きり丸  

 

          【ドクタケ城の戦の相手は…?の段】

 

 

陽気が差し込む、ある日の午後。

「きりちゃーん…やめようよぉ…」

気弱な声が引き留めようとするが、すっかり別のことに気を取られている少年は聞こうとしない。

「いいじゃないかっ、これは必要なことだぞっ」

「それじゃぁ、先生に言ってから…」

「そんな暇はないっ」

「きり丸、ホントに行くの?」

おっとりした声も聞こえたが、

「行く!」

勝気な少年はあくまで考えを変えなかった。

 


*****

気弱な声…乱太郎。
勝気な少年…きり丸。
おっとりした声…しんべヱ

忍術学園一年は組の、問題児とも言われる三人組だ。

 


三人がおつかいから学園に帰る途中、お団子屋があった。
食いしん坊のしんべヱがいるのだから、当然素通りすることはできない。
お茶にしようと近づいたら、


「――ドクタケ城が戦の準備をしているってねぇ…」

「またか、今度はどこの城だ。」

「さぁ…おれも噂で聞いただけだからな…」

団子屋の客からこんな会話が聞こえてきたのだ。

1年生のたまごとは言え、忍者のはしくれ。
陰謀のニオイにはっとした三人は、草陰に潜んでできる限り耳をそばだてた。

ドクタケ城といえば、悪どい城として有名な上これまでにも何回となく関わってきたのでよく知っている。
また戦をしようとしていると言われても、納得できるくらい敵が多い。

 

出来る限り情報を得ようとするのだが、その話はそこで終いになった。
三人は、そぉっと団子屋を離れて、十分な距離をとって木陰に座り込んだ。

「すごいこと聞いちゃったね〜」

「ね〜!今の話、ホントかな?」


しんべヱと乱太郎は純粋にびっくりしただけだったのだが、きり丸は違った。
何やらニヤニヤ笑っている。


「どうしたのさ、きりちゃん」

「おれ、これからドクタケ城忍び込んでくる」

「えーーーーー!!!」

「忍び込んで、今度どこと戦するのか聞いてくるよ。」

「で、どうするの?」

「それを戦を仕掛けられる城のお殿様に話してくるんだ!」


それでね・・・と少年はうっとりと、目を小銭化させた。

「情報を知らせたからよくやった…ってことで褒美に金貨をもらえるかもしれない〜♪」


獲らぬタヌキの皮算用とはよく言ったものである。
世の中そんなにうまくいくはずないのだが、きり丸の脳内には金貨がたんまり入った袋を渡されるシーンまで流れていた。


「でもでも…あぶないよぉ〜…」

しんべヱがあわてて止める。

「そうだよ!勝手にそんなことしたら先生に怒られるよ!」

乱太郎も困った顔をした。
ドクタケ城には、彼らの天敵ともいう稗田八方斉(ひえたはっぽうさい)を始め、数々のドクタケ忍者がうようよしているのである。
そんなところに忍び込んで、つかまったりしたらどんな目に遭わされるかわからない。
その上、先生に助けてもらわなければならず迷惑をかける。
怒られるぞ〜…と言ってみたが…


「何を言ってるんだ!これは正義だぞ!
 戦の相手を知って未然に防げればお手柄じゃねーかっ」

「きりちゃん、目を小銭化して言っても説得力無いよ〜…」


どんなに言っても、金に目がくらんだきり丸に敵うはずもなかった…。

 

 

本当にきり丸は、一人でドクタケ城に行ってしまったのだ。


「一刻経っても戻ってこなかったら、先生に知らせてほしい」と言われ、乱太郎としんべヱは、仕方なく城のよく見える山の木陰で待機した。

一刻が本当に長く感じる。

―― 早く!早く帰ってきて、きり丸!!


しかし、悪い予感ほど当たるもので、彼は帰ってこなかった。

 

 

「ねぇ…きり丸帰ってこないね…」

「うん…ボクもうお腹すいちゃったよ…」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ!急いで山田先生と土井先生に知らせなきゃ!」


乱太郎は、しんべヱの肩を押しながら、忍術学園へ戻るのだった。

 

 

 

「……というわけなんです」

「「…はぁ」」

話を聞いた担任二人はため息をついて、互いの顔を見合わせた。

お約束というか、毎度毎度厄介事に巻き込まれるは組の連中。
今度はきり丸か。
少々のピンチならなんてことない、と落ち着いてしまった自分らが情けなくもある。

まぁ、今度の場合はドクタケ関係。
首領の稗田八方斉に見つかって捕らわれた場合、めんどくさいことになることは必須だ。
きり丸の身も危険になる。助けに行かねば。


しかし…

「せんせいっ 大変です!」

今度は同じ組の、虎若が慌てた顔をして飛び込んできた。

「どうした?」

「生物委員の活動で…毒虫たちを預かってきたんですけど…
 喜三太がつまずいて、籠を倒してしまって…
 毒虫たちが逃げ出してしまったんです!」

「なにっ…またかっ」

「はい…それに…」

「それに?まだあるのか?」

「花房牧ノ介が侵入してきて、戸部先生と乱闘。
 その場所が1年は組の前の廊下でみんな出るに出られず、
 …僕だけなんとかみんなの協力で脱出してここまで来ました。
 あと、伊助が転んで鼻血出しました〜…」

