【生徒会VS遅刻小僧】
ガッシャーン
必死に走ってきた俺の鼻先で校門が閉まった。
「はい！遅刻。生徒手帳没収ね」
先輩の無情な声が響き、門の向こうから冷たい視線が突き刺さる。
･･･やばι
「ええ〜！？まじっすかぁ〜？勘弁してくださいよ」
俺は精一杯の哀れそうな声を作り、頼み込む。
「駄目だ！お前これで何度遅刻した！？」
二宮先輩･･･この私立中溝学園高等学校の３年生、
生徒会委員兼鬼の風紀委員長でもある。俺の天敵☆
この学校に入学してから１ヶ月と３週間。
その間に９回も遅刻した俺はこの先輩とすっかり顔なじみになった。
望んだわけでもないけど。
「･･･１０回目･･･デス。」
「そうだ！よく覚えていたな。」
「えへへ」
「馬鹿者！！皮肉も通じんのか」
おっと、漫才している場合じゃない。
９回目に遅刻した時は１５分も説教かまされたのである。
俺はかったるい説教は苦手なんだよ。
あ、自分は佐上雄也、１５歳です。宜しく！！
だいたいにして夜型人間の俺は朝が苦手だ。
昨日も深夜テレビ（妖しいヤツ結構やってるんだよな）を見ていて、寝たのは３時半だった。
しかし、そんなイイワケしても通用するはずないよな･･･☆
「すみません。今日は本当に訳があって･･･。
えっと･･･母！そう母が病気になっちゃって、その看病徹夜でしてたらつい寝坊しちゃったんですよ〜」
内心、ちょっとベタ過ぎたかな･･･と冷や冷やしながら言い訳をしてみる。
「･･････お前の母親は１ヵ月半の間に何回病気になるんだ！？」
瞬間、先輩から怒りマークが大量に発生した。
「さっさと生徒手帳を出せええええええ！！！！」
「ハイィィ！！」
気迫に押されてつい生徒手帳を渡す。
ちっ、俺のおばか☆
過去にも何回かその手を使ってしまったのか。
今思い出したぜι
ふてくされながらそんなことを考えている間に、先輩は没収した手帳になにやら書き込んでから自分のポケットに入れ、
やっと校門を開けてくれた。
やれやれまた説教かい？
覚悟すると意外な言葉が聞こえた。
「さあ、選べ。」
？？？何を？
見上げると、Ｂ４版の紙に「悪質な遅刻者への罰」と大きく書かれていて、
�ヽ惺暫罎離肇ぅ豼歃�
��遅刻した回数と同じだけ、毎朝１時間早朝補習
�Ｃ拗錣靴寝鷽瑤汎韻犬世院�校庭をランニング
�と疹癖検�原稿用紙４枚
�タ�叩き
となっていた。
「お前は何度注意しても一向に反省する気がないようだからな。
わが生徒会で決めたこの罰則に従ってもらう。さあ、どれでも良い。選べ。」
ええ？選べって言ったって。
戸惑っていると二宮先輩は、
「生徒手帳はこの罰則が済まないと返さない」なんて言い出しやがった。
ひでえ。
この生徒手帳は身分証明にもなっていて、バーコードを提示しないとロッカーはおろか靴箱も開きやしねえ。
テストもこれがないと受けられない。
テストが受けられない＝落第･･･げげ！！
「や、やりますから、生徒手帳だけは･･･」
「じゃあ、早く選べ」と、相変わらずしかめっ面しながら先輩が冷めた声で言う。
う〜ん。
�△蕨棲阿世茲福Ｂ臑裡瓜�間も早く起きられるなら苦労はねえっつーの！
しかも１０日間も。夜型人間に無茶言うなよってカンジ？
�，�･･･ヤダ！だって、いつもは掃除のおばちゃんがしてくれてるのに、
急に俺がしてたら皆変に思うよ。恥ずかしいぜ。パス！！
