乱太郎    兵太夫 

 

【追跡の段】

 

「あれ!?」

突然声を上げた兵太夫に、乱太郎は驚いて視線の先を見つめた。

「うん」


笹山兵太夫と猪名寺乱太郎は、共に忍術学園1年は組の生徒である。
二人は、秋休みのためこれから家に帰るところだった。

家に帰る道が途中まで一緒だったので仲良く歩いていたのだ。
町にお団子を食べに行こうとした時、人通りの向こう側に見知った顔を見つけた。
栗毛色の髪に深緑色した着物、きりっとした眉、そしてなにより二人の担任山田伝蔵に似た顔・・・。


「「利吉さ〜〜〜ん!!こんにちは〜!」」


「わあああああああ!!!」

乱太郎と兵太夫の突然の大きな声と顔に、山田利吉はのけぞった。
が、すぐに体勢を立て直し、苦笑いで応対する。

「あ〜びっくりした。なんだあ、君たちか」

「はい!僕たちこれから家に帰るところなんです。秋休みで。利吉さんはお買い物ですか?」

「いや、私はこれから仕事だ。」

乱太郎に聞かれ、利吉は即答する。

「山田利吉さん、18歳。山田先生の息子。フリーでプロの売れっ子忍者で〜す。」

「・・・兵ちゃん、誰に説明してんの?それより!なんのお仕事ですか〜?」

「乱太郎君、そういうことは聞かないのがエチケットだろ?・・・でも、今回はわりとすぐ終りそうな仕事なんだ。」

利吉がさらっと答えると、二人がうっとりした表情になる。
まだまだ超超未熟で、何年間も忍者の修行(授業)も続けなくてはならない忍者のタマゴとしては、
現場でバリバリ働いている忍者に憧れるのも当然であろう。
利吉は若くてかっこいい、忍たまたちにとって尊敬するお兄さん的存在でもある。

「「はあ〜、かっこいい〜!」」

きらきらした表情でハモる声。
そのあと照れ笑いしている側で、すばやく内緒話をしてから

「あの〜利吉さん。僕たちもついていってもいいですか?」

「お願いします!」

と頼む乱太郎と兵太夫に、利吉は笑いをひっこめてかぶりを振った。

「邪魔しませんから〜。プロの忍者のお仕事を見てみたいんです〜〜」

「すぐ終るお仕事なら簡単でしょ?少しだけ!!」

「駄目だ。いいかい?すぐ終るからと言って簡単とは限らない。
それに、君達が怪我でもしたらどうするんだ?合戦場で君達を守れる余裕なんてない!はっきり言って足手まといなんだよ」

「葦で的射?」

「違うよ、足出馬戸井だよ!」

「足手まとい!!!要するにお邪魔虫なの。
ついてきちゃ駄目。じゃあ、僕はもう行くよ。気をつけてお帰り」

ボケる二人にするどくツッコミを入れてから、これ以上何か言われる前に・・・と利吉はそそくさと消えてしまった。

「行っちゃったね。」

「うん」

人ごみにまぎれて逃げてしまった先輩忍者に、言われたことは分かったがどうも納得できない。
少し見るだけでいいのに・・・。

「どうする?」

「お邪魔虫だって(涙)」

「そうかもしれないけどさ、これは実習になるからいいよね」

「・・・見つからなきゃいいんじゃない?」

「そっか!!そうだよね〜。ばれなければ。ちょっと見るだけなら迷惑かからないよ!」

「そーだよ〜♪」

最初は少しへこんだがもともとお気楽な性質なので、話が進むうち都合よく解釈していく二人である。
そのうちいやというほどそのことを後悔するハメになるのだが、まだ現時点では知るよしもない。

「でもさ、追いかけるにしても利吉さんどこにいったのか、分からないよ。」

重大なことを乱太郎が言った。今更気づくとこが1年生である。

「うん。でもね、利吉さんが合戦場って言ってたでしょ?
しかもすぐ終るって言ってたから、わりと近いところだと思うんだ。」

「兵ちゃんすっご〜い!覚えてたんだ〜。
じゃあ、この近くで戦をしてるとこと言えば・・・アミタケ城とスッポンダケ城だ!」

「うん!よし、行ってみよう」

テスト以外では意外とするどかったりするのであった(シャレではない☆)。

 


わぁぁぁぁぁ〜!!


山を一つ分越えて近くまで行くと、戦の喧騒が聞こえてくる。
叫び声、馬のいななき、太刀が合わさる音・・・だがそんなことにひるんでいたら忍者は務まらない。
というわけで乱太郎と兵太夫は、平地を通り合戦場がよく見える崖までそ〜っと近づいていった。

「どこにいるんだろう?」

「どんなお仕事してるのかな?」


ぼそぼそ話しながら、目の前の戦から利吉を探していると

「コラ!」

後ろから低い声が聞こえた。

―――!! 

