きり丸   兵太夫 

 

【カンニング事件の段 】

 

「山田先生・・・ちょっと」

土井半助は困ったような表情をして、話始めた。

ここは忍術学園という、その名の通り、忍術を教えて忍者を育てる学校だ。
そして、土井半助は一年は組担任、教科担当教師だった。

相談の内容は一年は組のこと。

このごろテストになるとカンニングをするようになってきたのだった。

 

「失敗ばかりで、とても成功しているわけではないんですけど。
 あんまりにも続くので叱ったところ、乱太郎・きり丸・しんべヱが言うには五年生を真似したそうです。
 カンニングをすれば先生が喜ぶ・・・と。」

相談を受けているのは、半助の先輩で同じ一年は組の担任、実技担当の山田伝蔵だった。

「五年い組担任の木下先生にお聞きしたところ、
 五年生のカンニングが成功して喜んでいるところをあの三人に見られたらしいんですよ。
 おまけに『おまえたちも先生がよろこぶほどのカンニングをしてごらん。うんと修行をつんでな』
 と言ってしまったそうです。」


何故カンニングをして先生が喜ぶのであろうか。

先生の目を盗んでカンニングできるほどに忍術が上手くなった、というわけで教えてきたものにとってはそれが嬉しいのである。


「うーん・・・。ようするにまたあの三人の勘違いだな?」

「はい・・・」

伝蔵も半助もため息をついた。

木下先生の言いたいことを、乱太郎・きり丸・しんべヱは「カンニングをすると、先生が喜ぶ」と勘違いして、
ついでに、は組全体を巻き込んで成功させようと単純に燃えているのだった。


「いったいどうしましょう?
 何度もいけないことを説明したし、叱りもしたんですが、かえって燃えてしまって・・・」

「まったく、お気楽なのもだな〜、あいつら」

ノー天気で無邪気で天真爛漫なは組の連中を考えると、怒る気にもなれない。
が、それではいつまでたっても勉強には繋がらないし成長もできない。
教師としては、なんとかやめさせなくてはならなかった。

そして、話し合いは続き、対策が練られていく。

 

 

あくる日。ドタドタと足音をたてながら乱太郎たちが、慌てて教室に入っていく。

「セーフ!」

「やったぜ、おい!土井先生まだ来てないみたいだな」

「おはよ〜、みんな〜。なに見てるの?」

「あ、おはよ〜。見てよこれ。」


皆が黒板の横の掲示板に集まっている。
学級委員長、庄左ェ門が乱太郎たちに気づき、掲示板を指差した。

そこにはでかでかと「カンニングしたものはお尻ぺんぺんする!」と書いた紙が張ってある。

「ええええ!?」

三人は一同にショックをうけた表情になって、固まった。

「ねーどうする?」
「お尻ぺんぺんだって・・・」
「本当かなあ」

がやがやと、は組の子どもたちが騒ぐ。
そこに半助が入ってきた。

「本当だぞ〜!」

「わあああああ!!」

と突然の先生の声に驚きながらも、反射的にみんな席へ戻り
「きりーつ」「礼!」「おはよーございます」と元気よく挨拶をして座る。
半助は「はい、おはよー」と苦笑いをして、表情を引き締めた。

「みんなに知らせておくぞ!
 今後、カンニングがもし見つかった時はお仕置きをするからな。
 痛いぞ〜。お尻がすご〜く痛くなるぞ〜…」

さすがに厳しい先生の声に、しゅん・・・とした子ども達。
そのあとの授業も心なしかマジメに受けたようであり、半助もほっとした。
できれば、お仕置きなんてことはしたくない。

 

その夜忍たま長屋に戻ってきたは組のよい子達は、庄左ェ門と伊助の部屋に集まってなにやら話し合っていた。

「明後日のテスト、どうする?」

「マジメにやろうか」

「でも、もうちょっとだったんだよ」

「そうだよなあ・・・」


この前のテストのときのカンニングは上手くいきそうだった(と勝手に思っているだけ)。
天井に漢字の書き取りを書いた紙を張ったのである。
灯台下暗しってやつを狙ったのだ。
案の定最初は土井先生だって気づかなかった。
ただ、にやけた笑いをした子ども達がそわそわと落ち着かなければ気づくのは当然である。
結局、テスト用紙を配られる前に発覚し取り上げられてしまったのだ。


「ねえ、当日やろうとするから失敗するのかも。」

「そうだね」

「どうすればいい?」

「事前に問題用紙を盗んで暗記しよう」という意見がでると、急に話は盛り上がっていった。

「うん、忍術で先生の隙をついて取れば先生だって喜んでくれるよね!」

と庄左ェ門と乱太郎も言い、
「見つからなければ大丈夫!見つかるわけがない♪」とクラス全体の士気は上っていったのだった。

 


作戦  双忍の術を使う!

