【生徒会VS悪ガキ】

 

 

観光バスが、箱根にある中溝セミナーハウスの駐車場に停まった。

ん〜、やれやれ。

1時間半も狭い座席に座ってると、身体がこるな〜。

伸びをして何気なく窓の外を見ると・・・、
俺はやなもんを見て呻いてしまった。

「んげ!」

「なんだよ?雄也。変な声出して」

隣の席の親友、藤井保(たもつ)が、不思議そうに尋ねる。

「おら、あそこ。見てみろよ・・・。3年の奴らがいるぜ?」

同じような観光バスの扉から、3年生どもがぞろぞろ出てきてやがる。

「あ、ホントだ。やだー、こっわ〜い」

ふざけてる場合かよ、たもちゃん。マジに怖さを知ってるのは俺だと思うぜ?

俺、佐上雄也は1週間前のことを思い出していた。


遅刻して、風紀委員長・二宮先輩にとっ捕まって、生徒会室で生徒会長の千藤にオシオキと称された罰のこと・・・。
次の日も逆らった罪だとかで同様に、罰が加えられたのだ。
その後3日間は痛みが消えなかった。

やっといつもの生活が戻ってやなことを忘れかけた頃だと言うのに、
一番会いたくない、千藤、副会長の三村のやつの顔が見える。

なぜだ!?

今日は1年生親睦会。

学校のセミナーハウスで、仲良くなるためのレクリエーションをしたり、体験学習をして1泊するのだ。
だから、1年生しかいないはずなのに・・・。


「あれ、なんだお前聞いてなかったの?」

突然、後ろの席の彰介が身を乗り出してきた。

「3年生もこの親睦会には参加するんだよ。色々、3年生の立場からも後輩を指導するために。
あとは・・・、受験モードに入る最後の楽しみってとこかな。先生が言ってただろ?」

が、が〜〜〜〜ん(古!)

聞いてねええええ。
振り返ってたもちゃんを見ると、これまた驚いたように首を振っていた。
あ、授業中寝てやがったな?おめー!
こいつも親友だけあって俺と良く似ているわ。
ちっ、しょうがねえ・・・。なるべく目立たないように行動するのみだ。
千藤と三村と顔をあわせないことを祈りつつ。

でも・・・二宮先輩なら喋りたいかも・・・。

誠実そうな二宮正治先輩にあの1件で憧れか、好意かよくわからないけどそんな感情を覚えたから・・・。

 

まあ、少しのアクシデントはあったが後は予想通り、楽しくことが進んだ。

レクリエーションのクイズ大会やビンゴは高校生がやるにしちゃあ、ガキっぽいかも知れないけど、
退屈な授業に比べたらはるかにマシ。
ということで、気の会う連中と心ゆくまでふざけながら参加し、盛り上がった。
体験学習もかったるいとは思うけど作るのは嫌いじゃないので、陶芸も力を込めて湯飲みを作る。
我ながらなかなか上手いじゃねーか♪

なんだかんだ言って楽しんでいる。
交流といっても3年は3年、1年は1年で固まってるので気が楽だ。
このまま何事もなく終わるだろうな・・・という安心感で俺ははしゃいでいた。

しかし、楽しい時間にまもなく変化が訪れようとしていたのである。

 

夕食の片付けが終わって、各部屋(各10人の大部屋だ)に戻る前に1年生全員がホールに呼ばれた。
先生達はいない。かわりにいたのは、3年生・13人。
二宮先輩が先頭に立ち、脇にえらそーにふんぞり返っているのは千藤と三村。
それと10人の知らない先輩だ。
何を始める気だろう、と疑問に思っていると、おもむろに二宮先輩が話し始めた。

「これより、恒例の荷物検査を始めたいと思う。
1年生諸君は速やかに荷物を開けるように。
そんなことはないと思うが、もし見つけた場合、違反品はこちらですべて没収・または処分をする。
部屋ごとに10人、あるいは9人に分かれて、待機しておくように。」

――――うそ!?

頭が、真っ白になり顔の血が引いていくのが分かった。

…俺は、俺は違反品を持ってる・・・。

未成年には禁じられているご法度品・・・酒(缶ビールよん)&タバコ・・・。

慌てて辺りを見回すと、どうも様子がおかしかった。
あきらかに挙動不審にわたわたしてるのは、となりにいるたもちゃんだけ。
後は、表情になんの変化も現れず素直に従おうとする。

うそだろ?
泊まり、とくりゃ先生の目を盗んで夜中に酒をちょっくら飲むのがお決まりのイベントじゃん。
それくらい、今どきの高校生なら皆やる。
俺だってタバコは嫌いだけど、流行の男子高校生のポーズのため1個は購入したんだ。
なのになんで皆、慌てないわけ!?

