きり丸

 

 【ニセ利吉の段】

 

天気の良い昼下がり。
いつもは静かな野原に、今日は黄色い歓声が飛び交い、賑々しく華やいでいる。
私は仕事帰りだったのだが、ふと興味をそそられ野に近づいていった。

・・・女性が大勢・・・しかも若い女性からおばちゃんまで様々だ・・・
・・・出張バーゲンでもやってるのかな?

・・・!!!!


近づいていった先にはありえない光景が広がり、私は思わず眩暈を覚えた。
紅白の垂れ幕にでかでかとへたくそな字で看板が掲げられている。
看板には


「山田利吉サイン会」


とかいてある。
山田利吉とは忍術学園実技担当教諭山田伝蔵を父にもち、若手フリーのプロ忍者で18歳。
与えられた仕事はてきぱきとこなし、その仕事ぶりには安心確実だという定評がつくまでとなっている・・・
つまりこの私なのだ。
私はここにいる。
サイン会など開いた覚えもない。
ということは・・・私を騙る偽者があのサイン会を開いていると言うわけだが・・・。


まず顔を隠しそっと近づく。
どんな敵がいるかもわからない。
仕事上での恨みを変われたか?
が、何もしらなそうな女性たちが多すぎる。
誰が何の目的でこのようなことを?
疑問は深まるばかりだったが、あっけなくその疑問は解かれた。


「「キャー、リッキーvvv」」

「「あたしファンなんですぅ〜〜〜!!」」

「さぁさぁ、おさないでねー!順番順番。」

聞き覚えのある声。

「あっ、そこのおねーさん、利吉さんにはお手を触れないようにお願いします」


・・・・・・きり丸だ。


人ごみの中からそうっと覗くと、町の子どもの格好をして小銭と交換に整理券を配っているきり丸と、
忍びの装束を着ていて目元しか分からない怪しげな男が色紙にサインしているのが見えた。
きり丸がいた時点で、このサイン会のおおよその理由は理解してしまった。

・・・ふう、頭が痛い☆

脱力してしまうではないか!
だが、あの男は誰だ?今はわからないが・・・とりあえずきり丸をとっ捕まえた方が早い。
そう思って、女に化け知らぬふりで客に紛れ込む。


何も知らないきり丸は、営業スマイル満面でこちらに近づいてきた。

「おねーさんも。整理券1枚50銭になりまぁ〜す」

差し出された手の腕を掴み引っ張る。

「うわぁぁ!!」

よろけたきリ丸の耳元に、思い切り低い声で

「何をしてる?」

と、言ってやった。

「りっ!!!」

驚いて、大声で私の本名をばらしそうになったので口をふさぐ。

ばか!この変装は一般女性にも正体をばらさないためでもあるのだぞ!

「り、りひちしゃん、どうしてここにぃ?」

「それはこっちの台詞だ!サイン会とはどーゆーことだ?」

ぼそぼそと喋るが、他の人たちは偽利吉に夢中で気づかない。

「えーとですね、それは・・・」

あきらかにきり丸の顔が変わる。視線を逸らし、汗だくになって・・・
これは言い訳を考えてる顔だな!

「どうせ、小遣い稼ぎだろう!」

「げっ!どーしてそれを!?」

ばればれだっつーの!

「サインしているあいつは誰だ?」

「・・・・・・花房牧之介(はなぶさまきのすけ)」

花房牧之介とは、三流いや五流侍、自称「一流の剣豪」「戸部新左ェ門の永遠のライバル」と称して
忍術学園の剣術師範、戸部先生に嫌がれているへっぽこ剣士ではないか。
やはり金儲けか・・・☆
あいつも相当の貧乏侍だからなあ・・・。
しかし、自分の名を騙られて笑っているほど私はお人よしではない。

「きり丸。いますぐこの茶番を終わらせろ!!」

「ええ〜?そんな無理っすよぉ」

「急用ができたとかでもいい、すぐ終わらせて客をみんな帰らせろ。
そして牧野介と共に、山のふもとへ来い。話がある」

「・・・・・・」

「逃げても無駄だからな。どこに行っても捕まえてやるし、
逃げたら、忍術学園の父上と土井先生にも知らせるぞ。」

「・・・分かりました〜」

きり丸はしぶしぶ返事をして、牧之介のところに行って耳打ちをした。
顔が隠れていて見えないが、相当焦ったようだ。
急に立ち上がり上ずった声で告げる。


「すまない!私は急に仕事に行かなくてはならなくなった!!
サイン会はここでお開きにしよう!!」

 え〜〜〜〜!!!
 なんで!?
 私まだもらってないわよ!!

そんな声が会場から沸き起こったが、

「私も辛いのだが・・・。仕事が私を呼んでいるのだ。
愛と正義のため・・・私は戦わなくてはならない!」

・・・阿呆か。

忍者が愛と正義のために戦うか、痴れ者!
あまりのばかばかしさに、心の中で突っ込んだが女性たちは納得してくれたようだ。

 ああ、やっぱりかっこいい!

かっこいい?
装束の中身はチビでずん胴な牧之介だぞ?

 お仕事してる貴方がステキ!

そりゃどーも。

 いやぁ、愛って誰かを愛してるの〜〜!?

・・・・・・もう好き勝手にやってくれ。


くだらない騒ぎに嫌気が差してきり丸たちが客を追い出しているまに、一足先に山のふもとへ行くことにした。

―――さて、どう料理してやろう?

