団蔵  文次郎伊作

 

【団蔵と鬼の会計委員長の段】

 

カーンカーンカーン…

気持ちの良い秋の空。
忍術学園に鐘がなる。


「終わった、終わったぁ〜♪」

「おい、何する?」

「ドッジボールしようよ!」

「それ終わったらサッカーもいいんじゃない?」

1年生の元気な声が響き渡る。
その中で、団蔵だけが浮かない顔をしていた。


「どしたの?団蔵?」

しんべヱが尋ねると、重ねて乱太郎も聞く。

「行かないの?」

「ん…これから会計委員であつまらなくっちゃいけないんだよ」

「あー…そっかぁ…大変だよね(^^;)」

「いってらっしゃい!また遊ぼうね〜」

すぐ納得して2人は、他の仲間と共にドッジボールをしにいってしまった。

「またね!」と言いつつ、ため息が出る。


気落ちしているのは意味がある。

会計委員は、別名「地獄の会計委員」と呼ばれている…なぜか。
それは、「忍術学園一忍者してる」と言われる6年生、潮江文次郎がいるからだ。

彼の熱血ぶりはすさまじく、1文でも会計が合わないと徹夜でも計算をしなおし、
そして鍛えるために10キロもある算盤を使い、意味もなくランニング。
その他もろもろの修行を後輩に強要するという厄介な一面ももっているのだ。
そして、よく怒鳴り手も出やすい…。

そして、普段はそんな委員長に慣れている団蔵だが、このところ毎日召集が続いているので参っているのである。


昨日のことだ。


****


「秋の決算だ!!団蔵、お前はコレをやれ」

ばさばさばさ!

書類の山が積み上げられた。

「左門、三木ヱ門、お前らはコレだ!」

「「ハイ!」」


しばらくは各自で計算をしていたが、午後の陽気は眠気をさそい…
いつしか、団蔵は眠ってしまった。

「ばっかもーーーーーん!!!!寝るとは何事だぁぁぁぁ!!!!」

――ごきぃ!!

「わぁぁぁぁ!?」

激痛が頭に走って、団蔵は飛び起きた。

「せ、先輩、ごめんなさい!!」

「たるんどる証拠だ!!すぐ眠気覚ましにグラウンド10周してこい!
あとこれは持ち帰り!明日の委員会の時までにちゃんとやってくること!!!」


半泣きになりながら、グラウンド10周をこなし、宿題まで持たされて
かなり団蔵は凹んだ。


****


そして、今日も委員会があるかと思うと、心が沈む…

 

――いいなぁ、皆は遊んでてさ☆

もちろん会計委員ばかり大変だということはないのだが、今現在彼は「自分が一番大変」という苦労を感じているw


自室に戻り、宿題の書類を持っていこうとしたとき、…ハラリ。
紙が舞い落ちた。
拾い上げてみると、まっさらな書類が1枚。

「げげっ!!」

慌てて他の紙を見る。
ほとんどは出来上がっていたのだが、眠くて書いたため、ただでさえ汚い字がさらにミミズがのたくったように見える。

「どうしよう…」

団蔵の脳裏に、怒りに震える鬼の委員長の顔が見えた。
ついでに怒鳴り声も聞こえてくる。


――あれ?なんかお腹痛いかも?

突如浮かんだ、微妙な感覚に団蔵はすがりついた。

――きっと風邪だ。風邪に違いないよ。

「保健室行こう」

今日は委員会は無理w

そんなことを決め込んで、ふらふらと保健室へ向かった。

 

「失礼します…」

「おや、君は1年は組の…」

「加藤団蔵です。」

「どうしたんだい?」

「なんかお腹痛いし、頭も痛くって」

「そっか…熱は…ないみたいだけど。どうする?寝ていくかい?」

「はい…」

保健室にいたのは、6年生の保健委員長、善方寺伊作だった。
団蔵は優しくおでこを触られ、布団をいそいそと敷いてくれる姿に少し感動して
(6年生でも優しい人はいるんだな…)と思いながら眠りについた。

ホントはお腹も頭なんかも痛くなかったけど。

痛いかも。これから痛くなるかも。

 

暗示をかけながら、逃避の道へ…

 

す。

触れる感触に、身じろぎをして薄目を明けた。
そこには…

「大丈夫か、団蔵」

険しい顔で覗き込んでいる文次郎の姿が。

「うわぁ!!!」

驚いた声を出すと、「そんなに驚くな!」と即座に切り返された。
が、その切り返し方もあまり迫力がない。
どうやら心配して来てくれたようなのだ。

時はもう夕刻になっていて、晩御飯の時間だという。

傍にはたくわんとおにぎり。お茶まで用意してある。

「先輩…?」

「あ?これは食堂のおばちゃんに言って作ってもらったヤツだ。安心しろ」
↑注;文次郎が作るおにぎりは鉄粉が入っていて、しころ(ヤスリのようなもの)の代わりにもなるとゆー。
    食べ物というよりも忍び道具に近い。

