滝夜叉丸  長次    きり丸  雷蔵    三郎 

 

【滝夜叉丸VS図書委員の段】

 

夕刻・・・もうすぐ夕食時になろうとする頃、一人の少年が慌しく図書室に入ってきた。
彼の名は平 滝夜叉丸(たいらのたきやしゃまる)。
忍術学園四年い組在籍。

「おおっ、まにあったか。やはり私は運がいいっ」

性格は・・・高ピーであんまよろしくないともっぱらの評判だ。


「あ、滝夜叉丸先輩」

受付に座っていたきり丸が、いやーな顔をした。

「なんだ、きり丸くん。そのいやーな顔は!!
四年生にしてこの忍術学園一の成績を誇る、実技良し教科良し美貌・スタイル良し。
おまけに戦輪の達人のこの私に失礼ではないか。あっははっはっは」

滝夜叉丸は高笑いをした。そしていきなり表情を変えた。

「こうしてはいられない!早く本を探さなければ!」

「あのー、あと図書室十分ですからね?」

「わかっておる!二分もあればみつけられるわ!」

そしてその言葉どおりに二分で受付に来た彼だったが、そこで誤算が一つ生じた。


「あのー、滝夜叉丸先輩。貸出の期限切れの本が二冊ありますよ?」

「なにっ!?」

「一週間切れてますから・・・返してから一週間はペナルティとして借りられないですね〜」

「なんだと!」

たしかに・・・たしかに言われてみれば押入れに仕舞って返すのを忘れていた。

だが!

今借りたいこの本は、今日の宿題に必要な資料。
一週間も経ってしまっては意味がないのだ。

「きり丸くん!そんな固いこといわずに貸してくれたまえ!
借りた本は必ず明日返すから。」

「えー、だめっすよー。
図書委員みんなで話し合って決めた規則ですから、ほら。」

指差した先には本棚の側面の紙。

図書委員長六年ろ組、中在家長次の字で
「借りた本は必ず期限までに返すこと(なお期限が切れた場合にはその間別の本は借りることが出来ない)」
と書かれている。
一瞬、固まったものの滝夜叉丸はなおもしつこく食い下がった。

「なあ、ちょっとくらい良いだろう?借りたいのは今日必要だからだ。
少しだけ借りてすぐ返すから。後で三冊今夜中に返すから。なっ?」

「ええぇ・・・だめなんすよー。絶対。
忍者がそんな甘いことが通用すると思うのかってことで、規則はちゃんと守らなければならないって。
中在家先輩も松千代先生(図書委員顧問の先生)も言ってたから・・・」

しどろもどろになりながらもきり丸は説明した。
先輩に脅されるほど居心地悪いものはない。とくにこの先輩は・・・。

「じゃあ、今ここでやるっ!それで文句ないだろう!?」

逆切れしてるし(汗)

「だってあと三分ですよ?」

「ぐっ・・・」

滝夜叉丸は困り果てた。
では、しかたがない!きり丸相手にはこれが一番だぁぁぁぁぁ!


「きり丸くん。取り引きをしよう!」

「え?」

「ここに食堂のタダ券がある。」

「タダ!?」

思ったとおり、きり丸の目玉が小銭化し、犬みたいに舌をハーハー言わせている。

「一枚じゃないぞ?借りた本代とゆーことで三枚渡そう。」

「ううぅぅ・・・」

「なあ!」

苦悩しているきり丸にさらに追い討ちをかける。

「・・・・・・だ、だめっすよ・・・」

「なに!?」

しかし、意外や意外ゼニ儲け大好き人間、好きな言葉は「タダ・安い・もらう・上げる・お宝・コゼニ・・」のきりちゃんが
タダ券につられなかった!
耳をふさいで目を閉じて汗だくになりながら、断っている。
だがここで引き下がるわけにはいかないのだ!!

