作兵衛留三郎しんべヱ喜三太文次郎

 

 

 

【富松作兵衛の憂鬱の段】

 

三年ろ組 富松作兵衛(とまつさくべえ)12歳。

道具・用具の管理の要!
修補のスペシャリスト用具委員会の一員である。

普段は、一年生の面倒もよく見るイイ兄貴分だ。

しかし、彼の欠点は…
被害妄想気味ということか。

こと、用具委員長に関することでは尊敬もしてる分、関わりに対しては気を遣っている。
ひとたび失敗などをすると、とことんまで叱られることを想像して落ち込むのである。
特に、当の委員長…食満留三郎(けまとめさぶろう)
は特に気にはしていないのだが。
同級生(特に潮江文次郎とは)には、容赦なくケンカをふっかけていくが、後輩には優しい男なのである。


普段はそんなこと分かっている。

だから平常は慕ってもいる…


が、そんな彼が怖くてたまらない時があるのだ。


そして、ちょうど本日そんな「時」だった。


作兵衛は一人になりたくて、井戸のある、庭の隅まで来て木の根もとにうずくまった。


「やっちまった…」


顔がこわばっている。


「俺…やっちまった…」


じっと手を見る。


この手で、先ほど、修理したばかりのあひるさんボートの側面に穴をあけた。
つまずいて、手にしていた工具箱をひっくり返し、角と側面がぶつかり…穴があいた。
亀裂が入った。
水面と水上の境目らへん。
今は何もしていないから沈まないだろうが、走らせてたら間違いなく、水没してしまう。

もちろん直そうとした。

が、どうやっても、きれいには直せない。
しかも…
ばれないように、継ぎ目を繕おうとしたら、添え木した木が穴に突き刺さったまま抜けなくなった。
削ろうとしたら、その木も腐っていたのが見つかった。
完全にそれをとろうとしたら、ますます穴は広がるだろう。
そして、まだ腕が未熟だからかそれらを直せる技も持っていないのだ…。


「あぁぁぁ、どうすればいいんだ!!」

結局放置を選んだ彼は
頭を抱えて、悲劇のヒロイン…いやヒーローよろしく、やるせなさに震える。

先ほど。
アヒルの頭部をやっとのことで直した委員長は、にっこり笑って言ったのだ。
「このまんまにしとけよ?」
それから、授業のために一足先に去って行った。
それからすぐに、壊したわけだが…。

戻ってきたら、まちがいなく見つけるだろう。
せっかく直したボートが壊れてるのを見つけて、怒り狂う(かもしれない)。

「もし、見つけたら…」


以下妄想

★「と〜ま〜つ〜さ〜くべ〜え〜…」

地獄のボイスが聞こえるようだ。

「せっかく直したボートをこんなことするなんて〜…
お前の首をアヒルと交換こしてやる〜〜〜」

そして、首をひっこぬかれた自分がボートに据えられる…

「いーやーだー!!!」

そのことを想像した瞬間、作兵衛は大袈裟に首を振りながら崩れ落ちた…。

 

★「と〜ま〜つ〜さ〜くべ〜え〜…」

形相が鬼のように真っ赤になってる留三郎。

「せっかく直したボートを壊しやがってぇぇぇぇ…
 どうしてやろか…?
 そうだ…刀の錆にしてくれるわ…!!」

そして忍刀を抜いてブンブン振り回し、どこまでも追っかけてくる。

「こーろーさーれるぅぅぅぅ!!」

いかん、頭もくらくらしてきた。
思わず、地面につっぷす。

 

★「と〜ま〜つ〜さ〜くべ〜え〜…」

火を吐きながら巨大化している、留三郎。
ここまでくると、なんらリアリティを感じないのだが、想像力豊かな本人は必死である。

「ふみつぶしてやる〜〜〜〜〜」

そしてゆっくりと自分の図上に、委員長の無慈悲な足が下りてくる…。

「タスケテーーーーー」

そのことを想像して、作兵衛はごろごろと地面にのたうちまわった。

 


「逃げよう」

なぜか反射的に思ってしまった。

ほとぼりが冷めるまで、委員長から逃げるのだ!

