【ちぁーずへようこそ〜☆☆☆  2】

 

「「「ちぁーずへようこそ〜!ご主人様〜」」」


昼の1時。

町田駅から徒歩5分の、マンション風建物の1階にある喫茶店が開く。
クリームイエローの扉には動物たちが描かれ、さながらペットショップのよう…。
そう。
ここはあにまる喫茶なのだ。

メイド喫茶を想像してもらうと分かりやすい。

可愛い女の子たちが萌えを追求した、動物のコスプレをして給仕してくれる。

狼・虎・豹・パンダ・アライグマ・うさぎ・猫・ひよこ・犬。

9種類の9人のスタッフが、心をこめてもてなす。
じわじわと人気も出てきて固定客もつくようになった。

 

だが、平日の昼間は学校があるため、年少のうさぎ・猫・ひよこ・犬はいない。
ちなみに大学生のうさぎ…メロンは月曜日と木曜日以外は通常出勤できるが。
月曜日は、5人…
24歳の、アライグマのるーたと、パンダの奸奸(かんかん)。
29歳の、狼でありマスターである、更叉・虎の睡蓮・豹のバルドゥのみ。
そのため、落ち着いた雰囲気だ。
年少組がそろうと、きゃぁきゃぁ賑やかだが。

月曜日の昼間は空いている。


「1580円頂戴いたします。ありがとうございます。」

「行ってらっしゃいませ…ご主人様(^^)」

午後2時。
2人の大学生風の男性客が帰ると、店内は誰もいなくなった。


ふぅ。
5人は顔を見合わせて、笑いあう。
週末は目の廻るような忙しさだが、こんな時があってもいい。
客がくるまで、お皿を洗ったり、テーブルを拭いたり、ケーキのストックを確かめたりする。
なごやかな時間だ。

 
    RuRuRuRu…

がちゃ

「はい、あにまる喫茶ちぁーずでございます。

…はい。はい。!わかりました、少々お待ちくださいませ」

「更姐さん、お電話です。松川高校から…」

松川高校とは更叉の妹である、猫のさぁら(18歳)と犬のじょん(16歳)が通っている高校だ。
奸奸が、少し戸惑ったような笑顔で、伝えてくる。
そこからの電話とは…嫌な予感がして若干眉をしかめつつ、彼女は電話をとった。

「はい、お電話変わりました。木更津です。」

「あ、こちら、1年B組の担任をしております、川崎ですけれども…。」


…少しの間話して、更叉は電話を切った。

「ちょっと出かけてきていい?じょんの高校に行ってくるわ。
ほんの1時間半くらいで終わると思うから…」

「大丈夫よ。今日のこのカンジなら、4人いれば充分。
ゆっくり行ってきて」

豹のバルドゥが言うと、他の皆も頷いた。

「じゃぁ、行ってくるわね。後はよろしく!」

更叉はじょんとさぁらの姉だが、年が離れているのでなにかと世話を焼いてきた。
両親は1年前から仕事で外国におり、それからは彼女が母代わりになっている。
故に学校で、呼び出しがあるとすれば、彼女が行くことになるのだ。


今日は…どうやら少し困ったことになりそうだった。
電車で一駅、駅からすぐ。
着くと、進路指導室へ通された。

「失礼します」

「あぁ、わざわざお呼びしてしまいまして、申し訳ありません。」

汗を拭き拭き、初老の学級担任が対応する。
ソファーには、制服姿のじょんがうなだれてちんまり座っていた。
その姿は犬耳をつけてなくても、しょぼくれわんこに見える。

更叉が隣に腰掛けたのを確かめて、担任は話し始める。

・最近、とみに学力が落ちていること。
・宿題忘れが多いこと
・授業中に寝ることが多いこと

高校1年でこれでは先が思いやられる。
そういう態度になってしまうのは、じょんがちぁーずのバイトをしているからではないのか、
ということを担任は思っているらしい。
要するに、バイトをやめたほうが良いのではないか。
ただのバイトではなく、家の手伝いでもあるわけなので、担任は保護者の更叉に話す…ということらしい。

それを更叉は、

「はい…はい…申し訳ありませんわ」

ちょっと哀しげに表情を作りながら、優雅に受け答えをしている。
じょんはそれを聞いて、耳をふさぎたくなった。

 あぁ、もうヤなのだ。
   早く終わって欲しいのだ。
     てか、これが夢ならいいのにぃ…☆

キレイな生徒の保護者に、思わず担任は顔を緩ませながら
「バイトを禁止しているわけではないのですが、今の旭日(あさひ)さんには、ちょっと無理でしょうな。
やはり学生は学業が本分ですから」と言って締めくくった。

