【ちぁーずへようこそ〜☆☆☆  3】

 

その変化に気づいたのは、その店のマスターでもある更叉だった。


「へんねぇ…クッションが一つ足りないわ」

お店…あにまる喫茶ちぁーず。

動物の格好をした女の子たちが給仕をしてくれる、萌えを追求した喫茶店だ。
その店の椅子、一つ一つに付いている薄いクッション。
それを陰干ししていたのに、一つ見つからないのだ。

ちぁーずは1階。
裏に干しておいたのだが、盗まれたのだろうか…

念のために、店のスタッフ全員に聞いてみたがやはり「知らない」という答えだった。


次の変化は、冷蔵庫の中に現れた。
たった今あったはずのケーキが2つ見つからない。
オレンジジュースのパックもなくなった。
サンドウィッチに入れるサラダも少し減っていた。
閉店した後ではない。
開店前の少し閑散とした雰囲気のとき。
スタッフがトイレ掃除やゴミだしをしているときに、確認したはずのモノが消えているのだ。

「おかしいわねぇ…」

クッション1つなら、裏口から忍び込んだオタクが記念に持ち帰ったかもしれない…
(そういうことが以前にもあったので)、と納得できるのだが、食料品は不可思議だ。
しかも、全部ではなく1部だけ。

…ミステリーだわ。

それが昨日、今日の出来事☆

続いてきたので、流石に眉をひそめる。

…誰かナイショで犬猫でも拾ったかしら。

そう考えたとき、くすっと更叉は笑ってしまった。
思い出し笑いだ。

 
 ★8年前のこと。
更叉たちの両親は、もともと普通の喫茶店を営んでいた。

ペットが禁止のアパート暮らしだったこともあり、動物が飼えない。

でも、大の猫好きのさぁらは、捨てられていた猫がかわいそうでかわいそうで…。

昔から聡かった彼女は店の事情を窺ってか、「飼いたい」と言い出せずに、まず隠して飼おうとした。
それで、喫茶店や家の冷蔵庫から、牛乳やら魚やらをこっそり取っては猫にやっていた。

まぁ、お約束とゆーか、なんとゆーか。

数日後にバレて、隠れてそういうことをしていたことが原因でお仕置きされたわけだ。
母親の膝に乗せられて、スカートの上からだがお尻をぶたれて、さぁらは泣きじゃくった。
母親も苦笑交じりだったから、多分そんなに痛くなかったはずだが、
「ネコちゃん…ネコちゃんがぁぁぁ」と言ってたから猫の行く末を気にして哀しくなったのだろう。

そんな、妹が可愛くてまたかわいそうだったので更叉も協力し、飼い主を探してあげた…
そんな出来事があったのだ。
ちなみにその猫は、その時からすでに友人だった、ちぁーずでは豹のコスプレをしているバルドゥが飼うことになった。
「リィ」と名づけられた猫は無事に成長し、可愛がられてのんびり暮らしている。

 

そういうことがあったのだが、消えているのはオレンジジュースにケーキ。
動物とは無関係だ。
それに全メンバーに聞いてみても、まったく知らないという。
それはそうだ。

理由がないのである。


消えたものはささやかなものであるが、このまま続くとなると薄気味悪い。
開店して、お客も入り始めたので、更叉はメモ書きをして皆に読んでもらうことにした。

「昨日、今日と食料など消えるものがでてきました。
 在庫確認はしっかりして、なるべく変わったことがないか、変わった人がいないか少し気をつけてみてください」

みんなが、頷き、了解の様子。

「いらっしゃいませ〜〜!!」

「ご主人様、2名様ですね、来てくださって嬉しいです…w」

「こちらへご案内しま〜すv」

さぁ、午後2時。忙しくなってきたようだ。


しばらくは、何事もなく、普通に過ぎていった。

虎の睡蓮は執事のようにうやうやしく女性客に仕えているし、
パンダの奸奸はとろけるような笑みを浮かべて帰る客に手(パンダだからモコモコしてる)を振っている。
狼の更叉はもっぱらカウンター越しのお客を歓待しているし、
豹のバルドゥは腰を優雅にくねらせ、ちょっと好色そうなオジサンの目を楽しませながら注文をとっている。
アライグマのるーたはちょうど来た客を案内する。

