、うさぎ、猫、パンダ、アライグマ、ひよこ。
可愛らしいものから、豹、虎、狼なんていうのまでいるのだ。


今でこそ、なかなかのにぎわいを見せ、順調な発展を遂げている店だが…

最初にOPENするまでには、それなりに苦労があった。

 

今日は、そんなお話☆☆☆

 

オーナーになる更叉は、連日忙しかった。

忙しいのは彼女だけではないが、責任者というのは色々な書類に目を通したり
自分でも作成したり計画したり、と、他のスタッフには出来ない仕事をしなくてはならない。
ちぁーずの開店は1月を予定していた。
そのためにはゆっくりなどしていられない。
今は師走なので、役所や業者の都合になにかと振り回され書類作成が後手後手になっていたのだ。

やっと役所へ提出する書類が出来あがったと思ったら、今度はマニュアルを作成しなくてはならなかった。
パソコンにデータを入力していき、細かい指示も一つ一つ丁寧に書き込み、印刷していく。

そんなわけで、彼女は数日目の回るような日々を過ごしていた。

その鬼気迫る様子は、他のスタッフの心配を誘う。


「ちょっと、根つめすぎなんじゃないの?」

親友バルドゥが、更叉のために珈琲を入れてきて、机の上に置いた。
自室でPCとにらめっこしていた更叉は、画面から目を離さず

「大丈夫よ」

と素っ気なく答えた。
出来上がったら、明日にはこのマニュアルをスタッフに配布したいのだ。
年末年始にゆっくり目を通してもらい、1月開店に間に合わしたいと考えているのだ。

 

 ――大丈夫…ねぇ…

バルドゥは、眉をひそめた。
高校時代からの付き合いだ。いつもの彼女と違うことくらいわかるのに。

「手伝うわよ」

「…いいわ。バルには新人ちゃんの面倒とか見てもらわないといけないし。
 掃除とか、POPとか色々やってもらわきゃ。
 これは、私が書くから。
 他のことをやって」


こう、と言い出したら、聞かないんだから…。

「無理しないのよ?身体壊したら元も子もないからね?」

「わかってる…」

…どうだか。
ちょっと苦々しい気持ちで、バルドゥは更叉から離れ、店の厨房へ戻った。


「サラ、どうだった?」

「だぁめ!全部責任を負っちゃってんのよね。
 …その気持ちはわかるけど。」

「そっか…」

同い年の親友、睡蓮も困ったように頭をかいた。

やることはまだあれど、年下のスタッフたちも頑張ってくれ、内装や衣装、メニューなどは既に出来あがっていた。
だから、そちらを手伝うよ、と言いたかったのだが。
断られた以上、とりあえずは、更叉に任せるしかないだろう。

他のスタッフには、店長の余裕のない姿は見せられない。
混乱と不安を呼ぶだけだから。
更叉の2人の妹たちも、忙しい姉を気遣い、顔を合わすのも控えている状態だった。

まぁ、それも今日までだ。
最終段階のマニュアル作成が終わり、明日になったらそれをスタッフに配布して、休みに入る。
そうしたら、またいつも通りの彼女に戻るだろう。

そう思い、仕方なく2人は他の雑務に向かった。

 


****

更叉がはっとすると、時計は22時を回っていた。

先ほど、持ってきてくれた夕飯のサンドウィッチを食べたような気がするが、よく覚えていない。

乾燥しきった室内に気付いた時は遅く、喉が痛くなっていた。
パソコン画面を見すぎた目も痛み、さらに頭痛もする。


コンコン

こめかみをほぐしていた時に、ノックが鳴った。
ビクっとするも、平然を装って扉を開けるとバルドゥが入ってきた。

「どう?
 もうこっちは全部終わったわ。
 皆にも帰ってもらったし、さぁらとじょん(更叉の妹達)は睡蓮が気晴らしに銭湯に連れて行ってる」

「あ、ありがとう…。
 もう少しよ、バルも帰っていいわ。」


ばん!