うっすらと涙まで浮かべた作兵衛は、そそくさと去って行った。

今日は委員会にも出ない。
委員長に合わない。
数日会わない方がいい。

うん。

 


********

放課後、用具委員会の集まりには、留三郎、一年生の下坂部平太、山村喜三太、福富しんべヱしかいなかった。

「あれ、富松は?」

「しりませ〜ん」

「今日は見かけてませ〜ん」

「そうか…困ったな…(一年生だけか…富松がいれば助かるんだが)」


顎に手を当てて考える様を見て、しんべヱが言った。


「じゃぁ、僕探してきましょうか?」

「そうか、じゃぁ頼む。」

「はーい!」

「あ、しんべヱ!ぼくも行く〜」

「あ、こら山村!」


「二人もいかなくていい!」と止める暇もなく走って行ってしまい、後には平太と二人。

「行っちゃいましたね…」

ニコと微笑まれて、若干脱力した用具委員長だった。

 

 

 

「富松せんぱ〜〜〜い」

「どこですかぁ〜?」

ぽてぽてと歩きながら名前を呼び、あてもなく探していた二人。
普通は見つかるはずもないのだが、運命の神様のイタズラか(はやとのイタズラか)、偶然にも中庭の木陰にいた作兵衛を発見した。

「げ」

「あー、せんぱぁい。こんなとこにいたんですね〜」

「食満先輩がお呼びですよー」

嫌そうな作兵衛の顔にもお構いなしに、近づいてくる。

「いいっ、今日は急用ができて委員会にはいけないんだ」

「急用ってなんですか?」

「でも先輩ここでのんびりしてましたよね〜」

慌てる彼の苦悩なぞには気がつかない、しんべヱと喜三太にいらだった作兵衛は、思わず怒鳴ってしまった。

「うるさい、関係ないだろ!!」

「先輩…!?」

なお悪いことに、反射的に差しのばされた手を乱暴にはたいてしまった。


 ――はっ

しんべヱと喜三太が呆然としたようにこちらを見ている。
悪気はない二人。
自分を探しにきただけで、こんな反応されるとは思えなかったのだろう。
普段、自分を頼ってくる二人。


 ――傷つけた??

心なしか悲しそうな目。
そんな視線に…耐えられない。
もう…

もう俺なんか…俺のばか!!


そして後ずさりをして…作兵衛は逃走した。

 

 

 

 


「…っく。うぅ……」

「うぅ…」

薄暗い屋根裏に逃げ込んで、うずくまる。
溢れ出てくる涙で衣を濡らしながら、作兵衛は後悔でいっぱいだった。

あいつらは悪くなかったのに。
元はと言えば、俺がアヒルさんボート壊して…
それを正直に食満先輩に言わなかったから…。
俺…逃げてばっかりだ…。


己の情けなさが胸を切り刻む。


もう、もうどうすればいい?


あいつらにも、先輩にも顔向けが出来ないよ。


かと言って、この学園にいる以上…一生会わないでいるのは不可能だ。


学園を辞める!?

でも…

忍術学園での楽しい思い出が蘇ってくる。
先生たちや級友。
先輩に後輩。

嫌だ…
俺…やめたくない…!!


「うぅぅ……」

堂々めぐりの想像が辛かった。


目をぎゅっとつぶって、どれくらいの時間が経っただろうか?


ぽん


肩をつかまれ、作兵衛はびくぅっと身を震わせた。
誰!?


暗い屋根裏には誰も来ないはず。

なのに、「富松!」と呼び掛けてくる声は…聞きなれた声。
今最も会いたくない委員長、留三郎の声だった。

「せ…せんぱい!」

「おっと逃げるな。どうした?山村と福富が心配していたぞ?」

「…!…ほっといてください!」

思わずすがりたくなる想いを封じ込めて、渾身の力をこめて振り払い逃げようとした。
しかし、その動きを察知した留三郎の方が素早かった。
長身を活かし、巧みに攻撃を避け、作兵衛の体を捕獲する。
がっちりと完璧に抑え込まれて、身動きが取れない。
片手で横抱きにされた。
ついでに口元も抑えられ「むーむ〜」とうなるしかできなかった。

そのまんま、屋根裏から地上へ。

後輩とはいえ、人ひとりだきあげてるとは思えないスピードで留三郎は廊下を走った。
「あわてるこどもは廊下でころぶ」の張り紙がむなしくはためいている。
作兵衛は完全にパニック状態だった。

 


ガラ!
ぴしゃ!

用具室の扉を、足だけで乱暴に開け閉めしてから作兵衛を転がした。
無論、彼自身は扉の方を守っている。

これで、逃げ出すことはできない。

時はもう夕刻を過ぎた。
誰も用具室にはやってこない。

 

「さぁ、富松。わけを話せ。」

真剣な顔で覗きこまれて、待つ。

薄闇が漂っている室内だが、夜は忍者のゴールデンタイム。
暗闇には慣れている。
作兵衛の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃ。それが見える。
加えて、何か言いたそうで、言えない様子。
だから、待つ。


きっと話してくれる。
富松のことを信じている。

 


――どうする?
   どうすればいい??

