【CLUB UNDERWORLD】
☆☆☆
某都会。
数多の人々が行きかう賑やかな通り。
その通りを一つ離れ、右に曲がり、進んだ先を左に曲がっていく。
細い小路に古びたビルが並んでいる。
その地下の一つに、その店はある。
錆びた鉄製の扉に、しみだらけの壁。
「閉店のおしらせ」の紙。
これでは、普通の人は寄り付かないはずである。
しかし。
午後9時を過ぎたころ、けっして多くは無いがぽつぽつと様々な人が、人目を避けるように閉店されたはずの鉄の扉に吸い込まれていく。
閉店…フェイクである。
何も無いですよ、と嘘をつくならば、それはやましい証拠。
まともな店なはずはない。
ただ、その秘密はずっと守られてきたし、これからも破られることはないだろう。
CULB UNDERWORLD
そこは、ある特殊な性癖たちの溜まり場だからである。
扉を開くと、驚くような光景が目に入る。
そこは外界とは切り開かれたよう。
磨き上げられたガラスの戸があり、更に内に入ると緋色の絨毯が敷き詰められ、闇の中には蝋燭の灯、アンティークな机。
豪奢な中にも、ある種淫らな雰囲気を感じるだろう。
入り口から更に入っていくと、店の案内人が現れる。
「いらっしゃいませ―――こちらへどうぞ」
促されて廊下を進むうちに、何かの音に気づくだろう。
かすかにしか聞こえなかった「何かの音」が、だんだん近づき大きくなっていく。
―――ぱぁん!ぱぁん!
「はぁう!」
ぱんぱんぱんぱん!!!
「あぁ!!」
甲高い衝撃音と短い悲鳴。
そして、がやがやとした、店特有のざわめき。
廊下の突き当たりの扉をあけると、そこはまた異世界が広がるのである。
正面ステージの上には、ソファーベッドがあり、そこに1組の男女がいる。
女性はソファーに手を突き、男性はその女性の突き出された尻をひたすら、ベルトで打っているのだ。
振りかぶっては打ち下ろす。
乾いた音が、周囲に鳴り響き、思わずのけぞった女性の口から悲鳴が漏れる。
下半身のみ露わにされ、尻がみるみる赤く染まっていく。
これが、先ほどの音の正体というわけだ。
そして、ステージから少し離れたテーブル席では、幾人もの男女が眺め、楽しそうにざわめいている。
「やっぱり、ベルト打ちが一番ね!見ごたえがあるわ。」
「そうね〜。でも自分がやられるのを考えるとためらっちゃう。やっぱりパドルくらいがちょうどいいかも」
「そう。やってみる?ちょうど、新しいパドル持ってきたよ」
「やだぁ〜…www」
若い男性、それに少し幼い感じの女性が2名の会話である。
きゃーきゃーと笑いさざめく様子は、悪びれたところはまったくない。
「やはり、こう…ひたすら耐える感がそそられるね」
「嗚呼。痛みに耐えようとする健気な様子。キーはこうでなくては」
「あくまで、しおらしく…自分からお仕置きをお願いするくらいの子が良いな」
「ま、そのガマンが限界に達して放たれる悲鳴がまた良いものだが」
なごやかに話しているのは、スーツ姿の紳士2人。
目はあくまでショーに釘付けだ。
「うん。あの娘の尻から太腿にかけてのラインがいいね」
「そうだな、欲を言えば、もう少し赤みが分かるような肌だと良いのだが」
こんな会話がざっと10テーブルぶんは繰り広げられている。
話題はすべて…「Spanking(尻叩き)」
これが特殊な性癖である。
スパンキングクラブ。これがこの店の正体だった。
スパンキングにどうしてもときめきを感じてしまう、アブノーマルな者たちが集う。
SMとも違う、狭い世界。
この趣味を誰にも話せず、悶々としていた人々にとってこのクラブは、まさにうってつけの店だった。
ちなみにショーに見える、ステージ上の2人もただの客である。
公開をのぞめば、時間制だが誰でも参加できる。
「あと10発!!!」
ステージ上の男性が言うと、客が一緒に数を数えてくれる。
10発もの、きついベルト打ちが科せられ、「ごめんなさぁい!!」と叫び女性は崩れ落ちた。
拍手がおき、男性は女性を優しく抱き上げ、ステージから降りた。
無人となった、ステージに店員が立ち、マイクで次の参加者を呼びかける。
今度は違う客がのぼっていき、また新たな宴が始まる。
女性が男性を叩くこともある。
女性が女性を叩くこともある。
平手、ケイン、トゥーズ、パドル、ベルト、コード、定規、ヘアブラシ。
OTK、四つん這い、ベントオーヴァー、横抱き、拘束、椅子に手をつかせて…
泣くもの、喘ぐもの、無言なもの、叫ぶもの、暴れるもの、耐えるもの
ありとあらゆるタイプがいて、そして店内を興奮させるのだ。
ありとあらゆる姿で良い。それだけ楽しめる。
表の自分など、忘れてしまえ。
自分の欲求に忠実であれ。
Spankingが好きで何が悪い。
表で抑制している箍を外せ。
どろりとした本音を吐き出してみせろ。
なにも恥じることは無い。
我らは同じ穴の狢…仲間ぞ。
叩かれるほうも、叩くほうも、観るほうも、自分の気持ちを解放したがっている。
ここはCULB UNDERWORLD。
遠慮は要らない。
自分を晒して。
現実に息が詰まってる者どもよ、存分に酔え。
痛みの饗宴は、苦痛と快楽の狭間で、蝋燭の灯のように揺れている。
興味があったら、皆も行ってみると良い。
道を外してしまい迷える者には、見えてくるはずだ。
そのUNDERWORLDが。
待っている…
2007年05月28日(月)