「おい、お前違反品持ってないの?」

前の彰介に小声で聞くと、逆に驚かれた。

呆れたように彰介が説明するには、前もって先生が説明する時に話していたらしい。

「やべーな、お前。」

同情したように憐れまれ、だんだんと自分がパニくっていくのが分かった。

知らなかったのは俺だけ・・・!?いや、保もだけど。とにかく二人しか居ないのだ。
今更、抜けるのも叶わなくて隠すこともできない。
酒とタバコなんて見つかったら、普通の学校でも停学くらうだろう。
どんな処置が待っているのか、考えるだに恐ろしい☆

「えー、俺持ってきちゃったよ、酒・・・」

たもちゃんが、怯えたようにささやいてくる。
俺も頷くしかなくて。
沈黙しながら、事が露見するのを待っていた。


「!携帯電話は違反だ。明日学校に帰るまで没収する!」

「MDウォークマンも駄目。はい、没収」

「違反じゃねーが、こんなに菓子持ってきて・・・。ガキか!?」

「マンガ・・・はお前、高校生の男が『おじゃ魔女』なんぞ持ってくるな!」

各グループに分かれると、3年生が一人ずつきて検査を始める。
中にはやはり違反物を持ってくるものもいて、こんな声が聞かれる。
取り上げられるのは、携帯電話が多かったようだ。
携帯はなぜだかみんな持ってきてしまうものらしい。

そんな声が上るたびに、俺は少しずつほっとしていく。
皆だって・・・という連帯感が感じられるためだ。
無理やり自分を安心させようと試みたが、気がかりなこともある。

法律で禁じられているものが誰一人出てこないのだ。

自分はやばいものを持ってきたのでは?という不安感が胸を渦巻く。
できることなら何か途中で用事ができるとか、検査が甘くて見つからずに済むとか・・・
と甘い期待を願っていたが、無常にも俺の前のたもちゃんでその期待は破られた。

「ん?なんだこれは?」

驚き、次に面白がるような声。
その知らない先輩は、たもちゃんの荷物の中から
携帯電話・MDウォークマン・缶チューハイを3本取り出し、床に並べた。
そして大声で「せーじ!!」と呼ぶ。
皆の視線を感じ、俺もたもちゃんも赤面してくる。

二宮先輩は、何かを感じたみたいで千藤たちと談笑していた顔を、きりっとひきしめ近づいてきた。

「缶チューハイ?なるほどね。名前は?」

低い声でたもちゃんを見下ろし(背が高いのよ、この人)、ポケットから出したメモ帳に名前を書く。
先輩は

「あとで、101号室(先輩達の部屋だ)に来い」

と告げて、去っていこうとした。

しかし俺の視線を感じたかのように振り返り、思い出したような表情になった。
にやっと微笑み

「お前の荷物は俺がチェックしてやるよ。」

いいです〜、先輩・・・。
しかし、先輩の動きを止められるはずもなく。
一番嫌な瞬間に立ち会ってしまった。

缶ビール3本・タバコ・ライターが次々に目の前に置かれた。

「・・・・・・」

弁解もする余地ないから黙っていると、ため息をつき先輩がメモる。

「お前も101号室へ来い」

冷たく告げて、酒・タバコを取り上げ、二宮先輩は振り返りもせずにまた戻っていってしまった。

呆れたかな・・・怒らせちゃったのかも。

そのことが思ったよりショックだった。


固まった俺と保に構わず、3年生がまた続きの検査をして、荷物検査は何事もなく終わった。

「没収品は学校についてから渡す。没収されたやつは反省文を提出のこと。
以上、解散!風呂は10時までだ。消灯は11時。守れよ〜」

千藤のシメの言葉も、頭に入ってこない。
たもちゃんの蒼白な顔が映る。
多分、俺も同じ顔してるんだ。きっと。
101号室へ行ったらどうなるのか。先生にはばれるのか。
停学くらったら母ちゃんに殺される・・・!