「じゃあ、もう一枚・・・いや五枚セットもってけー!!」

「いやー、助けてーぇぇ!!」

「はい、そこまで」


後ろから声がし、二人は振り返った。

「雷蔵先輩!!」

きり丸が嬉しそうな声を上げる。
雷蔵の後ろから、雷蔵の顔そっくりの人間鉢屋三郎と、中在家長次ものっそりと現れた。


雷蔵→五年ろ組 不破雷蔵。同じ図書委員。
優しい先輩として一年は組に親しまれている。迷いやすいのが玉に瑕だが、いざというときは頼りになる先輩。

三郎→五年ろ組 鉢屋三郎。学級委員。
化物の術(変装)の名人。いつも変装していて(いつもは雷蔵の顔に化けている)本当の顔は誰も知らない。忍術の達人。

中在家長次→いかつい顔で無口な上級生。
彼が喋るところを見る人はそのあまりの不気味さに血の気を失うという。でも行動はとても親切!?縄標の達人。


「!!」

さすがの滝夜叉丸も、このメンバーが揃うともうなにも言えなかった。
きり丸は脅しから開放されて雷蔵たちに駆け寄っていく。

「えらかったね、きり丸くん。よく誘いに乗らなかったじゃないか。」

「えへへー」

「・・・・・・・・・」

長次は笑っているのかいないのかさっぱりわからない顔のまま(無表情)、頭をよしよしと撫でている。
滝夜叉丸はこの隙に逃げるべきではないかと思った。
が、三郎の顔がしっかりとこちらに向けられていて逃げるに逃げられない。


「じゃあ、きり丸くん。乱太郎くんたちが図書室の外で待ってるよ。一緒に食堂に行こうって。
ここは僕たちが後片付け、戸締りしとくから行って良いよ。」

「え?いいんですか?」

「うん。ご褒美・・・って程でもないけどね、早く上がらせてあげる」

「やったぁ、じゃあ、失礼しまっす♪」

きり丸は四人にぺこっとお辞儀をすると、友達の待つ廊下に消えていった。
どたどたと廊下を走る音がして、それも遠ざかっていく。
そして、後には窮地に陥ったらしい滝夜叉丸とそれを取り囲む先輩三人が残る。


最初に口を開いたのは三郎だった。

「こんなことをしていいのかな?滝夜叉丸。」

「う・・・」

「あ?聞こえないよ?」

「・・・・・」

「やめなよ、三郎。でもね、滝夜叉丸くん。君の態度ははっきり言って良くないんだよ?」

いつもにこやかな雷蔵に真面目な顔で言われると、本当に悪いことをしてしまったのかなという気持ちになる。

だが、素直に謝れないのが滝夜叉丸なのだ。
自分に非があるということを認められない性格。損である☆

「だって・・・こんな規則。くだらないと思いませんか?
忘れたのは悪かったけどちゃんと後で返すつもりだったし!
今日必要な本だから言ってるのに。今日の夜中までに3冊とも返しますよ!!」

ぎっと三人を睨みつけて力説する姿に、雷蔵はため息をつき三郎はにやりと笑った。

「反省の色まったくなし〜。中在家先輩、どうします?」

三郎の問いに無言で、長次は得意の縄標を取り出す。

「な、なにを!?うわああ」

避けようとした滝夜叉丸を巧みな縄さばきで捕まえ、縄で手・腕ごと胴をぐるぐると巻いたまま図書室受付の奥の部屋に連れていった。

「あーあ」

と困っているような雷蔵が後に続く。三郎も。

 


