喜八郎 仙蔵 

 

 【立花仙蔵と綾部喜八郎の関係の段】

 

                  

          

 

「おやまぁ…」

「喜八郎…言うのはそれだけか?」
 
 
木の床に組伏せられた少年と、押さえこんで少年を見つめる先輩。
室内にはこの二人しかいない。
 
 
「…離してください?」

「お前ね…」
 
この状況にあっても、うろたえることないこの根性を褒めるべきか。
それとも、もっと反応しろとツッコミを入れるべきか。
いやいや。
私はナメられるわけにはいかんのだ。
 
仙蔵は表情を引き締め、掴んでる手に力を込めた。
 
 
 喜八郎お前、これで委員会に遅刻するの何回目だ?

 九回目です。
 
 コラ。
 冷静に答えるな。下級生にも示しがつかんだろうが。
 次回は遅れたらただじゃおかないぞ?
 わかったか?
 
 はい。
 
 
 …そのやり取りをしたのが、昨日だな。
 何故昨日の今日で、遅刻する!?


 
 
「わかっているだろうな?昨日言ったこと。ただじゃおかないという言葉を身を持って知らしめてやろう。」
 
「!」
 
 
薄暗い作法委員室。
夕方の薄明かりが差し込み、のしかかる影が長く伸びる。
まるで威圧するかのように…。

喜八郎は、思わず唇を噛みしめた。
ただ…穴を掘りたかっただけなのに。
タコ壷掘ってると精神が落ち着く。
罠にどこぞの不運さんでも引っ掛からないか想像するのは楽しいし。
穴の周りを囲う、目印にも凝りたい。
時間などあってないもの。


「……」


じっとその様子を抑えつけながら見ていた、仙蔵はため息をついて、立ちあがった。
サラ…と長い髪が喜八郎の首筋に触れて離れる。
同時に肩にかかっていた重圧がなくなり、身が軽くなるのを感じた。
身を起こすと

「もう、いい」

「…!!」

なにをされるのかと身構えていた喜八郎は、相手の思いもよらない言葉にあっけにとられた。
見つめる瞳には、冷ややかな光が夕日と共に煌めいている。

「お前、もう委員会に来なくていい」

「な…!」

「そうだろ?作法委員ともあろうものが遅刻をして悪びれないなぞ言語道断だ。不真面目な態度は他の者の士気にも関わる。」

そして私に逆らうこと…許さん
一旦言葉を切り、静かにきっぱりと

「もう来るな」


言い切った。

 

                                                                                                

 

喜八郎は身をやっとのことで起こして、呆然と仙蔵を見つめる。
信じられない。
委員長が…
可愛がられ、いつも委員長の片腕として活躍してきた自分。
こうもあっさりと切るのか?


――ズキン

急に胸が切られるような痛みに襲われた。

―ズキンズキンズキン

鼓動が早くなり、忍装束の上から胸を押さえた。
先ほどまでの平常心が脆くも消え、どす黒い不安感がせり上がってくる。

「……」


嫌だ、とすがれればどれだけ楽か。
すぐさま謝りもう1回チャンスをくれ、と頼めばこの先輩だってわかってくれるはずだ。
しかし、今この少年はどうしたら良いか分からずにいる。

いつもだったら、そう言われれば「ああ、そうですか」と引いて平気だったからだ。
言われたとおりにするだけだ。

だが…

今回は…

 

 

 

 

  ぎょっ

仙蔵は眼を見張った。

目の前の後輩の目から涙がつーと出てきたからだ。
何を考えているか分からない表情は相変わらずだが、確かに涙が流れている。

「き…喜八郎…」

「…っ」

わずかに震える口元は何かを言いかけては、出せずにいる。
片手は無意識に心臓を抑え、片手はぎゅぅと拳を握っていた。

 

 

 


 まったくお前というヤツは!!!