平日の午後は、あとのメンバーの学校が終わるまでこの人数で行っている。


「ただいま(^^)」
5時。
ぞくぞくと学生メンバーが帰ってくる。
学生は、犬のじょん。
ひよこのぴょちゃん。
猫のさぁら。
うさぎのメロン。
16〜20歳までの4人だ。

最後に帰ってきた、メロンは一人ではなかった。

「すいませんね〜…」

気弱そうな、眼鏡をかけひょろりとした中年のおじさん。
いかにもうだつのあがらなさそうななりだが…

「まぁ、大家さん!」

更叉が声を掛ける。

そう。この人は、1階のちぁーずとその2階を家としている木更津姉妹の大家なのだった。

「お席にご案内いたしますね…ぴょんv」

メロンが気を利かせたのだが、大家はなんだかおどおどして
「いや客でなくて、木更津の上のお嬢さんに用が…」とモゴモゴと言っている。
その様子を見て、更叉はスタッフルームに通した。
その方が気兼ねなく話せるからだ。

「どうしたんですの?大家さん。」

お茶を入れながら話すと、椅子に座って俯いた大家はうつむいた。

「実は…」

「ハイ?」

「娘のみやこ(都)がいなくなったんです。」

「えぇ!?」

「家出した!…んです!!私が約束を破ってしまったから…」

大家は苦悩したように、ぽつりぽつりと話した。

「日曜日に遊園地へ連れて行く約束をしたのですが、急に仕事が入ってしまい…
訳を話したんですが納得いかなかったようで…。
月曜日に仕事から帰ってきたら書置きがあって…。
『さがさないでください』なんて書いてあったんで…
様子を見ていたんですが、昨日の今日まで本当に帰ってきていないんです!!」

「それは…」

更叉は、みやこのことを思い出した。
父と比べて…と言っては失礼だが、はきはきして明るい可愛い子である。
父子家庭であるためか、年の割におませのところもあるようだ。
手続きやら、設備の打ち合わせ等で大家のもとに訪れた際に何回か遊んだことがある。
年は小学校3年生くらいであろうか。
その子どもが「さがさないでください」と書いたのを律儀に守るのもどうなのよ?と思ったが、
顔には出さず、まずは優しく慰めた。

「それは心配でしたね…。でもどうしてここに?」

「友達にもあたってみたんですけど、皆知らないって。
でも、その中の一人が気になることを言っていて。
動物のおねーさんのところに行くってみやこが言っていたそうです。」

「ぇえ!?」

動物のおねーさん。すなわち自分たちのことではないだろうか。

心当たりはない…心当たりは…ない!?

―ある!!

「それですわ!!」

「え!?」


弾かれたように顔をあげた父親に、気になる昨日から起こった奇妙な変化を告げた。

「多分、みやこちゃんがこの近くにいるんですわ。」

「そうですか…良かった…無事で!いや…ご迷惑を…」

「いいんですよ、でもここまでしているってことはまだ帰る気はまだないみたいですね…。」

「あぁ、どうしましょう!私が悪いんだ!」

「そんなことありませんわ。…まずは…こうしましょう…」

また悩み始める、大家に更叉は話した。
本人を無事に保護することがまず第一。
話はそれからだ。
そのためには…


=おびきよせ作戦=

20時。
今日だけは待ちに待った閉店時間。

薄暗いが、電灯は一つだけ灯しスタッフ全員「お疲れ様〜、さぁ、お食事にしましょう」
…云々賑やかに言いながらスタッフルームへ消えていく。

しばらくの沈黙。

そぉっと…

わざと鍵をかけなかった裏口の扉が開く。

ゴソゴソ。

何者かが…って大家の娘、みやこだが、四つん這いで入っていく。
シンクの上にお皿があり、おにぎりやから揚げやアメリカンチェリーが乗っている。
四つん這いじゃとれない。
そーっと立ち上がってお皿に手を伸ばした時……

「つっかまえ〜た♪♪」

!!!

