【ちぁーずへようこそ〜☆☆☆  5】

 

それは、平和な午後だった。

だった…はずだった。

休憩時間におせんべいを食べていた睡蓮は、
「がり。」といういやな音とともに違和感を感じて首をかしげた。

「げっ」

そして、衝撃的な事実に気づき、うめいた。

………

 

 

 


そして世にも情けないような顔をしてため息をつき、穏やかな休憩時間を諦めたのだった。

 


ここはかの有名なアキバ…ではなく、都心からかなり離れた町田。
駅から少し離れたマンション風の建物1階に、「メイド喫茶」ならぬ「あにまる喫茶ちぁーず」はある。
それなりに賑やかな街の一角に、ほそぼそとOPEN中☆
だんだんと人気を博しているところが、侮れない。
あにまる喫茶とはその名の通り、色んな動物たちを真似、コスプレした女性たちが働いている喫茶店だ。

マニアックな趣味を持つ男性客は、こっそり行ってみるも良かろう。
可愛いもの好きな女性客も是非是非どうぞ!
(意外と女性客も多いぞ☆)


クリームイエローの可愛らしい、…色んな動物たちが描かれている扉は、さながらペットショップを思わせる。
犬、うさぎ、猫、パンダ、アライグマ、ひよこ。
可愛らしいものから、豹、虎、狼なんていうのまでいるのだ。

9人のスタッフがあにまる化して、楽しく働く喫茶店、今日も営業中である。

 

 

「更叉、ちょっと…!」

虎の睡蓮はこっそり手招きして、店長兼昔ながらの友達、狼の更叉を呼んだ。

ちょうど注文をとりおわって帰ってきた更叉は、「なぁに?」と近づいてくる。
銀色の尻尾をゆらし、今回は超ミニの黒いワンピースを着ている。

「う…」

だが、呼んだくせに睡蓮は急に歯切れが悪くなった。
気まずそうに横を向き

「やっぱいいや…」

「いいやじゃないでしょ?」

すかさず、更叉がツッコむ。

彼女にはピンときた。
友達のクセ。
困った時があると、言いたいのに言い出せなくなるのだ。
高校時代から既に170センチ以上あり男勝りな睡蓮は、
人に頼られるのは慣れているくせに、自分はなかなか人に頼れない。
やきもきした友達連中からつっつかれて、やっと白状する。
その繰り返しだった。

「なんか困ったことあったんでしょ?」

「ぬー…」

「いいから!」

「ここまで呼んだんだから、素直に吐きなさい」

かぱ。。

観念して口を開いて指差した先は、欠けた奥歯だった。

「欠けちゃったよ…」

「あーあ、こりゃ酷いわね…!」

左奥歯の1本の半分が切れてぎざぎざしている。

「これは歯医者に行くしかないでしょ」

「え〜〜〜〜…?」

睡蓮は思いっきり顔をしかめた。
病院という病院がキライなのである。薬も飲みたくないし、病気になれば寝て治す。
中でも、幼少時にイヤな思いをした歯医者は大嫌い…。

「ゃーだー」

「やだじゃない!」

彼女の髪の毛をつんつんひっぱり、急に甘えだしてくる友達に苦笑しながら更叉は言った。

―――もう、こーゆーときだけ甘えっこになるんだから…

「やだったらやーだー!」

「だめ。このままほっといたらダメだってことは睡蓮もよく知ってるでしょ?
歯がもっと欠けちゃって困ることになるでしょ?」

「やだ!サラのばか〜、いぢわるー!」

今度はぎゅーっと抱きしめてくる。

普段はちぁーずの年長者として更叉、豹のバルドゥと共にしっかりと店を守っている睡蓮だが。
ここは2人きり☆☆☆
同い年の更叉とバルドゥといるときだけ、時々こうやって子どものようになる。
こんな姿は、絶対に他の年少のスタッフには見せない。
甘えてくれるのは、親友だから。と思うとそれが嬉しい更叉だった…。

が、素直によしよししている場合じゃない。


「こら!ばかとはなんだ☆自分でもわかってるんでしょ?認めなさい!」

「…むぅ」

「10秒以内に離れて、すぐ歯医者へ行くこと?いいわね?数えるわよ…」


いーち にーぃ さーん…

ホントに子どもみたいだなぁ…と思いながら、優しく数を数えチャンスを与える。

きゅーぅ…じゅー!