がたん

と扉が閉められ、狭い空間が出来上がる。

「や、はずして下さいよ、この縄標!」

滝夜叉丸はもがいてるが縄は外れない。
縄抜けの術を使おうとしたが、長次の縛り方は巧みだった。
バランスを崩しかけたところで雷蔵が抱きとめた。

長次が椅子に座り、その膝へそのまま滝夜叉丸を置いた。
頭が地に下がり反対側へ足も下がる。

結果的に尻だけが高く持ち上がる格好になる。

「!!???」

「・・・・・・・反省・・・・・」

ボソッとつぶやいて長次は、袴を足元までおろした。
素肌のお尻が現れ、三郎はニヤリとし雷蔵は苦笑している。

もはや滝夜叉丸はパニくっている。

無口な長次のため三郎と雷蔵は補足説明した。

「お仕置きだ」

「んとね、きり丸くんがどうしてタダ券断ったかわかる?
前にも似たようなことがあったんだ。きり丸くんは迷わずOKしちゃってね、後でたっぷりと泣くことになったんだよ」

その言葉が終わらないうちに
バッチーン!!大きな手のひらが滝夜叉丸の尻に打ち下ろされた。

「ひっ」

力が強いため、一発目からじんじんと痛みが広がった。


バチン!

バチン!

バチン!

「・・・・・・!!」

ゆっくりと打ち下ろされる痛みに、声にならない悲鳴を上げる。
もがこうにも手が封じられていて力が出ない。

バチン!!

力が出ない分、我慢もしにくくて足をばたばたさせるだけしかできなかった。


・・・・・バチン!

バチン!

十数回も打たれれば、尻全体が熱を持ち色はすっかり紅色。

「嫌だ!」

「離せ!」

「やめろ!」

滝夜叉丸は先輩相手だということも忘れて、必死に叫ぶ。
が、逆効果なだけなんだが。
さらに力が込められ、たまらず涙がにじんできた。

「いつまでたっても終わらないよ?」

「滝夜叉丸、悪いのは誰だ?」

二人に助け舟を出してもらって、この痛みから抜け出る方法を必死に考える。

「わ、悪かったです!」

「誰が?」

「自分・・・・・私が悪かったです!」

「何が?」

「ええっと・・・・ええと・・・」

「何が悪かったの?」

話してる間にも叩かれるので、ちっとも考えがまとまらなくて次の言葉が見つからない。

あーなんか泣きたくなってきた・・・。

「何が悪かったの?」

雷蔵はなおもたたみ掛けてくる。
意外に容赦ない。


「本返し忘れた・・・」

「違うでしょう?」

「きり丸・・・脅した」

「そうだね。それと?」

「?」

「まだあるよ?」

「??」

はあ、ため息を吐いて雷蔵はヒントを与えた。

「規則はなんのためにある?やぶっていい?
悪いことしたときはなんていうの?」

「規則破った、や、破っちゃだめ・・・」

ほとんどオウム返しになってるぞ。

「ご、ごめんなさい・・・」

 

…バッチ――――ン!


最後に強力なのをお見舞いされて、お仕置きは終わった。

袴を上げてもらって縄標が解かれた。
涙目になって俯いている滝夜叉丸に三郎が少し笑った。

「反省したか?」

頷く。
雷蔵も、もとの穏やかな顔に戻っている。
長次は・・・

「あれ?先輩がいない」

きょろきょろとあたりを見渡しているうちに、いつのまにか現れた。

ぼふっ

滝夜叉丸に軽く押し当てたそれは、彼が借りたがっていた本だった。

「よかったなー、中在家先輩のお許しが出たぞ」

「!あ、ありがとうございました!」

滝夜叉丸は、痛みも忘れてお礼を言った。

「・・・・・・貸し出し期限は明日・・・・」

無表情のまま言って、中在家長次は去っていった。


「さて、僕たちも戻ろうか?」

「そうだな、食堂が閉まっちまう。行こうぜ、滝夜叉丸!」

「は、はい!」

先輩たちを追いかけて、本を抱いた滝夜叉丸は小走りで追いかけていった。
しゅんとした気持ちがじょじょに、消えていくのが分かる。
よぉっし!宿題頑張るぞぉぉぉ!!

はやと

2004年06月06日(日)

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