「いた!」

帰っていいわ、と言われたとたん、バルドゥは両手で更叉の顔を挟み込んだ。
そのまま、じっと顔を見つめる。

「…なに?」

「熱い。顔が赤い。そのくせ顔色が悪い。
 こんな状態のアンタをほって、帰れると思う?」

「だ、大丈夫よ…」

「更叉!いい加減にしなさい。
 そんな状態は大丈夫とは言わないの。
 今日は寝なさい。」

キツ目なタイプなバルドゥが覗き込むと、迫力がある。
でも…、と更叉は食い下がった。
自分がやらないと明日に間に合わない…。

弱々しい声で色々と必死に言うと、バルドゥは、すっと表情を硬くした。

「ねえ。私たちは何?
 睡蓮と私は、共同責任者なはずよね?
 3人でやりたいって言ったのは、貴女じゃないの。

 1人で抱え込むだけなら、私はいらないんじゃない?」


――!!!!


更叉はショックに強張った。

違う…そんなんじゃない…

しかし、熱でぼーっとした頭ではうまく言葉が思い浮かばず
更叉は無言でパニックになった。

――待って!誤解なの…でも…なんと言えばいい?

彼女が黙ってるうちに、どんどんバルドゥが言葉を重ねていく。

 

そしてとうとう…

「このままじゃ、今後一緒にうまく店をやっていけるかわからないよ。
 一人で突っ走っていく態度は好きじゃない。
 私は降りさせてもらうわ」


そう言い置いて、部屋を出て行ってしまったのだ。


待って!
そう言いたかったのに、舌が回らない。
更叉は出て行ってしまった扉を見つめた。

本当に…?

本当に…いきなり…バルドゥがいなくなってしまった?

そのことを考えた途端、心が切り裂かれるような痛みを覚えた。
一緒に計画を立てて、一緒にここまで、あと一歩のところまできたのに!?
イヤだ!
失いたくない!


でも、どうやったら引き止められる?

どんどん頭痛がひどくなり、座っているだけでも辛くなってきた。
だが、更叉は頭を抱えながらも、必死で考えた。

なぜ彼女が怒ってしまったのか。
自分の悪いところは…
どうしたら良いか…!!!

 

10分後、決意をして更叉は部屋を出た。
追いかけるのだ。バルドゥの家まで。
マニュアルを作成したって、彼女がいなきゃ意味がないのだ。

タクシーを拾えば、5分で彼女のマンションまでいける…!

 

 

ガチャ。

玄関を出ると…

 

帰ったはずのバルドゥが、立っていた。
出てきた更叉を見て、冬の寒さに震えながらもバルドゥは嬉しそうにニンマリと笑った。

「来てくれると思った」

そして、また家の中へ逆戻り。


暖房のつきっぱなしだった部屋まで戻り、とりあえずベッドに座る。

「何を言いたくなった?」

その途端、更叉の凍りついていた表情がみるみるうちに崩れて涙があふれた。

「…ぃで…」


イカナイデ。


それを言ってからは、言葉にならなかった。

バルドゥにしがみついて、わぁわぁと声を出して泣きじゃくった。
普段はしっかりとしていて、昔から大人びていた更叉がこんなに泣きじゃくるのは見たことがない。

そんな様子が切なくて自分も泣きたくなりながら、行かないでと言ってくれたことが嬉しくて、バルドゥは抱きしめて更叉をなで続けた。
彼女が落ち着くまで。


それから、話した。


やめる、と本気で言ったわけではなかった。
「手伝って」と一言言えば喜んで手伝うのに、いつまで経っても言わないことに対して腹を立てたのだ。
熱で倒れそうになっているくせに。
この期に及んでも、意地を張る。
だから出て行った。
きっと引き留めに来てくれると思い、それに賭けたのだ。

これが荒療治になって、考えを改めてくれると。

 

優しく話すと、うん…うん…と更叉は頷いた。
10分間考えて、考え抜いて、彼女もそれに気付いたのだ。

ちゃんと言いたいことわかったから…私が悪かったから…


「じゃぁ、ちゃんと言って」

「…ご…めん…。手伝って」

「ゴメンは余計だけどね!もちろんよ」

ぺちっと余計なこと言った罰に、立ちあがった更叉のお尻をはたくと、更叉はびくんとした。

「いたぁい〜(><)いたーい…」

軽くはたいただけなのに、痛がる更叉を見てバルドゥは嘆息した。
これは…本格的な発熱だわ。
皮膚が過剰反応してる。


「もうすぐ、睡蓮がさぁらとじょん連れて帰ってくるから。
 そしたら、2人でやるから。
 何か指示があったら今のうちに言って、もう寝なさい?」

「う…うん…」

「熱を測って、薬飲んで、明日もひどくなるようだったら病院に行くこと」

「…」


ぺちん!