「さぁ、10秒たったわ。おしまい!」

「………」

「スイ?イイコだから…」

「………」

…ぴったりくっついて離れない。

―――っとにもう(^^;)

はぁ、とため息をついて更叉は無理やり睡蓮をひっぺがした。

「こんなに言ってもわからないようなら、お尻に教えてあげるしかないわね。」

「な!?待て!行く!」

ぎょっとして、慌ててあとずさったが…

「だめ。もう遅い。
言うことが聞けない悪いコにはぺんぺんするのがちぁーずのキマリ☆よ。」

怖い目をして、更叉はなおも言い募った。

「コ…って…。サラ、待て。私が悪かったから」


いつもの睡蓮に戻って、なんとか回避しようとしていたが、更叉はそれを許さなかった。
もちろん本気で怒ってるわけではないが、さっきの子どもごっこの…続きみたいなものだ。

イケナイ子にはお仕置きが必要だから。

休憩室に置きっぱなしになっていたヘアブラシを手にとると、ソファーへ誘う。
嫌がる睡蓮だったが、こうなるともうどうしようもないことが分かったのでしぶしぶソファーの肘掛のところに手を置く。

カタチの良いお尻が突き出された。

そのまま叩こうかと思ったが…パンツからぷらんと虎の尻尾が垂れ下がってる。

―――邪魔ね☆

そんなわけで、深緑のパンツも下着ごと引き摺り下ろす。

「ぅぁ…!」

風を感じてか、睡蓮が呻いた。

―――まじかよ…(^^;)

「ちょっと甘えただけじゃんかよ〜」という思いと、
やっぱ歯医者行かなきゃダメか…という気持ち、痛みへの恐怖が交錯し、複雑な気分だ。

更紗はちょっと、どこから叩こうか迷い、右のお尻の真ん中から手始めに叩くことにした。

(ちなみに年少組をお仕置きするときは平手だけだが、年長組だと道具も登場する。)


ペシッ!

軽い音だったが、突き出され肌が張った状態にヘアブラシはきつい。
すぐにひりひりした感触が、睡蓮を襲った。

続いて、左。

右…右…左…

バシッ

バシッ

バシッ

ビシッ!!

―――う〜…痛い…!

ぎり。と力を入れて肘掛をつかみ、必死で耐えようとする。

痛みのあまり腰が引いて、突き出しているはずのお尻が逃げてきてしまうが…

また位置を直され、逃れられないようにされてしまう。


辛い…

辛い…!

けど、叫ぶわけには行かない…!

防音性はあるにしろ、扉の向こうには通常営業「ちぁーず」。
お客さんだっているし、何も知らない他のスタッフが働いている。

 


唇をかみしめて、顔を時折振って…

金の短い髪が乱れて、目元を隠した。

次第に息遣いがあらくなってくる。

数こそ多くないが、ヘアブラシの重くて固い面で叩かれると衝撃が強い。

熱くて、ひりひりした痛みの苦しさでどうにかなりそうだ。

 

「ゃ!」


ついに小さくだが叫び声が聞こえると、更叉は叩いていた手を止めた。

お尻は全体的に桃色に染まって、ところどころ濃く赤くなっている。

「なに?」

「ゴメンナサイ。もう限界。痛い。許して欲しい」


目を瞑りながら、神妙に、かつ自分の要望をストレートに伝えてくる。
また更叉は笑いそうになった。

―――しょうがないコだわ、ホントに!