ひょいっと、身体が持ち上げられた。
慌てて身をよじると、睡蓮がニンマリ笑った。
扉の陰に潜んでいたのである。

「ゲームセットだよ、お嬢ちゃん」

「やぁ!」

「み、みやこぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!」

スタッフルームからすっとんで大家が飛び出してくる。
他メンバーもぞろぞろ出てくる。

「おょw」

睡蓮からひったくるようにして、父親はみやこを受け取り、しばらく抱きしめて離さなかった。

「みやこぉぉぉぉぃ、心配したよぉぉぉぉぉおお!!」

感動的な光景…と言うべきだろうが、そうはならなかった。
肝心の娘が、醒めているのである。

「フン。あつくるしーわね!パパ!離してよ!!」

「?」

「怒ってるんだから。探さないで!」

ぷん!と擬音が聞こえてきそうな程、首をそむける。
全く持って可愛げがない。
ちぁーずの皆は、しばらくあっけにとられた。

小学校3年生が1昼夜…外で野宿して…いくら夏だからって。
怖くなかったのだろうか???
しかも、こんな態度をとるなんて。

それは父親も同じだったようで、目と口がO型に開いた。

「みやこ…パパは心配したんだよ?皆にも迷惑かけて…」

「聞かない!遊園地行くって言ったのに、あんなに約束したのに破ったのパパじゃない!」

「それはパパが悪かった…けど!何回も謝ったよ?それにこれはやりすぎじゃ…」

「知らない!!」

「みやこ…」

「アンタのせいだからね!アンタのせいで見つかっちゃったじゃない!!」

びしっと指差して、睡蓮にも怒りをぶつける。

「バッカじゃないの?そんなマヌケな金髪にして、虎の服なんて着ちゃって。
学校でもそんなおかしい人いないわよ!!」

「い…」

「いいかげんにしろ!!!」

言われた睡蓮は、返って面白がってしまうので、ニヤリと笑っている。
代わりに更叉が見かねて口を開くのと同時に、それまでおろおろしていた大家が怒鳴った。

「みやこ!いい加減にしなさい!!」

ビク!!

流石の娘も、その剣幕にびっくりした。(とゆーか全員びっくりした)
身体が震える。

「ふ…ふんだ!!パパなんてだいっ嫌い!!バカ!!」

捨て台詞を吐いて逃げ出そうとするが、すかさず腕をまわして腰を引き寄せられた。

「や!やだ!ヤダヤダヤダヤダ!!!」

拳をふりあげもがくが、抱き上げられたら無力だ。
しっかりと抱き上げて、必死の面持ちで大家は言った。

「椅子お借りしますね!!」

「ど、どうぞ…」

スタッフが見守る中、手近な椅子を引き寄せて座り、娘を強引に膝に落とす。
スカート…スパッツが付いている可愛い子供服とパンツを一緒に脱がせる。

   あ。

これから何をするのかは、誰の目にも明らか。

微妙な顔になって、ちぁーずメンバーはとりあえずは父親に任せることにした。
出入り口に座っているので通るに通れないし。
うん。しつけだ、しつけ。
虐待、というわけではないし。
…それに少女はそれだけのことをしている。


ぱぁん!!

予想通りの、乾いた音が響いてお尻が揺れた。

「きゃ!!」

身体もはねる。

ぱん!ぱん!ぱん!

「やだ!やだ!」

父親の掌から逃れようと、もがくが、小さいお尻は逃げ場がなくあっという間にまた叩かれる。
連続して10回。
お尻がピンクにそまって、みやこの目から涙が浮かび始める。

「お前は泥棒したんだぞ!そのことを謝りもしないで、なんて失礼なことを言うんだ!謝りなさい!!」

「あぁ〜ん、やだぁぁぁ〜!!」

「言わないと、ずっとお尻が痛いままだぞ?」

「やーーーーん!!!」

ぱん!!
ぱん!!
ぱん!!


かなりの力が入っているようだ。
痛そうな音と悲鳴が響くので、普段お仕置き制度があるちぁーずといえども、ほっておけなくなってきた。

「大家さん…もうそれくらいにしたほうが…」

「いいえ!こんな悪い子になってしまって…。今日という今日は謝るまで許しません!」

ぱしぃ!!

