滝夜叉丸三木ヱ門文次郎 小平太

 

【滝夜叉丸VS三木ヱ門の段】

 

 

きっかけは、そう…学園長の思いつき。
「学年対抗夏休み争奪大借り物競走」から始まった。
色々あったが…
結果だけ言うと

一位は一年と三年/二位は六年/三位は五年
四位はくの一教室/五位は教職員チーム/六位は二年

四年生は、代表選手が問題を解くことができず、失格して夏休み0になったのである。
(気になる人は原作42巻を読んでね!)

 

四年生の代表選手はい組の平滝夜叉丸。

普通の代表者なら自分のせいだと思って責任の重さにおののき、必死に級友たちに謝りまくりだっただろう。
だって楽しい夏休みがまるつぶれだぞ!!
しかし、彼はそんなに悪びれていなかった。
彼は…「自分大好き!」人間だからである。

他の同級生たちは苦笑しながら、あっさりと諦めた。
滝夜叉丸だから。責めても無益だと。
怒るだけ体力の無駄だ。
それより、有意義にさぼる方法を見つけよう。


代わりに激高したのが、ろ組 田村三木ヱ門だった。

彼は夏休み中に、憧れている火縄銃の名手の元へ行こうと思っていたのである。
それがつぶれた。

到底許せるものではない!

噛みつく勢いで、滝夜叉丸を罵倒した。
三木ヱ門の主張も最もなものだったが、それに対して負ける滝夜叉丸ではない。
すぐに口論に発展した。
もともと、犬猿の仲の二人は…顔を見合せてはケンカしている。
巻き込まれては後々が面倒。

慣れている同級生たちは苦笑しながら二人の横を通り過ぎていく。
不運にも夏休みがなくなったというショックを少しでも和らげるために、饅頭でも買いに行くのであった。


しかし周りのそんな思惑はつゆ知らず、当人たちはものすごい勢いで言い争っていた。

 


「滝夜叉丸!!!今日という今日は、絶対許さん!
 お前のせいで夏休みがつぶれたぞ!どうしてくれる!?」

「ほほぉ?この私に勝てると思うのか?この、学園一の美貌、才能を誇る滝夜叉丸様に。
 上級生すら敵うまい!三木ヱ門…哀れなる男よ」

「馬鹿野郎!火器にかけては私の方がナンバー1だ!お前なんか忍者文字もわからなかっただろーが!」

「あれは、私のあふれ出る教養…漢字についての知識が邪魔をしただけだ!」

 

喧々諤々。

半刻以上も言い争っていたが、いっこうに決着がつかない。
そのうち同時にお互いの堪忍袋がぶちっと切れると、それぞれ得意武器を持ち出して実力行使に出ることにした。


「いけ!ユリコ!」

ユリコとは三木ヱ門の持つ石火矢(いしびや…大砲のようなもの)である。
――彼は火器をとても大切に思っていて、女の子の名前までつけている。
そのユリコに怒りの点火して、砲弾を打つ。


「なんの!」

ひらりとよけて、滝夜叉丸は戦輪(丸い刃物…名前は輪子)を指でクルクル回してから狙いを定めて投げた。


良い意味でも悪い意味でも、実力が伯仲した似た者同士。
仲の悪いライバルだ。


この〜!!
なにを〜!!!

お互いに引けをとらず、避けまくるため、どんどんと道を外していく。
気がつかずに、武器禁止地域にまで踏み込んでいった。
これはやはり…お約束とゆーものだろうか。

 


武器禁止地域…全学年共同地域のことである。
上級生はともかく、下級生や食堂のおばちゃんが巻き込まれないための措置だが…
頭に血が上った2人は構わず、武器を投げまくった。

怒りに正当性をもつ、三木ヱ門の方がやや有利とも言えようか。
しかし、滝夜叉丸だっておめおめ負けるわけにはいかない。
――だって私は、実力NO.1の平滝夜叉丸だから!!!

闘いは長引くと思われた。

が、意外にあっけなく終結を迎える。

 

 

「あぁ!」

禁止地域に入り込んでから約半刻。
滝夜叉丸が戦輪を投げた先に、1年は組の加藤団蔵と皆本金吾が歩いていたのである。

「あぶない!」

と叫びながら、三木ヱ門は思わず砲弾を飛ばした。
輪子を止めるつもりだったのである。
が、慌てていて狙いが外れる。


「わあぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!」

団蔵と金吾はとっさのことで、動けず立ち尽くした。


がさっ!!


どかーん!

 

 

 

三木ヱ門も滝夜叉丸も、自分の武器が2人に怪我をさせたと思って真っ青になった。
一瞬目をつぶる。

 


ドキドキしながら目をあけると…
そこには深緑の忍者服。

 


「し…潮江先輩!!」
「七松先輩!!!」

2人の声がハモッた。

 

 


七松小平太…六年ろ組 体育委員長。
      いけいけどんどんな性格で、明るく元気。

潮江文次郎…六年い組 会計委員長。
      忍術学園一忍者してると言われる程の鍛練バカ、真面目で熱血。

田村三木ヱ門は会計委員
平滝夜叉丸は体育委員なので、二人の直属の先輩が現れたといえる。


金吾と団蔵は七松小平太のそれぞれ片方の腕に抱かれ、
驚きのあまりか少し涙目になっている。
潮江文次郎は、忍び刀で戦輪をはじき、なおかつ砲弾を避けたらしい。
流石六年生と言ってよかったが…

喜んでもいられない。


四年生の2人は、背中に冷水を浴びせられたような…ひんやりとした恐怖を味わっていた。

六年生の眼光。
あきらかに怒っている。
それはそうだ。
禁を破って、下級生(それも一年生!)にもうすこしで怪我をさせるところだったのだ。
自分たちの罪の重さを、今更にして思い知る。


汗をたらして動けなくなった四年生をほっておいて、まず先輩は一年生を慰めるところから始めた。

「よっし、ケガはないな?2人とも」

「は…はい…」

「ありがとうございます!七松先輩、潮江先輩!」

「うむ。もう大丈夫だ、安心しろ。
 そうだ、団蔵。夏休みに入る前に帳簿の打ち合わせがあるから、明日の夕方会計室へ来い」

「わかりました!」

「体育委員は何かありますか?」

「とりあえずないから、もう行っていいよ!」

「「はい、わかりました!」」

先輩たちのいつものテンションに、ほっとした団蔵と金吾は笑顔になり去っていく。
去り際にちら、と四年生を見たが、いつもお騒がせの2人なので別に気にしてないらしい。
会釈をして走り去って行った。

走りながら「ハタ迷惑な二人だよね〜」「ね〜」という声が聞こえてきたような気がしたが…

 

三木ヱ門と滝夜叉丸はそれどころではなかった。
一年生の前で叱られることはなかったが、逆にいえばそれが怖い。
自分の非を認めているからこそ…

 


「さて。」

小平太の低い静かな声が、四人の硬直を打ち破った。

「ここでは一目があるからな。2人とも来い!」

くるりと背を向けると、振り向かずに文次郎と共に歩きだす。
後ろにいる者どもが逃げるとはこれっぽっちも思ってない、自信に満ちた足取り。
そう、やはり逃げることはどうしてもできなかった。

三木ヱ門と滝夜叉丸は、とぼとぼと後をついていくしかなかったのである。

 

 

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