でも、逃げ場なし。
わざわざ探しに来てくれた。
俺なんかのために。

罪を告白するのは…怖かった。

怖くてたまらなかった。

この自分を想ってくれる顔が怒りに歪むところは見たくなかったから。
自分が失望されるのが、怖かった。

 

でも、仕方ない…。


ぐっと、拳で顔をぬぐいながら、作兵衛はとぎれとぎれに話しだした。
後から後から、涙は出てきたけれど。

アヒルさんボートを壊して、それを隠そうとしたこと。
それで、委員会に行くのが怖くなって逃げたこと。
さらに、呼びにきた二人に怒鳴り、
しんべヱの手を振り払って逃げてきたこと。


「もう…俺なんか…ダメです。俺は最低なんだ…!」

「…そうか…」

長い長い…嗚咽と共の告白を黙って聞いていた留三郎が、一息ついた。
そして


ぎゅ。


作兵衛が信じられないことに、彼を抱きしめてきた!

「わーわー!!」

思わぬ行動にじたばたしていると、そのまんま抱きしめた格好で留三郎は言った。

「苦しかったな」

――…!!

その言葉に、だぁぁぁぁ…とせっかく止まった涙があふれた。
苦しかったな。
うん。
苦しかった。

すごく。

本当に…!!


動きをとめて、泣いている作兵衛の頭をぽんぽんと優しく叩きながら、

「俺が怖いか?」

と聞いた。

こくん、と頷いてから慌ててぶんぶんと首を振る後輩に内心苦笑しながら、なお聞く。

「山村や福富のことが嫌いか?」

ぶんぶんぶん!!

さっきより勢いよく首が振られる。

「なら、いい。大丈夫だ。明日、逃げたこと謝れば、あの二人ならあっさり許してくれるだろう」

「あ…アヒルさんボートは…」

「それくらいの傷だったら、すぐ治せる。用具委員長なめんなよ?」

にこっと笑ってみせると、少し安心したようだ。

「だから、正直に言え。そんなことで、逃げようとするな。
    なぁ、お前が思い込んでいるだけだ。そんなに大げさに考えなくてもいいぞ…?」

ぴく。
作兵衛の身体が硬直した。

「でも…でも…俺は…」

それでも納得がいかない。
その苦悩。


留三郎は困ってしまった。
怒らない、となだめても何かが納得いかないらしい。
どうしたらいいかを考えて…

 

あることを思いついた。

 


「…なぁ、富松。お前…もしかして罰が欲しいのか?」


「…」


さらに固まったらしいが、作兵衛はのろのろと頷いた。
逃げてしまった自分の不甲斐なさは、無償で許してもらうのは…なんか納得がいかなかった。
殴られてもいい。
このまま、一晩中吊るされてもいい。

その罰が終われば…自分の罪も終わるような気がしたから。


こくん。

と小さく頷かれ、留三郎は心を決めた。
よし。


「よし。じゃあ。覚悟しろよ?」

「はい!」

歯をくいしばって、顔にくる打撃を覚悟してた作兵衛だったが、意外なことに攻撃は訪れなかった。
その代り、袴を脱がされ、膝に落とされた。

「えぇ?」

「尻叩き、100発。数えろ」


ぴしゃーーーーん!!!


「あぁう!」


「違う。もう一度だ。」


ぴしゃぁぁん!!


「ぁあ!」


尻部分に焼けつくような衝撃が走り、作兵衛は思わず悲鳴を上げてしまう。
すぐにジンジンとした、うずくような痛みが広がっていった。

「富松。これから、お前の尻を100回叩く。
  叩かれるごとに数を数えろ。でないといつまでたっても終わらないぞ」

ぴしゃぁん!!


「はぁっ…い…いち!」


「よし。」


びしぃぃぃ!!


「に…にぃ〜〜〜!!!」


「ちゃんと数えられたら許してやる。途中でやめたら、最初からだ!」


ぴしゃぁぁぁん!!


裸のお尻を、けっこうな力で叩かれ、音が用具室内に反響する。

ぴりぴりと電流みたいな痛みが弾けるたびに、思いきり叫びたい。
痛いと喚きたい。
だが、数を数えなければならない。

「ぁ…さ…ん…!」

「聞こえないぞ!」

ぴし!!