�い蓮�頭を使うのが苦手な俺にこんなこと無理だ。
絶対。ちくしょぉ、４行じゃ駄目？
「駄目！！」
あ、やっぱり☆
とすると残りは��か��･･･。体力なら割と自信あり･･･あ！やっぱり��もできない。
理由は�，汎韻検�この年頃の少年はデリケートなんだぞ。
陸上部でもないのに走ってたらおかしいもん。
仲間内で「だっせ〜」とからかわれるなんて死んでもゴメンだ。
と言うわけで消去法で�イ靴�ない･･･。でもこれってマジ！？
「早くしろ」
「じゃ、じゃあ�イ�･･･」
「ほう･･･」
先輩の目が意外そうに見開かれ、次の瞬間にやりと微笑まれた。
怖っ！その笑顔は何？
じゃあ、とさっき取り上げた生徒手帳にまた何かを書いてから返してくれた。
罰則が済まないと返してもらえないんじゃないのか？と疑問に思った俺に先輩は意地悪くささやいた。
「放課後、生徒会室まで来い。逃げたら明日からのお前は無いと思え」
「･･･ハイ」
こうして俺の運命は定められてしまった。
キーンコーンカーンコ〜〜ン♪♪
６限目が終わった。
ううぅ、いよいよだなぁ。
今日は１日そのことばっかりを考えていた。
「尻叩き」
の文字が浮かぶ。
他の罰とどっちが辛いかずーっと考えていたが･･･よく分からなかった。
小さい時マンガで見たお尻ペンペンされる子どもが思い出される。泣くほど痛いのかな？
あんなの一瞬で終わるよ、と無理やり楽観的になるしかなかった。
「雄也〜、これからカラオケいかね？」
と友達が誘ってくれ、意志が揺らいだが、
「ちょっとヤボ用があってな、また今度ね」となんとか断った。
俺ってエライ♪
おし！
気合を入れて教室を出た。覚悟したから、先輩だろーとなんだろーとどんと来いやぁぁぁ！！
＊＊＊＊＊＊
コンコン！
高等舎の一番上階、端の部屋に生徒会室はあった。
重厚な扉の上に「生徒自治会活動運営部」と書かれたプレートが掛かっている。
なんて大げさな名前だ。
呆れていると、ガチャッと音がして静かに扉が開いた。
二宮先輩である。
「おっ、来たか。エライじゃねーか。まあ、入れよ」
「しつれーしまっす」
途端に、驚愕した。
「おお、こいつか？せーちゃん？」
「ふん、生意気そうな坊やじゃねーの。あぁん？」
俺は、二宮先輩一人がいるんだと思っていたのだ。
しかし、生徒会長の千藤先輩と副会長の三村先輩が立ちはだかっていた。
「うん、こいつが遅刻の常習犯。
入学してからまだ一ヶ月半しか経ってないのに１０回も遅刻してる。
今日とゆー今日は俺も頭来ちゃったから。」
二宮（せーちゃん！？）が親しげに話しているのを聞いて、頭がくらくらしてきた。
「せーちゃんを困らすなんて悪い子だなぁ☆
そんなコは俺様がたっぷりとオ・シ・オ・キ♪しちゃうからねえ。安心してねえ〜」
おちゃらけた口調で腕を振る、千藤。
なんか、すっげえ楽しそうだ。
「よっし、正治はそこで見てろ。
こいつに徹底的にヤキ入れたる。うははは！」
後姿が女みたいな長髪野郎の三村も、粗暴に笑う。
二宮はそんな二人を見てほのぼの笑った。
「うん、頼む」
「･･･ちょ、ちょっと待ってくださいよ。
俺は二宮先輩一人だと思ったから･･･先輩たちがいるなんて聞いてね･･･ないし、そういうことなら��にします！！」
っと、あまりの展開にしばし声が出なかったが、このまま行くとエライ目に合わされることだけは想像できた。