「いたぁい!」

「返事は?」

お尻を追加して叩くと、更叉は音をあげた。

「わかったぁ!わかったから…もうイタイ…」

「わかればいいの♪」


更叉はマニュアルの続きの指示をすると、寝る支度をし、熱を測った。
38.4度あった。

「あぁ、こりゃ辛いわね。氷持ってきてあげるから」

バルドゥは市販の薬をとりあえず飲ませ、更叉を寝かしつけた。
髪を撫でていると、疲れも手伝ってか、すぐ寝付く。
熱にうかされた顔はいつもよりもずっとあどけなく、子どもに対するような気分で看病していると
睡蓮たちが帰ってきた。


「ただいまーなのだ〜!」

「しぃ…お帰り。
 お姉ちゃんちょっと具合悪くなっちゃったから、静かにね☆」

「え、そうなの?大丈夫?(><)」

「大丈夫大丈夫!疲れてるだけよ。
 湯冷めしないうちに、さぁらとじょんも寝なさいね?」

「はぁい!」

「おやすみなさい!」

「おやすみなさい」

いたって素直に、妹たちはそれぞれの部屋に戻った。
彼女たちも、最近の疲れがたまっているのだろう。

ただ私たちは、もうひとふんばりしなくちゃね!

睡蓮は心得た顔で、「何をすればいい?」とバルドゥに囁く。

「マニュアルの続き。店に行ってやるわよ!」

睡蓮がノートPCを持ち、バルドゥが資料を持ち、1階に下りていく。
(家は店の2階なのだ)
起こさないように、そーっと。

 

 


作業は、結局2人で2時間半かかった。

夜中の2時に、終わった解放感からほっと一息つく。
2人は、更叉に任せてたら倍以上かかったであろうことを思って、苦い顔になった。
ほっとけば徹夜してたはず…。

 

「まったく…。水臭いよな」

「そうね。今回は熱出しちゃったけど
 今度からは、無理するその前にとめなきゃ」

「どうやって?」

「駄々っ子にはお仕置きよ」

「なぁ〜るほど!☆」

プライドが高い更叉が、お尻を叩かれるところを想像して2人はクスクスと笑い合った。
これは効くだろう!
良い方法かもしれない♪
(お仕置きされる更叉にはたまったものではないだろうが)

もっともっと、頼ればいい。自分たちを。


それにあと6人、仲間がいるのだ。
これから、ちぁーずを盛り立てていく仲間が!


これから、どんどん協力し合って店を発展させていこう。
睡蓮とバルドゥは、決意した。

 

*****

マニュアル作成も間に合い、更叉も風邪をこじらせることなく、
1月10日ちぁーずは無事に開店した。


初めてのことなので、戸惑うことも多かったが(7話目はそんなお話)
接客が初めてではないメンバーが多く、コツがつかめるのも早かった。

 

「「おかえりなさいませ、ご主人さま!
  ごゆっくりおくつろぎ下さい!」」


 

こうして、元気になった更叉(狼)をはじめ
虎(睡蓮)・豹(バルドゥ)・パンダ(奸奸)・アライグマ(るーた)・
うさぎ(メロン)・猫(さぁら)・ひよこ(ぴょちゃん)犬・(じょん)

総勢9人のスタッフはちぁーずで、楽しんで営業しています♪♪

是非、あなたもお越しください!!


なお…
このちぁーずにはお仕置き制度が導入されているのだが、そのキッカケを作ったのは更叉だということは
年長組だけの秘密である…。

 

 

 

 2011年1月4日

 

はやと

 

1年越しの「ちぁーず」8段。
遅くなって、申し訳ないです(><)
しかもあんまり、スパられてないし!!

でも、更叉だからこれで許して下さい(^^;)
泣くところを書きたくて…で、どう動くかを考えたらこんな話になりました。

今のところ叩き役になりまくってるバルドゥですが、次回は彼女がやられる番ですよ(笑)
やっとこさ、ネタが出来た!

書けるのはいつになるかわかりませんが、がんばって書きたいと思います。

バルドゥまでもが叩かれたら…あとは、パンダの奸奸の番…か。
彼女は良い子キャラなので叩きにくいです(−−;)
あとは…イラストだけのうさぎのメロンも小説にしてあげたいなぁ。

ではでは。
また、「ちぁーず9」でお会いしましょう♪

 

 

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