「さん!!」


こんな調子だから、いつまでたっても終わらない。
13まで数えたところで、頭が真っ白になって、もう一回やり直しにもなった。

「何回だ?」

「…24!」

「あと76回だな」


自分で言わなければならない辛さもあり、あと76回もあるということに愕然とする。
しかし…
罰が与えられ(それも思ったよりも厳しい)、終われば許してもらえるというところに希望が見えた。

 

一方、留三郎も冷静にどこを打つか見定めている。


――損な性分だな


しかし、そこが可愛いところでもある。と思う。
真っ正直で、想像豊かで、可愛い後輩。
本来ならこんなことはしたくないんだが。

しかし、罰が欲しいかと問いかけた時の頷きには、確かな意思が見えた。
どうしても許せない自分自身。

ならば心を鬼にして、叩く!

そして、もう独りで苦しむことのないように。
これが終われば、もう苦しむな。

 

ぴしゃぁん!!!


「あぁう!!…46!!」





二人にとって、短いようで長い時が過ぎている。

 


左右、上下。
縦横無尽。
時には連打。
時には待ち時間を長くする。

そんな試しにも耐え、わからなくなった時は小さめの数を答えた。


だから、本当は100発よりもっともっとくらった。
でも。

ばしぃぃぃ!!

「っく きゅうじゅうきゅ…!」

 

ぴっしゃぁぁぁん!!


「ひゃ…ぁ…く!!」

 

 

100回を数え終わって、「よし」と赦されたときに不思議な達成感が感じられたものだ。

もちろん、尻部分はズキズキと痛み続けていたのだが。

心の痞えはどこかにいってしまったのが…感じられた。


触れたお尻は、熱くて…少し腫れている。
けど、無理やりにでも気にしないことにして、袴を直した。

 


「せ…先輩…」


「ん?なんだ?」


「ごめんなさい。」

小さい声でやっとのことで絞りだした声に、留三郎は笑った。

「もうすんだことだ。そうだろ。」

「…!  はい。」


委員長のことを怖いと思っていた。
失敗がバレたら、怒られると思ってた。
でも、そんなことはない。きちんと話せば、わかってくれる。

もう先ほどの一人ぽっちで心細い、不安な気持ちはない。

安心したような顔で少しだけ笑えた作兵衛の頭を、笑顔のまま留三郎がくしゃくしゃ撫でた。

「うし。じゃぁ食堂いくぞ?」

「え?もう夕刻過ぎたのでは?」

「大丈夫。おばちゃんに予約してきたから。あったかい、おばちゃんのご飯食べたいだろ?」

「はい!」


目の端ににじんだ涙の跡を振り払い、今度こそ作兵衛はにっこり笑った。

 

 

*****

さて、補足。

作兵衛を見つけたのは、鍛錬中の文次郎だった。
匍匐前進で屋根裏の中を移動していた、鍛錬バカである。
作兵衛に気づき、声をかけようと思ったが泣き声で「ごめんなさい…先輩…」とつぶやいていたので、留三郎に知らせたのだった。


当然ながら、「よぉ、お前んとこの3年ボーズどうした?」
と聞いてきたのだが、留三郎がお仕置きをした件を聞くと固まった。
(留三郎自身は後輩の可愛さを自慢したかっただけなのだが)

理由はもちろん、前回の伊作/団蔵を思い出したからである。


「…俺はそんなことしねぇ!」

こっそりつぶやく、文次郎だった。

 

補足2

あくる日になって、作兵衛が恐る恐る、しんべヱと喜三太に昨日のことを謝ると…

「あー、そんなこともありましたよね!」
「大丈夫ですか?先輩。なんか変なものでも食べちゃったんですか?」

とあっけらかんとしていたので、メデタシメデタシだったwww

 

補足3

その後、ちゃんとアヒルさんボートが用具委員長の手で直された。
今度こそ憂いがなくなった作兵衛だった♪

 

これでおしまい☆

 

2008年10月6日

はやと

用具委員が最近可愛いので書いてみたくなったw

とりあえず、富松イイコ♪食満は良い先輩だな!!

アニメで富松が妄想して壊れ気味だったので、思いついたネタ☆

しかし、わかる人はいまい…(^^;)

話を知らなくてもなんとなく楽しんでいただけたら嬉しいです♪

もしできましたなら、感想を拍手一言か掲示板でよろしくお願いします♪♪

補足1の方は、お尻ペンペンのお仕置きに怯える文次郎が書きたくなっただけww

内心びびってれば面白い(笑)

 

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