必死に抗議すると
「ん？だ〜め☆変更はでっきませ〜ん」
ご丁寧にあかんべーまでされて却下された。
こいつ、こんな性格で生徒会長なんか！？
「セイトテチョウをよぉく見なされｖ」
という言葉で必死にめくると、メモ状になってる欄に「遅刻１０回・�ァ廚肇棔璽襯撻鵑能颪�れてある。
「消しゴムで消えない字はもう決定事項なんだにゃー☆」
―――っんだとぉぉぉぉぉ！！！
にゃー☆じゃねぇ！！！！
俺はついにブチギレし、先輩に対する敬語なんて吹っ飛んでめちゃくちゃ怒鳴り、非難した。
横暴！カス！下級生いじめてそんなに楽しんか、コルァ！！ああ！？
１０回や２０回の遅刻でがたがた抜かすんじゃねえよ！！
てめえら！うぜえええ！！！
「はい、そこまで」
ひょいっと俺の身体が持ち上げられる。意外とバカ力な三村。
「ちくしょう！！放せよ！！！！」
ジタバタ暴れたら革張りのソファーの背に落とされ、体がくの字に曲がる。
頭が下がり、視界が一気に暗くなった。
手を突いてなんとか起き上がろうとした。
が、
べしっ
頭がはたかれ、そのまま押さえ込まれた。
三村のヤツ！！力では敵わないので俺はまたも口で抵抗しようとする。
が、素早く誰かにベルトをはずされズボンとパンツが下げられた。
「レッツお仕置きタ〜イム♪」
千藤の爽やかな宣告で俺の地獄は始まった。
肌にそのまま外気を感じる。
やっと自分の立場が分かり「恥ずかしい」と思った瞬間に
バッチーーーーン！！
きっつい一打ちが下された。
「うわぁ！」
アツイ！イタイ！思わず身体全体が跳ねた。
押さえ込まれている上半身以外は。
バシン！ バシン！ バシン！ バシン！ バシン！
「お前、なんか勘違いしているだろう。誰が悪いのか言ってみ？俺か？お前か？」
「うっ、あう！」
「もともと遅刻したのは誰だ？」
バシィ！！
「あっ」
「遅刻の１０回や２０回？マヌケ！
１年のそんなから遅刻してたら、社会に出たとき不適応者として嫌われるんだぞ？
お前はそれでもいいかもしれんが、この中溝学園の生徒として許しちゃおけねーんだ。
その為に校則があり、俺達生徒会、風紀委員がいる！」
ビシッ バシッ
「･･････！！」
「自己管理も出来ねー小童がぴーちく喚いたって、こちとら痛くも痒くもねーんだよ！」
ベシッ ベチン！ バチン！
尻に幾度と無く千藤の掌が打ち込まれ、燃えるような痛みをもたらしていく。
激しい痛みのために思考が止まっている状態だが、千藤の言葉だけが頭に入っていった。
ふざけたヤローなのに言ってることはさすが生徒会長？
文字通り叩き込まれる･･･ってカンジ。
「せーちゃんがあれほど注意したのに、ちっとも響いてねーよーだな。
だったらそんなお子チャマは尻ひっぱたいて思い知らせてやらぁ」
バッシーン！！
「イタイ！！」
思わず悲鳴が出た。あ、くそ･･･涙が滲んできた。下を向いてて良かったぜ。
泣き顔なんて見られたら本当に子どもになっちまう！
耐えろ！耐えろ、自分！！！
必死に我慢しようとしたが千藤は容赦ない。
すでにダメージを受けている尻にいつ終わるとも分からない攻撃を加えられ、いつしか俺はギブアップ寸前だった。
「う･･････っ」
嗚咽が漏れる。小刻みに震える背中で感づかれた。
三村の手が少し弱まり面白がっているような声がした。
「およ、雄也クン、泣いちまったようだぜ、秀一。」