 

 

半時もたち、とぼとぼと歩く人影が見えた。
きり丸だ。

「牧之介はどーした?」

「あいつ・・・売上金もって逃げました!!オレがちょっと目を放している隙に・・・。
[俺は腹が痛くなったので、医者に行かなくてはならない!!]とか言いながら脱兎のごとく…
・・・おいかけたんですけど、逃げられちゃいました。」

あいつらしい。まあ、あとで追いかけていってとっちめてやろう。
きり丸は逃げ場がないからな。観念したようだ。

「あの〜、利吉さん怒ってますか?」

「当たり前だろう!!!」

「・・・やっぱり?」

「どうしてこんなことをやったんだ?」

「花房牧之介が、簡単に儲けられるバイトがあるって・・・。
乱太郎やしんべヱは今日委員会があって、遊べないから。
そんな時に牧之介と会って・・・」

元凶は牧之介か〜〜〜(怒)

あいつ、ただですまさんからな!
だがこんなことにのるきり丸も悪い!

「お前がやっていることは詐欺だぞ!犯罪だ。
金が好きだからってそこまでやっちゃいけない!!」

厳しい声で言うと、きり丸はしゅんとうなだれる。

「それに忍者は忍びのもの。
裏舞台で密やかに活躍すべき忍者の存在をあんなにおおっぴらに宣伝するばか者があるか!」

「・・・ごめんなさい」

素直なところもある少年なんだが・・・。

せっかく稼いだ金も牧之介に取られたし、反省しているようだし・・・許してもいいかな?

いや。

私利私欲のために忍術を使うようになっては困る。
忍者としてもきり丸自身の将来のためにも、子どものうちに躾けておかねば。
今日は少し懲らしめえておこう。
どんな方法がいいか・・・。

「あの・・・利吉さん?」

「あ、ごめん。」

ちょっと考え事をしていてぼーっとしていた。
きり丸ってばよほど私が怒っていると思ったらしい。
おびえた顔をしている。

よし。

子どもにはお尻ぺんぺんが一番かな。
手っ取り早いし。
幼少の頃は何度か私も、両親にこうやって叱られたからな〜。

「おいで」

手を差し伸べると、何かを察したようにきり丸の体と表情が硬直する。

「・・・・・・!」

無言で必死に嫌だと訴えているが・・・。
私は強引に手を引っ張る。
片膝をつき、目を合わせて視線で怒っているということを伝える。
そのままきり丸の体を膝に乗せ袴を脱がせた。
子どもらしい丸みを帯びた尻があらわになる。

きり丸が嫌だとか恥ずかしいとかやめてとか何とか言っているが、無視して一発ひっぱたいた。

「うわあ!!」

あれ、ちょっと痛すぎたかな。
次はちょっと手加減して打ってみる。
それでも痛いようできり丸は手足をばたばたさせて逃れようとしてる。

もー、やりにくいな!

「こら暴れるな!!」

また強めに叩く。

パン!
パン!
パン!
パン!

・・・ゆっくり、確実に痛みを与え反省を促していく。


「り、利吉さん・・・もうやめてぇ」

20発ほど打ったところで、耐え切れなくなったのかきり丸は泣き出してしまった。
お尻が赤くなってる。
ここら辺が限界かな?

「じゃあ、あと5発で終わりにしてやる」

「ええ?」

「もっと増やしてもいいんだぞ?」

「いいですううう!!」


5発は手加減なしで叩いたから、よほど堪えたらしい。
膝にうつぶせになって動こうともしないで泣いてる。
しょうがないやつだな〜と思いつつも、1年は組とは付き合いが長いためか弟のような存在。
可愛いやつである。
(バカな子ほど可愛いともいうし・笑)
袴を直し、立たせてやって涙を拭く。

「ごめ・・・さ・・・ごめん・・・」

嗚咽で舌が回ってないが、謝っているので許すことにした。
これで懲りたことだろうな。

しばらく待っていると、きり丸も徐々に落ち着いてきた。

「利吉さん。ごめんなさい」

「もう、済んだことだ。いいよ」

「もしかして・・・お仕事こなくなっちゃう?」

「いや。こんなことで干されるような仕事はしてないから平気」

「良かった〜。あっでも・・・先生に言うの?」

「言わないから。もう私がお仕置きしたし。」

「そっかぁ。良かった!!!」

心底ほっとしたような顔になってる。叱られるのが怖いんだろう。
父上も土井先生も普段は優しいが、やるときゃやるの厳しい人だからな。
「あと、皆にも・・・乱太郎やしんべヱにも内緒にしておいてくださいね」
「わかった。内緒にしてあげる」
こうして、ニセ利吉事件はケリがついたのだった。

・・・・?

ついてない!


ってことで後日。
町外れの団子屋で団子を食っている花房牧之介を捕まえる。
もちろんヤツは泡食って逃げ出そうとしたが、逃げられるものか!!!
4里ほど追い駆けまわしてやった。
牧之介には容赦しない。
子どもじゃないんだし。
売上金はもちろん没収。

もう2度としないと約束をさせて、ヤツの眉毛を片方だけそぎ落としてやった。


これで本当に、終わったのだった♪
さて、仕事にいくか。
見上げると、青空が広がり太陽がまぶしいほどだった。

はやと
2004年05月21日(金)

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