「「………」」

 

「…山田先生、どうします?」

「…しかたない。土井先生はきり丸を救出に行ってください。あとはアタシがなんとかしますから」

「すみません…(^^;)お願いします…」

 

どうして、こんなに問題が起こるんだぁ〜…と思う気持ちを抑えて、教師二人はそれぞれの厄介事に向かったのであった☆

 

 


きり丸救出にはどうしても、乱太郎としんべヱがついていきたいと行ったので、連れていくことにする。
だが危険のため、先ほど待っていた城のよく見える山の木陰から動かないことを約束させ、単独で行くことにした。

「せんせ〜い…」

「大丈夫だ。すぐ戻ってくるからな」

くしゃり、と不安そうな2人の髪を撫でて土井先生は走り出した。

 

 

一人なら、忍び込むのはたやすい。
まずは居場所を探そうと、天井に潜んで話し声や気配を探る。

探っていくうちに、独特のがなり声が聞こえた。

天井板の隙間から、覗くと板の間に稗田八方斉や手下の忍者の風鬼、縛られたきり丸の姿が見える。

 

「どこの城と戦をするかって?そんなことを聞いてどうするんだ?」

「いいだろっ、そんなこと…」

「強情張るやつは……
  おそろし〜〜い罰を与えるぞ〜
   今のうちに白状した方がいいぞ〜〜」

「!な…なんだよっ
  そんな脅し…!」

「よし、風鬼!持ってこい!」

「へい!」


そんなやり取りが聞こえた。

まずいっ
拷問かっ?

きり丸の体に危害を加えるとすると、一刻の猶予もない。
土井先生は、下に飛び降りようと身構えた。


   キーーーーーーィ
    ギ〜〜〜〜〜〜ィ
      ギキャキャキャキャー〜


その時、一気に皮膚が粟立つ音が聞こえた。
風鬼が黒板を猫爪で引っ掻いている。

   キーーーーーーィ!

「ほらほらほらーーーー!」


「ぅうううう、なんて恐ろしい罰だ…」

稗田八方斉は耳を押えて唸っている。
ダメージが大きそうだ。


きり丸はというと…

  ぽかーん(・0・)

平気な顔で、稗田八方斉を見つめていた。
その様子を見て、土井先生は飛び降りるのをやめる。
ふっふっふ。甘いな八方斉!
いつも、ちびたチョークで授業してるからこんな音には慣れっこなのさ!

だが八方斉は慣れてはいなかったらしい。
鳥肌をたてて嫌がった挙句

「ぬぅ、お前、これが平気だというのか!
 おい、風鬼やめーー!」

ついにたまりかねて、止めに入る。


「あー、もう嫌な気分だ。
 ワシはちょっとお茶を飲んでくるから、きり丸を牢へ閉じ込めておけ!
 あとで忍術学園に脅す人質にしてやるからな!」


と、よろよろとなにかつぶやきながら出て行った。
耳栓をしていた風鬼もその感触が嫌だったのか、サブイボがたっている。

「おい、立て!」

縄を引っ張り、きり丸を立たせ、牢に向かおうとした。

今だ!
すかさず、天井板をずらし、とびおりて風鬼の頭を殴る。

昏倒し、のびてしまった風鬼はほっといて、きり丸の縄を苦無で切る。


「土井先生!」

「しっ、話はあとだ。脱出するぞ!」

「はい!」

きり丸を誘導しながら、誰にも見つからないように城の外へ出る。
幸いなことに誰にも見つからずに行けた。
あとは、八方斉か誰かが倒れている風鬼を見つけるまで何事もなく時が過ぎるだろう。


城から出てしばらく走り、山のふもとまで来る。


「はぁはぁはぁ…」

「山の草むらには、乱太郎としんべヱも来てるぞ。
 もうちょっとだ。
 だがその前に…
 きり丸、どうして忍び込んだんだ?」

乱太郎たちから聞いていたが、改めて問う。

「そ…それはっ ドクタケ城が戦するって聞いたから…
 ほっとけないって思って…」

勝手なことをした自覚があるらしく、急にしどろもどろになるきり丸だった。

「ほぉ。私たちに知らせようとは思わなかったのか?
 一人で行くなんて危ないだろう!?」

「だって、戦を仕掛けられるお殿様に知らせたら、お駄賃がもらえると思って!」

「お前…
 そんなことしてたら、命がいくつあっても足りないぞ!
 まだ未熟な1年生なのに!
 命と銭、どっちが大事だ?」

「ゼニ!」

思いっきり本音を暴露してから、しまった、と手で口を押さえる。

以前、命と銭どっちが大事か聞かれて「銭」と答えたとき、こっぴどく叱られたのである。


命が一番大事だろう!
そういうこというのはこの口か!
コラ!!!
もう2度と言うなよ!