そんなことなら持ってこなきゃ良かった。
いや、授業中の説明を寝なきゃ良かったんだ。
たら、とか、なら、とか仮定文ばっか浮かんできて嘆息する。

典型的な自業自得だ。

 


――――午後9時。
皆が風呂に行っちゃったのを見計らって、俺達の部屋(305室)から保とぬけだす。
皆に散々慰められ同情され、少し勇気がわいてきた。
親友の存在も嬉しい。
しかし足取りは二人とも重く、身体全体が行くのを拒否ってるようにも思える。


こんこんこん


ノックは俺がした。ガチャッと扉が開き、二宮先輩が俺達を受け入れる。
あ、デジャヴ・・・!?同じだ・・・!
なんつって。過去に生徒会室を訪れた時が思い出された。
状況的にはよく似ている。
いるんだろ?あいつらが。

「いえー、来たか☆悪ガキィ!!」

・・・・・・ホラ。

「お前、また来たの?こりねーヤツ!
今度は俺が可愛がってあげようか?秀。」

・・・・・・イイデス。遠慮します。三村センパイ☆


10人部屋だから他の先輩もいるかと思ったが、3人のみだった。
そんな考えを見通したようにヤツが言う。

「他の連中には1時間の外出を頼んだのよ。
うふふ。これで心置きなく泣けるっしょ?」

・・・・・・ゾクッ ちゅーことは泣かされるほど何かをされるんだ。

実はもうここに来る時点で「何」をされるのか予想はついていた。
だが、保は知らない。
2歳上の生徒会長サンと副会長サンのいかれた口調&心底楽しそうな表情にに圧倒されているようだ。
頑張れたもちゃん!

「さて、とせーちゃんは悪いんだけど他の1年坊主の見回りしてきて。煩いようだったら黙らせてちょ〜らい☆」

「ここはきっちり俺らがシメとくから安心しろよなせーじ。」

「ん。頼むよ。じゃあ、行ってくる。」

おいおい、予想外に二宮先輩が抜けたぞ?

最悪・・・☆

 

「まず・・・藤井君。いけないことをしたってのはわかってるよね?」

千藤がいっそ優しいとも思えるような声で聞く。
騙されるな、保!そいつはオニだ!アクマだ!
しかし、凄みを帯びてガンをとばす三村の方がたもちゃんは怖かったらしく、
優し気な千藤に安心したように、話し出す。

「はい・・・。つい出来心で。いけないことだとは知っていたんですが、
一泊するんで浮かれてしまって・・・。すみませんでした・・・」

「およよ、素直なこと。じゃあ、もっとお兄さんの側に来なさい♪」

手招きされると、無防備なたもちゃんは自然に近づいていく。

くるっ

「あっ!」

突然そのまま足元をすくわれ、バランスを崩したところで三村の膝に落とされた。
手馴れた感じで制服のズボンとパンツを一緒におろし、たもちゃんのお尻を出した。

「まさぴー、そのコ素直だから30回くらいでゆるしてやんな」

「あいあいさー!」

軽快に返事をして、三村が勢いよく手の平を上げて振り下ろした。

バシィ!!

「!!」

驚いたようなたもちゃんが、続けざまに打ちおろされる手から逃れようともがく。
三村はあんな顔して力が強いからさぞ痛いだろう。
なんか、見てるだけなのにすごく辛い。
激しくぶつかる肌と肌の鋭い音。
親友が苦痛に涙を流すのを見るのも、次は自分だと思って怖くなるのも。
自分もあんな風に泣くんだと思うと、マジ見てらんねえよ。
目を思わず伏せたら、「佐上、目をふせない!」と怒られた。


バシィ!「17」

バシイ!!「18」

「う、ひぃぃぃぃん、許して・・・」

たとえ、目をつぶっても耳は塞げない。
30回で・・・とは言うが、あんなんじゃ加減なしだ。
十分後々まで響きそうなお仕置きだった。

 

「す、すいません・・・したぁ・・・」

やっと30回が終わり解放されたたもちゃんが、涙ながらに深々と礼をしている。
しかし、俺は・・・俺への罰はまだ残っているのだ。
早く終わったほうが良かったかも。見ていたら怖くてたまらなくなった。

「じゃあ、藤井クンは部屋に帰って反省文でも書いてなさい。行ってよし!」

え?

保が帰っちゃう?
そんな〜!!俺、独りになるの?

急に心細くなった。
たもちゃんは、視線で「頑張れよ」と俺に告げて扉を閉めた。

い、行かないで〜〜・・・

「くすくすvなんて顔してんのゆーやちゃん?」

はっとして顔を上げると、千藤と三村がにやにやしてる

「お前ってほんとお尻ぺんぺんされるの好きね。
これで2週間のうちに3回目か。まだ全然懲りてなかったって事だよ、秀。」

「ほおお、そいつは驚き。躾はちゃんとしたつもりだったんだけどね☆
今日はきつく行こうか。なんたって、タバコもあるし。タバコだけは許したくねーの、俺。
覚悟してネ、ゆーやちゃん」

明らかに、保がいた時よりも気安い口調の二人。
顔なじみだからだろうか。だが状況は良くなったとは言えない。

「3回目だから、ちゃんと自分でズボンとパンツ脱いでこっちきな。
さっきはまさぴーがしたから、今度は俺様ね」

にっこりと笑った千藤だが、有無を言わさない迫力がある。

でも、できるわけねーじゃん。恥ずかしい!!!