 

本気で言ったわけではなかった。
2〜3週間もすれば、疎外感から謝ってくると踏んでいたから言ったまでだ。
しかし、ここまでショックを受けるとは想像していなかった。
ここまで…
ここまで感じる心があることは喜ばしいことだが、そうなら初めから遅刻などしなければ良いものを。

俯くこともできずに、こちらを見ながら静かに泣く後輩を見て、流石の仙蔵も心を揺らされる。
今まで、ここまで感情を露わにしたこともない喜八郎なのに。

だが。
先ほどの言葉を簡単に撤回することは…できない。
なめられては終わりなのだ。
あえて厳しい顔を見せつけようか。
でも…

迷いが生ずる。

 

「……」

暗く深い沼の真ん中に置き去りにされたような不安感の中で、どうすることもできずに立ちすくむしかない。
そんな喜八郎を見つめる仙蔵は、とうとう決断した。


「喜八郎、委員会に出たいか?これまで通り」


「!」

こくり。
しっかりと頷く。
ノドがつかえてしまって上手く言葉が紡ぎだせない。


必死な後輩の瞳に心動かされて、結局助け船を出す形となった。

 やれやれ、私もまだまだ甘いな
 が、なめた真似をした報いはくれてやらねば。


「罰を受けるか。」

「!?」

「お前は連続無断遅刻の上に、私の言うことも聞かなかった。
ただで許してやるわけにはいかんな。」

きり丸だったらここで、「ただ!?」と目を小銭にして反応するところだったが、喜八郎は無反応だった。
ただ必死に考えている。

  罰…


「…は…はい…」

やっとのことで声を絞り出した。
仙蔵の顔が柔らかくなる。
その表情に一片の救いを見出して、喜八郎は覚悟を決めた。

 どんな罰でもいい。
 それで許しがもらえるなら。


「そこに四つん這いになれ」


意味はわからなかったが、素直に従う。
仙蔵はゆっくりと、背後にまわる。

「振り向くな」

何をするのかと振り向こうとしたら、そう命じられてしまった。
しゅっとなにかの音がする。

そして


 バシィーーーン!!!


お尻に何かが炸裂し、袴の上からだったのに重い痛みが走った。

「あぁう!」

「叫ぶな」

冷轍なる声に必死に声を押し殺す。

そしてまた、しゅっと音がした途端。

 ビシィーーー!!

と衝撃が走る。

ぴりぴりとした痛みに喘ぎながらも、身体を支えている手に力をこめて耐えようとした。

 

それからも何度もお尻めがけて何物かが打ちおろされた。

がくがくと力が入らず、体勢がなんども崩れそうになったが、その度に叱責され、なんとか四つん這いの姿勢を保つ。
声もあげられず、辛さが倍増する感じだ。


どの程度経ったのだろうか?
夕日は沈み、室内が暗くなってきている。
薄闇の中で、袴と何かが当たっては鈍い音を立て消える。
お尻の痛みは増えるのに。


冷汗と共に、じっと耐える喜八郎に

「立て」

声がする。
終わりかと一縷の希望を持った途端、

「まだ終わらんぞ?」

と打ち砕く。

四つん這いから立つ時に、緊張で硬直してた身体がよろめく。
よろよろと立ちあがった彼は、先輩の手に二つ折りにされた縄を見た。

あれが鞭となって飛んだのか…

熾烈な攻撃になるはずだ。
だが…まだ終わらないという。


にこりと微笑んだ仙蔵は、

「袴を脱いでこっちへ来い」

と命じた。自分は胡坐をかいて座る。

 

袴を脱ぐ…
何を意味しているかは、もはや明確だ。
傷ついた自分の尻を更に叩くのだ。
今度は袴の上からではなく、素の肌を。
そして、来いというからにはあの膝へ横たわれということを。

かっと顔が赤らむ。
羞恥との戦いでもある。
でも、にこりと微笑んだ顔が忘れられない。
そして、突き放されたときの絶望感を。
あんな想いを味わうのはたくさんだった。


「…」


仙蔵に近づいてから、だまって帯を解く。
闇が少しでも隠してくれることを祈りながら。
その際、先ほどに打たれたお尻の部分をさすってみると、蚯蚓腫れが刻まれていた。
ズキズキと痛んだが、仕方がない。

袴を足元までおろして、ゆっくりと屈みこむ。

待ち受けていた仙蔵は、彼を自分の膝に落とした。

 

ぱぁん!

ぱぁん!!

ぱぁん!!!


おもむろに、平手で叩く。


平手で、とは言え、先ほど痛めつけられた上に今度は素肌だ。
乾いた激しい音とともに、焼けつくような痛みに苦しめられる。


「っぁ!」


「はぅっ!!」


ぱぁん!

ぱぁん!

ぴしゃぁん!


「何が悪かったか言ってみろ」

「…!」

「黙ってたらわからんぞ」

「…っぁ」

 

       


問いかけられる間も、絶え間ない攻め。
自分は素直に言葉に出すのはあまり得意ではない…
が、答え終わるまで、どんなに時間が経とうとも許してくれないだろう。


「連続で…遅刻しました…!!」

ぴしゃっ!!