「おやおやぁ、やっと骨身に沁みたかな？ゆーやちゃんｖ」
先輩達にいたぶられて、死にそうに情けなくなる。
くそったれ！でも二宮先輩は･･･？
頭を一瞬だけ持ち上げ、先輩を探すと。
真剣な、少し悲しげな目をしていた。
「じゃあ、ゆーやちゃん。ごめんなさい、ゆってみ。そしたら終わりにしてあげるから」
千藤が言って、またピシャンッと叩く。
「！」
誰が言うか！！ と素直じゃない感情は反発しそうになったが、二宮の表情が、ストップをかけた。
それまでになかった、罪悪感が胸を締める。
俺、やっぱ反省した方がいいかも…。
思えば、二宮の９回の説教は全部、今日千藤に言われたことばっかりだったよな。
聞き流していたんだ。
根気良く、律儀に説教かましてくるのは、それなりに俺のためを思ってくれたのかもしれない。
急にそんな考えが浮かんできたら、もう消すことはできなかった。
痛さに負けたわけじゃねーぞ？
先輩に悪いと思ったから！
「ごめ･･･んなさい。ごめんなさい、二宮先輩！！！」
少しかすれた声になってしまったが、約束は守ってくれたようだ。
「おし！」
三村の封印が溶け、叩かれる痛みも無くなった（それまで叩かれた余韻が激痛となってはいるが）。
「なんだよ、俺達にゴメンナサイは言えないわけ？」ぶつぶつ☆
千藤がほざいてるがしらねー。
俺は泣いていた。
静かに頭を撫でる感触があったから。
「ふ、うええええぇぇぇん」
痛みより、その優しさの方がキクみたいで。
自然に泣き声まで出しちまった。
（ああ、もぅ…俺ってひたすらカッコわるい…（＞△＜）
「反省したか？」
低いが、穏やかな声で聞かれて、「うん」と頷く。
遅刻に対しての罰が消えた瞬間だった。
あのあと、涙がなかなか止まらず二宮先輩がズボンをはかせてくれ（恥ずかしい）、
三村が「しかたねーなー」とぼやきつつ紅茶を入れてくれ、
千藤がニヤニヤしている前でゆっくりと飲み、なんとか落ち着いた。
前は反発しかしなかった二宮先輩に今は違う感情が生まれてきたため、疑問をぶつけてみる。
「ねえ、先輩？俺、先輩の方に叩かれたかったっすよ？」
「ばぁ〜か、せーちゃんにはそんな権限ないの〜。
叩けるのは俺とまさぴーだけ。
第一、悪ガキのお尻ぶってせーちゃんのお手手が痛くなったらたーいへんだもん！」
「きゃはははは！！」
むか。 ったくこの先輩どもは頭くる。
でも打たれる恐怖はまだあったので口答えはしないでむくれるだけにしておいた。
二宮先輩が説明するには
生徒会長、副会長以外がそんなことをすれば、規律が乱れる。
上級生みんなが叩くようになると、下級生へのいじめにもつながるし。
ということで、そんな校則が実はあるのだという。
「ふ〜ん。しらなかった･･･」
「じゃあ、分かったところでゆーやちゃん。さきほどの反抗の罰も受けてもらいましょうね」
え！？
「規定の１００叩きが終わっちゃったんで〜、明日の放課後また来てください☆」
「おらよ、生徒手帳だ！逃げんなよ？ゆーや」
見ると「中傷誹謗・反抗の罪・�ァ廚判颪い討△襦�
ま、またかよ〜！？
振り向いて必死に助けを求める視線を二宮先輩に送ったが、
困ったような笑顔で肩をすくめるばかり。
く、くっそ〜、やっぱこんな奴ら大ッ嫌いだぁぁぁぁぁ！！！
明日の地獄を想い、生徒会室で絶叫する俺だった･･･。
はやと
2003年12月09日(火)