目の当たりにしている、メンバーは居心地が悪くてしかたない。
…早く謝って!!謝ればいいのに!!
祈るような思いを抱いていると…

やっとのことでみやこが、小さい小さい声で「ゴメンナサイ」と言った。

「聞こえない!もっとはっきり言いなさい!」

ぱぁぁぁん!!!

「ごめんなさぁぁぁぁい!!」

堰を切ったように、そっからは涙涙…だった。
堪えていた分が噴出したようだった。

「あぁぁぁあぁぁぁぁん!! うわぁぁぁぁぁん!!」

「本当に悪いと思ってるの?」

号泣しているそばでそんなことを聞かれても、言葉にはならない。
ただ、ただ、泣きじゃくる娘を起こし、父親はぎゅーーーっと抱きしめた。
そのまま、しばらく、落ち着くまで抱きしめてた。
ちぁーずメンバーも、父親と同じような気分になったのか、柔らかい目でそれを見つめている。

泣き声が小さくなり、甘えたような声になってきた。

「パパぁ〜パパぁ〜!!」

「うん。うん。ちゃんと悪いと思っているのかな?」

「うん。ごめんなさい。」

「それはあの方に言いなさい。」

「カッコイイおねーちゃん、ゴメンナサイ」

態度がころりと違うのは、子ども故だろうか。
睡蓮にきちんとお詫びをすると、他のメンバーを見回して

「おねーちゃんたち、ごめんなさい」

ペコリと頭を下げた。
あまりにもそれが可愛いので、子ども好きのじょんやぴょちゃんなんか、すっかり目尻が下がってる。

 

「パパ、ごめんなさい。パパ、大好き」

ちゅ。

ほっぺにキスすると、父親はすっかり以前のような気弱なおじさんになってしまったwww

「うん。パパも悪かったよ。今度の日曜は、遊園地行こう。
アイスクリームも食べような」

「やったぁ!!」

「でも、心配するから、もう絶対家出なんかしちゃダメだよ?」

「うん!!」

すっかり、父子が仲直りした様でほっとした空気が流れた。
それもつかの間…

ぐぅぅぅぅぅ


盛大なお腹のなる音がして、みやこは顔を赤らめた。

「オナカスイタ…」

そしてその場は爆笑に包まれる。

「どうぞ、おあがりなさいな」

笑いながら、更叉が先ほどのおにぎり、から揚げ、アメリカンチェリーを勧める。

「はい、ジュースだよ。」

とぴょちゃんがグレープフルーツジュースを入れて置く。

「ありがとー」

人騒がせなお嬢ちゃんも、満足げですっかりゴキゲンになった。

「お世話になりました…」

汗をふきふき、大家もほっとした様子だった。

「いえいえ…」

一件落着☆初夏の夜。
こうして、ミステリーは解決されたのだった。

 

後日

「…ねぇ、あのコどこで寝てたのかな?」

じょんが、姉に聞いている。
少女がどこで夜を過ごしたのか、興味があるのである。

「どうやらね、ウチの倉庫にクッションを置いて寝たみたいなのよ。」

「え!?」

「そう…誰かさん、その日は倉庫に鍵をかけるの忘れたみたいなのよね…」

ヤバイ。じょんの顔がひきつった。

「誰かさんって誰かしらね。
鍵を閉め忘れたなんて粗相するコは、たぁっぷり思い知らせてやらないとね〜…お尻に。」

「あ、用事思い出した!またね!」

そそくさと、逃げ出した末妹を笑いながら見逃してやり、更叉はピンクの便箋の手紙を眺めた。
そこには、

「ちぁーずのお姉さんたちへ。

 この前はごめんなさい。

 私も大きくなったら、ここのお店ではたらきたいです。

 かえるが好きなので、かえるにして下さい。

 またいっしょにあそんで下さい
               みやこより」

と、カエルと虎とねこと女の子のイラストと共にそんなことが…

「みやこも実は、木更津さんたちに遊んでもらったのが嬉しかったようで…
それで今回、家出場所にちぁーずを選んだようです☆(^^;)」
とは大家談。

…ふふ。全く可愛いんだからvv
カエルのスタッフがいてもイイかもしれないわね♪

そんなことを考えながら、更叉はカエルの便箋を用意して、返事を書き始めた。

 

 
はやと
2007年06月27日(水)

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