「それから?」

ばちっ!!

「言いつけ…先輩の言いつけに背きました!!」

ばしぃ!!

「それから?」

「それから…」

それから、何だというのだろう。
大まかに2つ。
この2つは自分が悪かったことを自覚している。
しかしこれ以上の罪は何か犯しているか?

次第に熱がこもり、仙蔵の手も休まず振りかぶり、打ちおろされる。

「それから??」

ばしぃ!

びしぃ!!


「あぁう!痛い!」

「仕置きが痛いのは当たり前だろう。
 答えろ、喜八郎!!」

びしぃ!!!

「ぁ!う!わ…わからない…」


切れ切れに吐息混じりに出される言葉は、困惑に満ちていた。

「自分が悪いことを自覚したか?」

「…はい」

「お前は素直にすぐに謝らなかった。」

「!」

「強情を張るな。素直に謝れ!」

 謝る…
 謝れば良かったのか。確かにそんな意識はなかった。

「…」

「聞こえないぞ!」

「ご…」

「声が小さい!」

「ごめんなさい」

「もっと大きく!」

「ごめんなさい!」

「もっとだ。素直に言えるようになるまで!!」

 


「…!あぁ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!
 ごめんなさいぃぃ!!!」

 

 

                                     

 


痛みのあまり髪を振り乱し、心の底からの渾身の叫び。
絶叫のあと、やっと平手の乱舞が止まった。


  はぁはぁはぁ…
   はぁ…

上半身は膝から床にはみ出している。
つっぷして、腕に顔をうずめながら、荒い息をつく。


じんじんと熱り、火傷のようにひりつくお尻の痛みがなおも苛む。
叫んだせいで、のども絡みついてくるような違和感がある。


 ―!

頭に何かが触れた。
仙蔵が頭を撫でているのだ。
意外な優しさに触れ許された安堵を感じ、喜八郎はほぅと息をつくと脱力した。


いきなり、くたんとなった後輩に驚きながら、仙蔵が声をかける。

「大丈夫か?喜八郎」

「大丈夫じゃありません…」

 あ、そうだった。
マヌケな声のかけ方をしてしまったため、仙蔵は赤面した。
力をこめて連打したため、掌も熱を持って痛んでいる。
しかし、喜八郎はもっともっと痛かったはずだ。

それだけ…痛めつけた。

「約束だ。遅刻はするな。そうすれば今回のことは水に流してやる。」

「…はい。」

少し落ち着きを取り戻し、いつもどおりの平常な声。
しかし、そこに意志が感じられ、仙蔵は満足した。


 そうだ、喜八郎。
 お前は私が見込んだのだからな。


しばらく頭やお尻を撫でてやり、それから立たせる。
涙の筋がうっすらと頬についていたので、拭ってやる。
拳を出すと、薄く笑って喜八郎も拳を合わせてきた。

 

 

 

その後は、ほとんど遅刻せず委員会に出席する喜八郎が見られた。
穴を掘るのは相変わらずだったが。

「また落ちたよ、君んとこの後輩のタコ壺に〜!」

「不運なのだから仕方ないな、伊作」

嘆く級友を笑いながら受け流す仙蔵だった。

 

 

 

2008年12月6日

はやと

忍術学園 四年生 綾部喜八郎(13歳)…塹壕や落とし穴を掘るのが趣味の不思議ちゃん(原作では) 作法委員所属

         六年生 立花仙蔵(15歳)…サラサラロングストレートが自慢、火薬にかけてはNO.1 作法委員長

ちょっとシリアス風味にしてみましたw   

 大きい腐のお姉さんたちには S法委員(サディスト勢ぞろい委員)として萌えられてる2人w

あんまり綾部が喋らないのは、あんまり出番なくてイマイチ性格つかみ切れてないからです(笑)

でもきっと綾部は先輩好きなんだよ。

見放されるのが怖い。という設定←うまく伝わったかな?

伊作が最後にちょろっと出ましたが、彼は不運の申し子と呼ばれた男w 綾部の落とし穴にもよく落ちてるとゆーウワサ(笑)

ラクガキ絵つき …原作風を目指しましたが、いつのまにか自分絵です(・ω・)

またもや上級生で申し訳ない。

こうなったら六年生コンプリート目指します(?)

今までカーとなった六年生→中在家長次 善法寺伊作 食満留三郎 立花仙蔵

残りの六年生→七松小平太 潮江文次郎

あ、気がついたら忍たま10作目だ!!祝!

 

 

戻る

inserted by FC2 system