双忍の術とは二人の忍者が協力して仕事をすることをいう。
あまり大勢で行けば見つかる恐れがあるからだ。

とゆーわけで二人の忍たまは、ジャンケンの結果きり丸と兵太夫に決まった。

先生を一人が呼び出して、その隙にテスト用紙を取る!
という単純だが効果的と思われる方法だ。

そのあと問題の答えは残りの9人が考える。

二人は一番先生に見つかる危険性があり、できればやりたくはない任務だったがジャンケンに負けたのだから仕方ない。
毎回グー(どケチで握ったものは放したくない習性がある)を出して負けるきり丸はともかく、2番目に負けた兵太夫は心底悔しがっていた・・・。
相談して、土井先生を連れ出すのはきり丸。
問題用紙を探すのは兵太夫に決まった。


三十分後、忍たま長屋に残る九人の「ファイト♪」「がんばれよ!」なんて声援を受けて二人は土井先生の私室へと向かった。

「先生〜、ちょっといいっすかー?」

「なんだ、きり丸?」

「えへへ、洗濯のバイト引き受けたの忘れてて・・・。明日までなんですぅ。
 一生のお願い!!手伝ってください〜〜〜!!!」

「このバカ!あれほど忘れるなって言っただろう!!もーしょうがないな。明日までか?」

 

「上手い!きり丸」

心の中で感心しながら、二人が完全に井戸の方へ向かっていったことを確認して兵太夫が動く。
これで20〜30分は戻ってこれないだろう。
安心はしていたが、心の中がドキドキする。
早く見つけて戻らねば。


机の中、・・・ない。
文箱、・・・でもない。
押入れ・・・散らかってる(汗)

えーっとえっと、ここでもないあそこでもないと、必死に押入れの中を探していると・・・

「兵太夫?」

と訝しげな声をかけられ兵太夫は、跳び上がった。
跳び上がった拍子に押入れのものが落ちてきて、運の悪いことにテスト用紙が入った出席簿も落ちてきて用紙が散らばる。

「・・・・・・・!!」

最悪だ。
首をすくめてちらっと自分のもう一人の担任を見た。

山田伝蔵は湯上りなのかゆったりとした私服を着て、湯のみを持っている。
その湯飲みをコトンと机に置き、腕組みをした。

「なにをしていた?」

それは問いただすというより、確認だった。

「テスト用紙・・・盗みにきたんだな?」
 
・・・こくん

うなずくしかできなくて、兵太夫はそのままうつむいた。
ばれちゃったよ。きり丸。山田先生の存在忘れてたね。
山田先生の私室は別にあるが、同じクラスの教師同士、土井先生の所に訪ねてきてもおかしくはない。
忘れてたのは皆同じで、まさにつめが甘いとしかいいようがなかった。


「悪いことをしたという自覚はあるみたいだな。兵太夫。
 カンニングをしたらお尻ぺんぺんだって今朝言ったばっかりだぞ?」

静かだが言い訳を許さない声。
そして兵太夫の手をひいて自分の膝に乗せ、うつぶせになるようにした。


「まったく、お前一人が考えたわけじゃないだろう?
 は組全体が共犯だな!あとでみっちり叱ってやる。
 が、今はお前からだ。」


パァァン!


最初の一撃がお尻の真ん中へとんできた。
袴の上からとはいえ、大人の大きい掌がたたくと十分に痛い。

「った!」

思わず小さく悲鳴を漏らす。

そのまま何発かが打ち込まれ、兵太夫は思わず泣きたくなった。

パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!

「い、痛い!痛いです!先生〜!」


さらに痛みは耐え切れなくなってきて叫ぶが、「お仕置きだからな」と伝蔵の声は冷たい。
身を捩じらすが、手はけして弛められずに逃れることもできなかった。

 

「・・・ふぇ うえぇぇぇん!ごめんなさっぁいぃ」

とうとう兵太夫は泣き出した。

「泣くくらいなら、やるな!
 なにがごめんなさいなんだ?」

「先生のいいつけやぶったこと・・・」

「それだけか?」

と言って伝蔵は、今度は袴を脱がした。
兵太夫の桃色になったお尻があらわになる。

ビシッ!

袴の上からでも十分痛いと思っていたが、直に叩かれるともっと痛かった。


「カンニングはなあ!」

「ずるいことなんだよ!」

「ちゃんと勉強すればいいのに、それをしないで」

「そんなんじゃろくな大人になれないんだぞ!!」

「わかったか!」

一言ずつ、強烈な一打ちをしながら説教は続いた。


何回「わかりました。ごめんなさい。もうしません。」と言ったことか。


ようやく許された時には、兵太夫はわんわん泣いていた。お尻もひりひりして燃えるように熱い。

伝蔵は、やっと少し笑って兵太夫が落ち着くまで抱っこした。
頭を優しくなでながら。

「もうしないな?」

「はい・・・。ごめんなさい」

「よしっ!次はきり丸だな。」

「え!?」

見るといつの間に戻ってきたのだろうか。
土井先生と青ざめて正座しているきり丸がいた。


「私はこれから他の連中をお仕置きしてくるから。
 土井先生もきり丸が終わったら、忍たま長屋に来てくださいね」

と言い置いて伝蔵は出て行った。


「さあて、きり丸。お前の番だ。まったく!
 兵太夫も見てなさい」

土井先生の怒った声が聞こえ、きり丸が膝に乗せられる。


バシッ!ビシッ!


「せんせー勘弁してえ」とあがく声が聞こえ、それも次第に泣き声に変わっていく。

自分と同じように叩かれて泣くきり丸を見ながら、カンニングはずるいことだと言った山田先生の言葉を思い出し、
もう絶対にしないと心に決めた兵太夫だった。

 


その後、は組は数日間はおとなしく、良い子で他の先生に驚かれたそうである。
が、ちゃっかりと1週間後には立ち直って騒がしい日常に戻ってしまったそうな。

しかしカンニングだけはその後は組で行われたことはない。

 

はやと

2003年11月22日(土)

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