「そうですわね…。ちょっと妹と話し合うことにいたしますわ。
私の監督も行き届かなかったのですから…反省です。
早急に態度を改めるようにいたしますので、バイトの件はもう少し待っていただけますか?」


たおやかな態度が、この後どのように変化するか…考えるだに恐ろしい。。。

隣で、旭日…改めじょんは、本気で穴があったら入りたいと思った。
ぺこぺこと頭を下げつつ、2人はひとまず、学校を出た。

 

「まずは帰ってからね」

耳元で、硬質な声で囁かれてじょんは石化した。
いつもは優しいのに。
獲物に飛び掛る寸前の、本物の狼さながらの迫力で言われたものだから、心が冷水を浴びたような気分になる。
無言のまま、2人はちぁーずへ帰っていく。
ちぁーずは1階。
木更津家は2階。
そのような造りになっているから、じょんを先に私室まで追いやって、更叉は一旦また仕事場へ戻った。

「ごっめん、ちょっとゴタゴタがおきちゃったの。
もうしばらくかかるけど大丈夫?」

「ご覧の通り、5人しかご主人様いないからねぇ…
 大丈夫。もうすぐぴょ(ひよこ)やさぁらが帰ってくるし」

睡蓮が心得た顔でウィンクすると、親友の笑顔に安心して店をでる。

――これで、しばらくはこっちのことに専念できる

階段を上っていき、ドアを開け、廊下をわたり、右側の部屋がじょんの部屋。
ぬいぐるみのわんこがドアノブにかかっている。

「入るわよ!」

「や!」

がちゃ。
開けると、ベッドの上でピンクのクッションを抱えながら、涙目になっているじょんがいた。

「ねーちゃん、ごめんなさいなのだ!!」

「…」

「ねーちゃぁん…」

ふーーーーーっ
思わず深いため息をついてしまう。
いつもは元気いっぱい、大きい目にニコニコと笑う顔が愛らしい、と客にも大人気。
そんなじょんが泣くと、いつもとの落差が激しい分、こちらまで胸が痛い。
とても可愛がっている分、思わず叱ろうとする心が揺らいでしまう。

だが。

しかし。

可愛がりが甘やかしになっていないだろうか。

更叉は自問した。

身体を動かすほうが好きなじょんは、働いているときは実にいきいきしている。
それに安心して、勉強などに対してこれまでは全くの放任だった。
それが間違いだったのだろうか。
いや。
高校生なら、自分のことは自分でやる。
それくらいできるようになる力を持たせないと…

 

黙りこくって、しばし考えていると、余計恐怖が増してじょんが悲鳴をあげる。

「ねーちゃん!なんとかいってくれよう…!!」

「じょん…旭日!!もうちぁーずへ出るの辞めなさい!」

「!!!」

「先生がおっしゃったでしょう?勉強してない…宿題も出来てない。
授業中に寝る。…これじゃぁ、バイトは貴女にとって有害だわ。辞めなさい」

「や…ヤだぁ!!ヤダよぉぉ!!!」

耐え切れず、堪えていた涙をぼろぼろ流しながら、じょんは姉へすがりついた。
辞めても、これまで通り会える。
仲良く食事もできる。
けれども、一緒に働いているという連帯感と同じ仲間としての絆が変化してしまうようで、絶対にイヤだった。

「ヤダヤダヤダ!!!ごめんなさい!!
それだけはヤダ!それだけはやめて!!!」

腕を組んで立っている更叉の顔は険しい。

…心が揺らいでいるから、あえて厳しい態度を作るのである。

どうしようか。どうしようか。
辞めろ、と言って、辞めさせるのは、彼女にとっても辛いのだ。
でも、それではじょんのためにならない。
迷う。
迷う。

 

仕方ない。

わぁわぁと泣きながら、すがりついてくる妹の手をひっぱり、彼女自身は座ってその膝にのせた。
制服のスカートをめくり、水色のPOPなパンツは下ろして、お尻をむきだしにする。

「やぁ!やだぁ!!」

何をされるのか感づいて、じょんは暴れた。

「暴れない!!!」

ぱぁぁん!!