「先輩…ありがとうございます」

「おう。忍びは身体が資本だ。なまってるからそういうことになる!
……今はゆっくり休んでまずは身体を治すことが先決だ」

「はい…」

気遣われ、初めて見るような優しい先輩の姿に、団蔵は嬉しさを感じた。

と共に、きり…と何かが胸の中で痛む。

―あれ、おかしいなぁ…

なんだか分からない違和感が…。

「では、俺は帰る。まだ計算が残っているからな。
あと10枚で秋の決算報告がまとまる。昨日渡したやつは明日持って来い」

「…はい、すみません…」

そういって、文次郎は保健室へ出て行った。

 



「たっだいま〜、団蔵くん、どう?…あれ?」

晩御飯を食べて伊作が戻ってきた。
が、団蔵の様子が変だ。

「どうしたの?なんで泣いてるの?」

「い…いさ…くせんぱ…」

「ん?どうしたのかな?」

近寄り優しくたずねると、団蔵は飛びついてしゃくりあげた。

―あ、鼻水がついた…(^^;)

と思ったが態度には出さず、伊作は団蔵が話し出すのを待った。


「あの…ぼく…ごめん…ごめんなさい…」

「なにがゴメンナサイなの?」

1年生は可愛いなぁ、なんて思いながら頭をなでる。
ごめんなさい、なんていうヤツ誰もいないもんなぁ…
伊作の脳裏にふてぶてしい級友たちの顔が浮かび、その対比に微笑む。

「あの…ぼく…ほんとはおなか痛くなかった…」

「…」

「会計の書類、全部出来てなかった…怖かったから」

「…それで?」

「文次郎先輩が怖かったのに、優しくて、優しくされたら胸がもやもやする…。
胸がもやもやしたら、なんだか急に哀しくなって、でもどうすればいいのかわかんなくって…!!」

たどたどしくて文脈は意味不明だったが、伊作は分かった。
団蔵が書類の不備を文次郎に咎められるのが嫌で、仮病をつかったこと。

(あいつはそこんところキビしいからね〜…怖がるのも無理はないけどw)

そして、文次郎の態度が優しくて、返って罪悪感を感じてしまっていること。

(さぁて、どうするかなぁ…)

ぽりぽりと頭をかいて、伊作は腕組みをした。
そして、表情をきりと改める。

めそめそしている団蔵は気づかない。

「ウソついたから、本当に病気になっちゃったのかな…。罰が当たったのかなぁ…」

「団蔵くん。治すにはどうすればいいか…分かるかな?」

「先輩…治す方法わかるんですか!?」

「あぁ。こっちおいで。」


胡坐をかいて手招きする伊作のもとへ、涙をぬぐいながら素直に近づいた団蔵だが…
いきなり足を払われ小さく悲鳴をあげた。
思わず伊作に抱きついてしまう。

「す、すみません!先輩!!」

「いいんだよ」

にこ。実に優しく笑ったそのままの顔で伊作は、団蔵の身体を今度は腹這いにさせて腰をしっかり固定した。

「!?」

しゅっ
   ぺーーーーーーん!!!


「うわぁ!!」

そのまま腕をすばやく振り下ろして、お尻の真ん中に強く打ちつけた。
思わず上体が跳ねて、身をよじる。

「先輩!?」

「………」

ぺん ぺん ぺん ぺーーーーん!!!

強い力はそのままに、縦横無尽に手のひらがとび、団蔵のお尻に痛みが走る。

「せんぱい〜〜Σ(;□;)何!?する…んですか!?」

「ん?お尻ぺんぺんの刑だよw」

ばし!

ぴしぃ!!

口調は柔らかいが、絶え間なく叩かれている上にそんなことを言われたら怖い。

団蔵は混乱しながら、「やめてください〜!!」と夢中で頼んだ。
叩かれて、わあわあ騒ぐこと数分。
苦笑しながら、少し低めの声で伊作は「静かにしないと、いつまでたっても終わらないよ」と脅した。
ぴたっと静かになる。
鼻水をすする音と必死でガマンしている様子が見て取れ、上から見下ろしながらまた伊作は笑った。

――ホント、可愛いこと☆

「団蔵くん。君の胸の痛みはね、自己嫌悪の痛みだよ?」

「ジャコ検尿?」

「自己嫌悪!悪いことしたから、自分で自分を許せないって気持ち。良心の痛みだね。
仮病を使ったことと文次郎にウソをついたことに対して…悪いと思ってるんでしょ?」

「…」

「どうなの?」

「…ハイ」

「じゃぁ、もんじにそれをいえる?謝れる?」

「…」

「怖いんだよね。怒られるのが怖いんだもんね。
でも僕も知ってしまったらほっては置けない。君は僕も騙したんだよ?だから僕も怒る。
だから、お仕置きだ。」

なるべく噛み砕いたように分かりやすく話すが…分かるかな?
自己嫌悪で苦しむより、他人に叱られたほうが幾分マシなのだよ?