振り向くと足軽姿の利吉が怖い顔で睨んでいた。

「わあ・・・あ、あ、あ、のこれには訳が・・・」

「そ、そ、そぉなんですぅう」

「静かに!!ここからすぐ離れるんだ!ここにも合戦場になる!」

慌てる子ども達にそれ以上の言い訳を許さず、二人の手を引っ張って利吉は逃げ始めた。

たしかに兵士たちが平地からこちらへなだれ込んでくる。戦いが移動してくると共に弓も射られた。
ヒュン!ヒュン!逃げる三人のぎりぎりのところにも矢は飛んでくる。

「あっ」

小石につまづき乱太郎が転んでしまった。
勢いよく転んだので、とっさに動けない。

「乱太郎!!」

兵太夫もうろたえ止まってしまった。
が「兵太夫は走れ!!」厳しい声にまた走り始めた。
利吉は戻ってきて乱太郎をおんぶし走り始める。
結局、安全なところに逃げるまで15分もかかってしまった。

 

山の誰も通らない道まで来ると、やっと利吉は止まった。
そのまま無言で乱太郎を降ろし、擦り剥いて血がにじんだ膝を手際よく手当てしていく。
兵太夫は力つきて座り込んだ。

「さて。」

乱太郎の手当てが終ると、相変わらず表情は厳しいまま利吉は切り出した。

びくっ

乱太郎と兵太夫は小さくなる。
いつもと違う雰囲気に圧倒され、利吉が怒っているのが分かった。
自然と二人とも正座になる。

「何故、来てはいけないと言ったのに来たんだ?」

「「・・・・・・」」

黙って俯いてしまったが、なおも追求される。

「答えなさい!」

「・・・あの、ぼくたちどうしても利吉さんのお仕事見たくて・・・」

やっとのことで乱太郎が答え、兵太夫も

「邪魔・・・しないように、見てるだけならいいかと思って・・・」

「それではお前達、邪魔はしなかったというのか?」

冷ややかに見下ろされ、静かに聞かれた。

「うっ」

「いいか?あんな所に隠れても一発で分かる。
私が見つけなかったら敵がお前達を見つけるだろう。そうしたら死ぬところだったぞ!
よくても大怪我だ!合戦場をなめるな!!!忍者の仕事はそれほど甘くないんだぞ!」

「・・・ごめんなさい・・・」

「ごめんなさい!利吉さん」

「駄目だ。許さない!!」

謝れば態度が軟化されると思ったが甘かったようだ。

困ってしまって顔を見合していると、利吉が突然兵太夫を横抱きにした。

「「???」」


―――――パァァァン!!

利吉の掌が、思いっきり兵太夫のお尻に叩き込まれる。

「!痛!!」

そのまま何回も叩かれ、兵太夫は悲鳴を上げた。
忍者として鍛えてある利吉は、結構力も強い。
勢いよく振り下ろされる凶器に我慢できるものではなかった。


「イタイイタイイタイ!!やめっ ごめんなさ〜い!」

ぺんっ ぺんっ ぺんっ ぺんっ ぺんっ

利吉は手加減しなかった。

「あ〜ん、ごめんなさい!!」

必死に叫ぶがなかなかお仕置きが止むことはない。乱太郎も止められずにただ見ているしかなかった。


パァン!
パァン!
パァン!


「う、ああああああん。」

瞳が潤み、必死に耐えていた兵太夫だったが、ついに泣き声をあげた。

「やああああ!もうしません!許してください!!うわぁぁぁぁん」

それから何度か打ち込まれ、その度に自然に「ごめんなさい」とか「許してください」とか「もうしません」とか言って、
ようやく止めてもらった。
やっと下に降ろされた兵太夫はそのまま、うずくまる。
痛すぎて座ってなんかいられない。


「次は乱太郎だな」

呆然として固まってた乱太郎も横抱きにされ、我に返る。
が、どうしようもないのであった。
同じような罰が与えられ、お尻に燃えるような痛みが走る。

「仕事は遊びではない!」パァァァン!

「言いつけはちゃんと守れ!」パァァァァン!

と利吉にさんざん説教されながら打たれて、乱太郎も泣くしかなかった。

 

「ひっくひっく」「う・・・ぅぇ・・・」

しばらく降ろされた後も二人は泣いていた。
叩かれた痛みも大きいが、自分達のせいで兄のような利吉の邪魔して、怒らせてしまったかと思うと申し訳なかったのだ。

「「?」」

ぽんぽんと背中を叩かれて、乱太郎と兵太夫は顔を上げる。
そこには、先程の剣呑な冷ややかな目つきは消えて、いつもの利吉がいた。
穏やかな顔で見つめている。

「反省したか?」

優しく聞かれ二人は、自分達が許されたことを感じた。
いったん止まった涙を滝のように出して飛びついていく。

「りぎぢざああああんん」

「うわ!」

苦笑いをしながら利吉は二人を受け止めて、よしよしと頭をなでた。

「悪かったな。痛かったか?お前達があんまりにもわかってなかったんでな。」

「「ごめんなさ〜い」」

「今度から言われたことはちゃんと守るんだぞ?命に関わる場合もあるからな。」

「はい・・・でも僕達お仕事の邪魔しちゃって・・・。お仕事クビになるの?」

乱太郎の質問だったが、流石はプロの忍者だった。

「まさか!もう、調べはついたよ。あとは報告書にして依頼主へ届けるだけさ」

乱太郎たちが山を越えている間に終らせたらしい。
感心しきっている忍たまに、仕事を見たがった気持ちも分かる利吉は、
少しだけ仕事の内容とやり方を教えることにした。

「君達も授業で習っただろう?足軽に化けて敵の中に紛れ込む【賤卒に姿を変えるの術】
そして【印を取る】というのは……」

 

「じゃあ、またな」

「「さよ〜なら〜」」

次の仕事先へ向かう利吉と分かれると、もう夕方になっていた。

「利吉さん、怒ると怖いんだね。」

「うん、お尻まだ痛いよ。
でもやっぱりかっこいいね!プロの忍者って!」

叩かれたお尻は痛かったが、利吉への尊敬と憧れは続く乱太郎と兵太夫だった。 


はやと
2003年12月07日(日 )

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