無意識に身体が後ずさりを始め、出口のほうへ向かう。


がちゃ

扉が開き、俺はがっしりとした手を背中に感じた。

「に、二宮先輩・・・」

「ちょうど良かった、せーじ。
そいつ逃げ出そうとしたんだ。こっちにつれてきてくれる?」

「・・・・・・」

先輩は深いため息をつき、俺の目に視線を合わせた。

「煙草は、副流煙が周りの人間に害を及ぼす。
それに煙草の火の不始末が一番火災の原因になりやすいんだ。
子どもがいたずらに扱っていいものじゃない。また、若いうちから吸うと成長が止まる。
吸い続けていると病気になりやすくなるんだ。癌の発生率も喫煙者がなる確率が高い。
・・・いいか?俺はお前にそうなってほしくないんだよ」

なんか、保健のような話になっちゃったなあ。
でも俺は、最後らへんの言葉が気になった。

それって、本気でいってんの?
本当に俺のためを思っていってるの?
先輩との付き合いといえば、遅刻して怒られたことしかないよ?
ただの1年生にしか思われてないんじゃないの?


「はい、せーちゃん。ごくろうさま。」

千藤が移動してきてぽんぽんと先輩の肩を叩いてから、俺のほうを向いた。

「往生際が悪いね、坊や☆」

あとは、あっというま。
膝に俺の身体がもたれかかって頼りなく足が動く。

「ビール3本で30発。タバコの罪で50発。あわせて80発。覚悟しな!」

バシ!バシ!バシ!バシ!バシ!

半端ない。
痛みは叩かれるたび大きくなってきて、こんなんで80回も無理だよ・・・・・・!!!


バチンッ 

バチンッ

バチンッ

「い!あうぅ!!った!ひぃ〜」

ビシッ

バチン!

バシィ!!

尻全体が燃えるように熱く、別の身体みたいだ。

「痛いよぉ!」

「そうだよ。
痛みでなきゃ反省できないヤツにはたっぷりとお灸が必要なの!痛くて当たり前!」

バッチ〜〜〜ン

「うっく・・・ふぇぇぇぇぇ」

「泣いても今日は駄目!!回数が終わるまで許さない!!」

「あーーーー、ごめんなさぁぁぁぁい」

我慢ができなくなって、また泣いてしまう。
俺、子どもみたいだ・・・ι

でも恥ずかしいという感情すら剥ぎ取ってしまうかのような痛みに、また泣き声をあげる俺である。


………

…バシィィィィ!!

最高に強烈なのがきて、お仕舞いとなった。

しかし、痛みはその後もジンジンし、とてもじゃないけど歩けそうになかった。
泣きじゃくる俺の頭を、千藤が撫でる。

ひょいっと膝から引き離され、俺の身体が宙に持ち上げられた。

・・・・・・??

見ると、二宮先輩だった。
また、心配そうな顔してる。

「なんで・・・?」

思わず出た言葉に、

「お前は、弟みたいでなんかほっておけない。
頼むから、心配させるようなバカな真似はやめろ。」

目を真っすぐ見つめられて穏やかに言われると、素直になってく自分がいた。

「ごめんなさい、もうしません。」

ふっと笑ってくれ、「イイ子だ」と褒められた。
やっぱり二宮先輩は、俺を心配してくれたんだ。
弟扱いでもいいや。なんか嬉しい。

「おら、お茶。」

前もそうだったが、三村が備え付けの緑茶を入れてくれた。
お前はお茶係か、三村?まあ、いいや。

「やっぱり、まさぴーのお茶は美味しい♪感謝しろよ、悪ガキ☆」

温かい緑茶が、激情を押さえてくれ俺は落ち着きを取り戻した。

 

「じゃあ、もどんな」

「藤井クンも泣いてるだろうからなぐさめてやれば?」

「またな」

部屋に戻ることを許され、扉を閉めて自由を感じる。

長かった・・・。

酒・タバコでエライ目にあったよ。
タバコがかっこいいなんて考えはなくなってしまった。

辛い時間が終わり、俺は二宮先輩のことを思い出す。
いい人だよな。
(千藤・三村は相変わらず苦手だが。)
憧れにも似た思いがまたよみがえってきた。

でも、これはまだナイショ。

はやく、たもちゃんを安心させてやろう!っと。
部屋へ急いだ。

 
 
はやと

2003年12月13日(土)

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