鋭い声で叱責をして、強めに叩く。
びくっとして、少し大人しくなった。

「貴女がいけないのでしょう?」

ぱぁぁぁん!!

強めだからか、お尻の左右にくっきり手形が残る。
それには構わず、その上から、下から、真ん中から…と色を重ねていく。

ぺん!!ぺん!!ぺん!!ぺん!!

「ぅぐっ…!」

「痛いのだ!!」

「あぁ〜ん!!」

じたばた じたばた。
もがいても、じょんは無力だ。

  ちぁーずを辞める!?
    絶対ヤなのだ!!
      なんでもするから!!それだけはやめて欲しいのだ!!!

でも、姉は相当怒っている。
普段の粗相のお仕置きのときとは比べ物にならないくらい。
本当に辞めさせられるかもしれない…

絶望感がこみ上げてくる。
大好きな仲間。大好きな職場。

「だぁ!!ヤだよぉ…」

お尻の焼けるような痛みと、胸の切り裂かれるような痛みで、涙があとからあとからあふれてきた。


ぺん!ぺん!ぺん!!ぺん!!

「ごめんなさい!ごめんなさい!!もうしません!!」

「ちゃんとやります!!やるから、もう…!!」

「ちぁーずはヤダ!辞めない!の!」

「お願いなのだ!!許してほしいのだ!!」

「うわぁぁぁぁぁん…」

たくさんたくさん、叩かれて、お尻は真っ赤。頭は真っ白。

永遠に思えるような、時間が過ぎた。

いつしか暴れる気力もなくなり、くたっとしたわんこを抱き上げ、
更叉は幼いころにいつもそうしていたように膝の上に座らせた。
ぎゅっと抱きしめて、耳元で囁く。

「反省したの?」

ぶんぶん。

首を縦に振る。
すごい勢いで、声にならない返事が帰ってきた。

「ちぁーずを辞めたくない?」

うんうん!!
涙を拭きながら、力いっぱい頷いている。

「ならば、どうすればいい?」

「…勉強頑張る」

「それと?」

「…宿題やる」

「それと?」

「…授業中に寝ない」

「約束できるの?」

「…ん。」

また涙がころん、と落ちた。
本気で反省したらしい妹にほっとして、抱きしめる力をこめる。

「あのね。勉強が嫌いなら、仕方ないの。でも、努力するのを全く諦めているのはゆるさないわ。」

「特に授業中に寝るなんて、全くやる気がない証拠よ!」

「宿題も、出さなきゃいけないものなのだから、ちゃんとやりなさい。
自分だけ逃げるのはずるいことよ。分からなければ、皆教えてあげるから。」

耳元で、だんだん声の調子をやわらかくしていく。


「今回だけ、許してあげるわ。お店を辞めたくない気持ちも分かるし、私も皆も貴女がいなくなるのは辛いもの。
いつまでたっても変わらなかったら。今度は泣いてもダメ。許さないからね。」

「はい…もうしないのだ」

「よし。イイコね…じょんなりに頑張っていれば、ねーちゃん何も言わないわ。
頑張ってるってことが大事なんだから。ね?」

「ぅん…」

「あーあ、ぐしゃぐしゃだ(笑)」

確かに鼻水も涙も出ていて、おっきい目は泣きすぎて腫れている。
パンツは足元に転がってるし、お尻はまっかっかでそのまんま出てるし、傍から見たら、かなりマヌケな図だろう。


――馬鹿なコほど可愛いってこのことを言うのかしらね

苦笑しながら、髪を撫でて更叉はそんなことを思った。


「今日だけはガマンして、謹慎していなさい。その顔で出られたらお客さんびっくりしちゃうし。
明日先生にもう一度話してあげるから、宿題をちゃんと済ませとくのよ」

「ハイなのだ…」


がっくり肩をおとして、落ち込みながらも、じょんはほっとしていた。
良かった…最悪の事態だけは避けられた…。
おべんきょ…頑張るっきゃないのだ☆


お尻…熱くて痛い(;△;)

自分のお尻じゃないみたい。

鏡にこっそり映してみたら、全体が真っ赤で、ところどころ色が濃くなってる。
蚯蚓腫れのようにぷくっとなってる。

先ほどの過酷なお仕置きを思い出して、はぁぁぁぁとため息が出た☆

 

 