そのやり取りが今更になって思い出されたが、時すでに遅し。
先生の顔が、ひきつり、眉があがって…怒りマークがこめかみに浮く。

 

ひぃっ

しまった!!

 

と失言を悔いた瞬間、グイーーー!

急に体が持ち上げられて、宙に浮く!
そして、片ひざをついた、土井先生の膝に乗っかってしまった。

何をされるのかは、これまでの経験で知っている。

無我夢中で逃げようともがくが、そんな抵抗が効くはずもなく袴が一気に脱がされた。

 

ビシーーー!

「うぁああああ!」


「きり丸!言っていいことと悪いことがあるって言っただろう!!!」

怒髪天を衝く勢いで、土井先生の掌が跳んだ。

「ごめんなさーーーい!!」


ぺん!ぺん!ぺん!ぺん!ぺん!


あっという間に痛みの渦に巻き込まれたきり丸は、失言を詫びたが…

「遅い!」

もはや、ごめんなさいでは効かないことを思い知らされる。

「最初から気付いておけ!」

ぺん!ぺん!ぺん!ぺん!


「先生!イタイ!いたぁい!」

「痛いのは当たり前だろっ、死ぬ時はもっと痛いだろうがっ
 このっ このっ
 冗談でも言ってはいけないことあるんだぞっ」


ぺん!ぺん!ぺん!ぺん!


「銭と命、どっちが大事だ?」

ここでゼニと答えるほどきり丸もバカではない。
身をふりしぼって、痛みの合間に「命です〜〜〜」


「そうだ!
 お前がいなくなったら、皆悲しむだろう!
 乱太郎もしんべヱも心配して、今も山の中で待ってるんだぞっ」

「乱太郎…しんべヱ…」

親友の2人のことを思い出して、急にしょんぼりとなったきり丸であった。


その様子に気づいた土井先生だったが、もう少しだけ叩くことにする。
少年らしい小さいお尻がすでに桃色に色づいている。

ぴしゃん!

「反省したのか?」

「しました!」

「じゃぁ、あと20発ガマンしろ!」

「えぇ〜〜〜!?」

「えーじゃない!心配かけたお仕置きだっ」


そこまで言われたら、観念するしかない。
きり丸はぎゅっと先生の膝にかじりつき、目をつぶった。

ぴしゃぁん!

改めて、叩かれるとその弾けるような痛みが辛くてたまらない。

「ぁあっ」

20回だけ…って言うけれど、長いよ…

自分のお尻がどんどん熱くなる感覚に、ひたすら叫ぶしかないきり丸だった。


「20っ!
 よし、終わりっ」


短い間なのに、汗がびっしょりだ。

眼尻にうっすら涙が浮かんでる。

許されて膝から降り、手伝ってもらいながら袴を着る。
ズキズキとしてるお尻を隠してから、彼を見つめている土井先生の目に気づいてきり丸はまた謝った。


「先生、ごめんなさい。
 オレ…もう言わないようにする…」

「…んっ。よし!」

にこっと微笑んで、土井先生は教え子の髪の毛をわしゃわしゃかき混ぜた。

へへ…ときり丸も照れたように笑う。


「あ、きり丸。
 ドクタケ城のことなんだが…」

「どこと戦しようとしてるんすか!?」

「どこも戦しないみたいだぞ」

「え?」

 

八方斉が部屋を出る時つぶやいたのを、唇の動きで聞いたのだという。

「戦なんてするわけないだろ…。殿がいないのに…」

ドクタケ城主がバカンスに出かけて留守らしいので、今のところは戦をする気はないらしい。
それを聞いたきり丸は、脱力した。

「なんだ…」
 
忍び込んで、捕まったことも、お尻を叩かれたことも…
全部しなくてもよかったことなのか…

「まぁ、くさるな。
 それに噂話に耳を澄まして情報を得ようと思ったことは、いいことだったぞ。
 ただ、忍び込むなら私か山田先生に話して行けば良かったな」

と、褒めるところは褒める。
きり丸もなんとなく嬉しそうな顔になった。

「はぁい」

「さぁ、帰ろう。みんなが待ってるぞ!」

「はい!」

元気よく、待ち合わせ場所へ急ぐきり丸と土井先生だった。

 

 

 

2009年7月28日

はやと

 

 

 

17期のアニメにきり丸がドクタケ城に忍び込む話をやっていたので、こうなったら良かったのにとゆー希望を込める(笑)

王道!ベタ!お約束!の展開でした☆

(あんまり、忍たまに生死のことを絡みたくはないんだけどね…シリアスになっちゃうから…)

 

 

 

 

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