こくん。

頷く、団蔵。
うすうす自分がしてしまったことが「イケナイ」と分かってきていたから…この胸のドキドキの痛みが止まるなら…

「よし。じゃぁ、これはもんじと僕からのお仕置き。あと20発。黙って受けれるかな?」

「ハイ…!」

「とびきり痛くするからね…!」

「ハィ!!(>□<)」

バシーーン!!!

ばしィィィ!!!

言葉通りひときわ強力な痛みが、袴の下まで直に伝わり、団蔵は叫びそうになった。
が、「黙って」という伊作の言葉が脳裏に響き、必死に声を押し殺す。

1打でもくらくらするのに、こんなのが20打?
早く!早く終わって!!!
息が出来ない!!

「っつ!」

「ぁ!」

「ぁう!」

伊作の膝の上で、必死に身体を縮こませて、耐える。

が、どうしても息と共に悲鳴が漏れるのは抑えられない。
20打という短いようで長い長い数の前ではどうしようもなかった。
忍者になるために6年間叩き込まれた鍛錬の成果か、華奢に見える伊作も力は強い。
お尻全体に行き届くように、丹念に叩いていった。


―――バシィィィィン!!!


「はい、終わり!」

終わった時には、息絶え絶え。

「よく、ガマンしたねw」

だぁぁぁぁぁぁぁぁ〜(涙)

我慢の反動で、団蔵は黙って泣いた。
一生懸命我慢して、辛い時間が終わって、ほっとしたら…とまらない…


「うぅ…」


袖で涙を何度もぬぐってると、伊作がイイコイイコと頭を撫でてくれた。
膝にかじりついて、しばらくそうしていた。
それからもう少し経つまで、涙は止まらなかったけれど、止まると同時に胸の痛みもどっかいったみたいだった。

お尻はひりひりと燃えるように痛かったけどねw


「先輩、ゴメンナサイ」

「ん、わかればいいさ。反省したなら、次はくりかえさないね?」

「はい…あ!あの…文次郎先輩には…」

「ああ、もんじの分までお仕置きしといたから。言わなくていいんじゃないかなw
まだ就寝時間までには間があるよ。1枚くらいなら明日までに出来る。急いで帰ってやってごらん☆」

「はい!ありがとうございました!」

ニコニコと微笑む伊作を見て、やっぱり「優しい人だ」と思い、団蔵は頭を下げた。

「じゃっ、失礼します!!」

「うん、頑張ってね〜…!」

 

 

「……さてと。おい、もんじ、もういいから出てこいよ」

「…」

天井から、スタっと降りてきたのは潮江文次郎。
苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「まったくあいつめ!」

「やっぱり想像したとおりだったねw」

団蔵の様子がおかしいと伊作からの連絡を受け、2人で「何かを隠しているのではないか」という想像に至った。
なので、わざと優しい態度をとったりして様子を見てみることにしたのだ。

「忍者がこんなことを怖がってどうする!!!」

「あっはっはっは!だって君確かに怖いもの!」

けらけらと笑う伊作を見て、文次郎はさらに顔をしかめた。

――ったく。お前の方がよっぽど怖いじゃないかよ!あの叩き方…手馴れてる…

伊作から、「もんじが怒るとまた脅えて悪循環になる。」と指摘を受けて、今回は彼にまかせてみた文次郎だった。

今回の団蔵がしたことが知れば、たしかに怒鳴りゲンコツをくらわせ裏裏山までのマラソンくらい命じるだろう。
そしたら伊作が「子どものお仕置きは、お尻ペンペンが一番だよ」と言ったのだ。
その時は「なにを手ぬるい…」と思っていたのだが…


――これじゃ、ゲンコツの方がましだぜ


自分だったら、あんなにネチネチと尻をひっぱたかれたらたまらない――と文次郎は思うのだった。


「ん?なんか言った?」

「言ってねえ!!」

「あれ?うそつきはどうなるのかな?…ねぇ、潮江文次郎くぅん?」

ニヤリとした顔に怒髪天をつき、反射的に手裏剣を投げ、それを伊作が避ける。
瞬く間に保健室は、嵐のような騒ぎに襲われた。

「わぁぁぁ、ごめん、もんじ、冗談だよ〜!!」

「黙れ!!伊作!いっぺん地獄行け!!!」

薬棚に苦無が突き刺さり、障子が破られ、薬学に関する書類と文次郎の持っていた書類がまじり…
瞬く間に散らかる保健室。

後に来た、校医の新野先生に2人ともみっちりしぼられたことは言うまでもなかった。

 

 

後日談。

以前よりも、委員長にすこ〜しだけ優しさを感じている団蔵は、会計委員の雰囲気にもへこたれなくなったようであるw

 
はやと

2007年11月10日(土)

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