「「「行ってらっしゃいませ〜…ありがとうございました〜」」」

午後8時、最後の客を送り出し、閉店☆

いつもは9人のはずが8人で、元気印のわんこがいない。
それがちょっぴりサミシイ。
特に、ぴょちゃんはじょんと仲良しなので、気にかかってる様子だ。

夕食を食べるときになって、やっとじょんも合流。
少し落ち着いた様子だったが、やっぱりまぶたは腫れているし、動きがぎこちない。

…これはお尻が痛いせいだと思われる。

何があったか、一目瞭然だったが、皆何も言わない。

いつも通り、の雰囲気。

くしゃっと髪を撫でて「さ、メシにしようぜ!」と睡蓮が誘う。

「ここ空いてるよ」と嬉しそうにぴょちゃんが席を勧める。

「はい、カレー、ラッキョ抜きwww」奸奸がカレーを持ってきてくれて、さぁらがじょんのマグカップに牛乳を入れる。

他の皆もニコニコしている。


その雰囲気が温かい。

ほっとして、じょんは、心底嬉しくなった。

やっぱ、ココが好き!

 


その後のミーティング時に、更叉は言った。

「学生である、メロンちゃん、さぁら、ぴょちゃん、じょんは、学校のことを優先してもらいたいの。」

心なしか全員姿勢を正して、聞き入る。

「働きながら、勉強するって大変でしょう?でも、やることはちゃんとやってね。
じゃないと、楽しく出来ないわ。だから、バルドゥと睡蓮と相談して決めたの。
新しい、ちぁーずのキマリ☆」

「宿題や勉強でわかんないとこあったら、他の人に聞くの。
モチロン、得意不得意あるけど、これだけ人数いるんだもの。なんとかなるよ。
だから、学生じゃない人も、協力はしてあげてね。」

「宿題忘れは、粗相と同じ。お尻ぺんぺんするからな!」

年長者3人が見渡して言うと、「はい!」と真面目な顔で返事をする年少者である。
特に今回身に染みているじょんは、必死だ。

・宿題忘れはお尻ぺんぺん
・授業態度が悪くてもお尻ぺんぺん
・1週間に1回は、勉強会を開く

こんな規則、他の店じゃ絶対ないだろうな…
お店関係ないし…、でも。
家族のように仲のよいちぁーずだからこそ、だ。

「さ、真面目な話はこれでおしまい。
明日も、お疲れのご主人様たちをあったかくもてなしてさしあげましょうねv」

「は〜い!!」
「おつかれさまでした〜!!!」

夜10時。
ちぁーずスタッフが解散する。

 

 

**************

〜〜オマケの後日談


「いらっしゃいませご主人さ…ぁあ!?」

「いらっしゃいませ、お席へご案内いたしますv」


土曜日の午後3時。
唖然としているじょんを尻目に、涼しい顔で彼女の姉と彼女の担任は窓側の席へ行った。

「いつもどおりにしてればいいんだよ」

とバルドゥに言われ、「うん…」とまだ固まってるじょんだが、単純なので少したつと、またいつも通り笑顔で接客していった。

「ケーキ…レァチーズケーキとコーラになります!わんわん!」

「きゃぁ、可愛い〜v本当にいぬみた〜い♪♪」

「いぬなのだ!わん!」

OL風の「女ご主人様」に愛でられて、嬉しそうにニコニコしている。


「やっぱり、あのコはここが好きみたいで…」

「そうですなぁ…なかなかてきぱきと働いているようだし…正直言って驚きました」

「最近のあのコの様子はどうですの?」

「やぁ、見違えるほどよくなってますよ。
きちんとノートをとっているようで、この前なんか質問しに来たくらいです。」

「そうですか…ほっとしましたわ。今後もよろしくご指導ください…先生。」

嬉しそうな更叉と担任は和やかに話している。
これで、じょんのバイト生命も延びたようである。

そこへ、「お待たせいたしました、ぴょんv」


髪を2つに結んだロリ風うさぎ、メロンが、珈琲とスコーンを持ってやってきた。
これは店からのサービスである。

「ごゆっくりおくつろぎくださいましねvv」

更叉はそう言って去っていった。

担任は教師の身をしばし忘れることにして、目の前のあにまる萌えを堪能することにした。


――たまにはこんなんもいいなぁ…vvv

 

あにまる喫茶ちぁーず。
初老の真面目な教師も癒します!!
 
 

はやと
2007年06月18日(月)

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