【ウェンディの薄い文字】

(ポルノグラフィティの曲より)

 

何度叱っても痛く叩いても
幼いウェンディの薄い文字


          ウェンディ考察



かすれた文字誰も気づかない
幾度も消されなくなった

薄い氷に小石滑らせるように
ペンの先が撫ぜるだけさ



     ウェンディはどうして、薄い文字を書くの?

     どうして?

     そんなんじゃ言いたいことだって分かってもらえないよ。
     叱られるだけ損じゃないか。

     はっきり書けよ。

     言わなきゃわかんないじゃないか。

     文字は大事なのに。

  
君は言う何か強く残さなきゃ
いけない物が今の自分にはあるとはI don't know
思えないのよ


     ウェンディ なに考えてるの?
 
     君の事を分かりたいんだ。

     どうしてそんなに頑なにこばむの?

     強く残さなきゃいけないものじゃなくても構わない。

     君自身を出して。


ウェンディは強情に羽根のついたペン
ウェンディは慎重に羽ばたかせて

ウェンディは小さい物思う少女
ウェンディはいつもフリルのスカート


     一瞬見せた。風にゆれた枝が花びらを散らしていくのが面白いと笑った。
  
     その笑顔は可愛くて。

     なのに。

     普段は頑なな表情。

     授業中、どんな教師に言われても、その顔をかえない。

     それが元で、腹を立てた教師にそのお尻を叩かれても。

     オレの席は教卓に近いから。

     教師の持つ恐ろしい教鞭が、お尻にあたるところも見えてしまう。

     そのたびに言いようのない気持ちに襲われる。

     ピシピシと厳しく打たれ、その小さな体が翻弄されてる。

     丸みを帯びた小さなお尻が赤い線で覆われていく。

     それなのに、苦痛に顔をゆがめても君は必死に耐えるんだ。

     どうして?
     どうしてそんなに耐えているの?

     ガマンしないで、すこしオトナの望むとおりにしておけばそんな目にあわなくてすむのに…


タイプ打ちされた童話で暴れる 
死神がウェンディを怖がらす

文字をどうして不吉に並べてしまう?
キスと好きは真反対さ

  
     いつも小脇に抱えてる赤い表紙の本
  
     そこに死神がいるの?

     その本はなぁに?
  
     少しだけ開いて見せてくれたページには…オトナの男女が指輪を交換する様子が書かれてあった。
  
     薔薇の囲うその挿絵に、2人のシルエットだけが描かれてる。

     顔を見ると、ほんのりと顔を赤らめてる。

     好きな人がいるの…?

     「ええ。」

     君が言った。「でも。どうせ言ったって分からない。拒絶されるのが怖いの」



君は言う 悲しいことは忘れなくちゃ
嬉しい事も明日になればなくなるならば忘れなきゃね


     幼いウェンディ。なのに君はオトナみたいだ。
  
     フリルのスカートをくるりと回して君はただずみ、そして首をふるんだ。

     諦めてるような目で。

     哀しかった。そんな目するなよ。

     好きなら、ちゃんと出せよ。

     オレも好きだよ。ウェンディ…君を。
 
     ホントは言いたくなかったけど。ちゃんと言うよ。

     ウェンディ、つきあってくれないか?

     金髪が揺れてる。首を傾げてる。

     「ゴメンナサイ…」

     碧の瞳が不安気に揺れてる。どうして?とその顔にありありと書いてある。
 
     分かってるさ。君がずっと自分に対して劣等感を抱いていたことも。

     特別賢いわけでもなく。特別美人でもなく。

     愛想が悪いから、その手をすり抜けてきたものも多いだろ。
 
     要領悪くしか生きられない、不器用なところ。
  
     それでも君はすべての人に嫌われてるわけじゃない。

     オレたちは似てる。

     それにいいトコだってあるんだから…
  
     「第一の人間にはなれないの…」

     第一の人間?

     「大切な人の唯一の存在になりたい。でもそんなのはワガママだもの」

     そんなこと…誰だって思うんだよ。

     だから拒絶されるのが怖かったの?

     ワガママじゃないよ。

     「ゴメンナサイ。」
  
     謝らなくていいよ。誰かに恋してる君。その輝きまるごと好きになったのだから。

     分かってたさ。この想いが叶えられないことも。

     それは確かにカナシイけど、今の君のほうがもっと悲しそうだ。

     瞳が閉じられて、今にも睫毛から涙の粒が落ちそうになったとき…額にキスして言葉をかける。

     おまじないの言葉…

    
ウェンディ君だって可愛い指に
リングをはめる頃になったら
強い文字で

  
     大丈夫。

     うまくいくよ。

     ありったけの勇気を出して。

     その表情すべてに想いをのせて、言葉が途切れないように。

     今すぐには変えられないけど、オトナになっていく。

     君もオレも。

     今は弱くてもいい。

     でも想いを押し殺さないで。自分のすべてを否定しないで。

     自信をつけて!!

     そうすれば、死神なんかいやしない。

     エンジェルだって君を味方するから。

     ―オレが好きな女の子だぞ?きっとうまくいくから。

  

     スカートを翻し、ウェンディは去っていく。

     かけだすその姿を目に焼き付ける。

  

ウェンディ君だって可愛い指に
リングをはめる頃になったら
強い文字で…



     数日後。
 
     物静かな男性と、楽しそうに歩いているウェンディを見た。

     10歳以上は離れているだろう。

     嗚呼だからあんな目をしてたんだ。
  
     オレじゃ敵わないオトナの男。

     ウェンディもそれで悩んだんだろう。

     それでも受け入れられて、あそこにいる。

     あんな笑顔は始めてみた。

     無邪気な顔。

     それをひきだせる男に嫉妬を覚えつつ、君の幸せにほっとする。

     いつか心から祝福できればいい…

  

     さらに数日後、名無しの手紙が届いた。

     ちゃんとはっきりとした文字で「ありがとう」――とだけ。



     強い文字…


     それは自我を恐れずに出せることなのだと…


  オレも君も…大人になってく――――

 

 

 

はやと

2007年04月23日(月)

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