目を細めて、ケナゲに突き出ているお尻を愛おし気に撫で、更叉は言った。

「じゃぁ、あと10回。本気で行くわよ」

腿とお尻の間の敏感なところをめがけて、さっきよりも力をこめて打ち下ろす!

ビシィ!!

「ぁぐぅ!」

激しい痛みで立っていられない…!

たまらず、手を離し、ソファーへ倒れこむ。

肘掛がお腹にくるような感じだ。
お尻はさっきよりも上向きになった。
仕方ない、と思われたのか、体勢を変えるように指示はされなかった。

たった10打なはずだが、やられてみると、ひたすら長い。

力が増して、否が応でもとんでくる攻撃。

手を出してかばいたい!
思いっきり悲鳴を上げられたらどんなにか楽だろう?

早く終わってくれ!!

そんなことを思いながら「あと少し」という希望と、「年長者としての意地」で、声を出さずに耐えきった!

 

…ベシィ!

と最後の一撃が終わると、「ふーーーーーーーーー…」

一気に脱力。

しばし、ソファーの上で放心状態に陥った睡蓮だった。

 

しばらくは熱くてジンジンするお尻の痛みをガマンしつつ息を整え、乱れた心を落ち着かせることに専念した。

更叉は黙って頭をなでなでw

お尻もなでなでww

 

「あー、『活』入ったわぁ〜…さんきゅー…」

落ち着いた後は、ちょっと照れくさかったからまだつっぷせたまま、顔は見ずに言った。
更叉もにこっと笑って言う。

「いえいえ、どういたしまして。気合入ったかな?」

「うん。ダイジョブー」

にっと笑って、睡蓮は起き上がった。
パンツ直すのってなんだか、ナサケナイよな〜…と思いながら、身支度を整える。

「歯医者行ってくる。あと(店)のことは頼むわ」

「いってらっしゃいwイイコね(^^)頑張ったらご褒美あるからね♪」

「うん。」


さっきの時間がうそのように、おだやか〜に笑いあった。

そして、更叉は接客に戻り、私服に着替えた睡蓮は歯医者へ。

 

虫歯が少しあったためにもろくなっていたらしい。
奥歯だからせんべいをかみ締めた力で、欠けてしまったようだ。

ぎざぎざしているところを削り取られ、型抜きをされ…

欠けた部分には銀の詰め物をしなくてはならないのだが、その日のうちには終わらないようだ。

ついでに他の虫歯の治療も。

なによりも、苦いような酸っぱいような薬品が苦手なのだが、
肝心のびびっていた麻酔や痛みのほうは、お尻の痛みの方が勝りなんともなかった☆
覚悟をきめたぶんだけ、拍子抜けするほど。
また詰め物をしてもらうために通院しなければならないが…

でもさっきよりも、イヤじゃない。

痛みには痛みで勝負すればいいのかな〜

あんなにイヤだった歯医者だったのに、あの辛い痛みの後ではたいしたことないではないか(・∀・)♪


―――サラに感謝だなw

なんて思いながら、一通りの治療を終えてちぁーずへ帰ってきた睡蓮だった。

 


「おかえりなのだ!」

「どしたの?」

他のスタッフが、にこにこと出迎える。

「ちょっと歯医者に行ってきたんだ」

こともなげにいうと、誰にも気づかれないようなウィンクをして更叉も「おかえり」と言った。
そしてこっそりと耳打ち。

「ご褒美が冷蔵庫に入ってるわよ」

「♪」

睡蓮がにまっとしたその時、

  ちり〜ん♪

「あ、おかえりなさいませ〜、ご主人様〜vvv」

客が来店した。
そろいに揃ったスタッフがにこやかに挨拶する。

「ちぁーずへようこそ〜♪」

ご褒美を楽しみに歯の憂いもなくなったので、ゴキゲンになった睡蓮が輝くような笑顔を見せた。

さぁ、閉店まで残り4時間。がんばろう(^ー^)
 

はやと

2008年02月28日(木)

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