【人魚姫はコバルトブルーの夢を見る】

 

海の中…

海の底…

蒼い…

周りに揺らめく景色が歪む…。


私は誰。

私は何。

あの人のもとへ…

それだけを願い、苦痛に耐える。

何かを得ようとすると、代償をはらねばならぬ…。
身をもって体験している…。


後ろの魔女がにやりと笑う。

「そこまでしたいかい?たかが人間のために」

いいの。
そこまでしたいの…この私が。


人間の身に憧れた…魚だったこの下半身は魔女によって人間のものとなった。
きゅっと中身の詰まった魚体…尾びれも煌めく鱗たちも消え、不安定な肌色の「足」というものが現れ。
細い足と胴体を繋ぐ「臀部」というものができた。
魔女はそれを欲した。

なんの意味があるのかは分からない。
ただ叩くのだ、と。
鞭で脅された。
それでも良いか、と聞かれ…「是」と答えた。
どんな苦痛があろうとも…愛おしい人のためなら耐えられる。

それが…私の決意…

そして、今に至る。


肌を激しく打つ音が、岩の間に響く…
お尻への鞭打ち…

嗚呼…

これが人間になる試練なのか…

切り裂かれているような熱い痛み。

覚悟していたのに、痛くて痛くて気が狂いそうになる。


この狂おしい想いがせめて報われるように…


四つん這いで必死に耐える自分を、多分彼は知らない。
そこがまた哀しくて胸も痛んだ。


混乱する身に囁かれる言葉…

「我慢なぞしなくていい。思う存分泣き叫べ。素のままに」

ビシィィィィッ!!!

「あぁーーーーーーーー!!!」

その瞬間はじけた。

丸みを帯びたお尻が真紅に染まり、涙を流して絶叫する。

それは…新しい自分の産声。


苦痛の果てに生まれた、人間としての私。
 

はやと

2007年09月27日

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