【ひな祭り】



あかりをつけましょぼんぼりに
お花をあげましょ桃の花…





****

「―――というわけで、お内裏様とお雛様をやる人が決まりました。」

帰りの会で、先生が言った。




明日の3月3日はひな祭り。
東桜小学校では、クラスごとにおだいりさまとおひなさまを決めるんだけど…
今回くじ引きの結果、おだいりさまを僕、おひなさまを幼馴染の風子ちゃんがやることになった。


僕は三好圭吾。3年生。

今…はっきり言ってとてもフクザツな気持ち…。


おだいりさまになった人は、普段は行けない体育館の舞台の上に行けるし、トクベツな着物も着れる。
それに、クラスの皆にひなあられを配る大事な係だから誰もが狙ってる。
その中で、僕に決まったのは嬉しいはずなんだけど…

「ひゅーひゅー」

ホラね。

帰りの会が終わって先生が教室から出ていくと、さっそくひやかしが始まった。


「風子とお前、結婚するんだってな」

「おだいりさまとおひなさまの役になるだけだよ!」

「ホラ、夫婦の役じゃん!けっこん、けっこ〜ん♪」

「ちゅーするの?」

「ちゅーだって(笑)」


周りの友達がどっと笑った。

「だってくじ引きで決まったんだから、しょうがないじゃないか!」

「運命なんだよ!良かったな、圭吾!」


なにが、良かったなだ!

ひやかされると、面白くないっ
嬉しいはずの気持ちはみるみるうちに、曇っていった。

そんなに言われるんなら、おだいりさまになんかなりたくないよっ


ふーちゃんはどう思ってるんだろう…

ふーちゃんの方を見ると、向こうで女の子たちと楽しそうに話してる。
ムカ。
なんだよ、僕だけこんなイヤな目にあってるのに。


「ふーちゃん!なんか言ってよ!」

「あ、けいちゃん、良かったね(^▽^)がんばろーね♪」


良くなぁぁぁぁいっ!!!!


僕はますますムカムカした。
なんだよ、人の気も知らないで!
からかわれてるんだぞ。


「もう、帰る。」

急いでランドセルと手提げバッグを持つと、駆け足で教室を飛び出る。
クラスの友達が驚いてなにか言ってるのが聞こえたけど、その前に言われた「圭吾と風子はふうふ〜」という声が頭から離れなかった。
ちきしょー!
なんか悔しい。
ちょー悔しいっ


学校の門を抜けたころだった。
後ろからばたばたと足音がして、振り向くとふーちゃんが一生懸命走ってるのが見えた。
置いてかれたと思って、走ってきたんだろうな。

僕とふーちゃんは家が近いから、毎日一緒に帰ってる。
いつもは何とも思わないし、ふーちゃんと話すのも楽しいけど…
でも今日は最悪だ。
一緒に帰ってるとこ見られたら、また「夫婦」ってからかわれる。
嫌だった。


「もーついてこないでよっ」

「なんっでぇ…はぁはぁ…まって…よぉ…はぁはぁ…」

「イヤなんだよ、今日は一人で帰るからついてくんじゃねぇ!」

僕よりふーちゃんの方が足が遅いから、もっと走れば大丈夫だ。
僕は走るスピードをあげた。


「まぁってぇ…あ!!」

悲鳴がおきて、ぱっと振り向くとふーちゃんが転んでいた。
あ…
どうしよう…
でもここで一緒に帰れば……さっきの言葉が頭を駆け巡る。イヤだ。絶対!

「うわぁぁぁぁあん!!」

後ろで大きな泣き声がしたけど、僕は…ふーちゃんを置いて家に帰ったのだった。





走ることに疲れて歩く。帰る途中何度もふりかえったけどふーちゃんは追ってこなかった。
どうしたんだろう…。
走って
転んだから、けがしちゃったかな…。
なんかすごくイヤな気分だった。
迎えに行けば良かったかもって思いと、嫌だって気持ち。
2つがぐるぐるして気持ち悪い。


「ただいま」

帰ると、玄関に入ってすぐの階段の横におだいりさまとおひなさま、それから色々なひな祭りのものが飾られてるのが見えた。



なんで!?
せっかく逃げてきたと思ったのに、家でもこれじゃ…

「やぁい、ちゅーしてみろよ〜」「お似合いだぜっ♪」「夫婦ー」
さっきのことが思い出される。

急に腹が立って仕方なくなった。
その気持ちが抑えきれない。


 バン!!


――気が付いたらさっきまで手に持っていたバッグが、飛んで行って…
 おひな飾りをめちゃめちゃに倒していくのが…見えた。


僕が…僕がやったんだ。
僕が投げたから。

マズイ、お母さんに怒られる!
と思った時には遅かった。

がちゃぁぁぁんと鳴った大きい音に、台所からお母さんが「何やってるの!!!」と急いで出てきたのだ。


ヤバイ。

咄嗟に階段を駆け上がって、自分の部屋に入る。

「けい!?なんてことしたの、アンタは〜!!!」

下から、お母さんの怒鳴り声が聞こえてる。



ドキンドキンドキンドキン…
心臓がドキドキいいすぎて痛い。

はぁはぁはぁはぁ…

でも…わかってるんだ。逃げられないことは。
だって、窓の外に出たら落っこちてしまう。
だからって、ずっと部屋に閉じこもれるわけない。
食べ物もトイレもないんだもん。
どうしよう、どうしよう、どうしよう!!!
どうすればいい?どうすればいい?

お母さんに謝らなくちゃ…。
そう思うけど、怖くてたまらなかった。動けない…。


さっきまでの腹立たしい気持ちは、いつのまにか怖さに替わっていた。

ふーちゃんの転んだ姿。ふーちゃんの泣き声。
おひな飾りが台からおっこちる様子。お母さんの怒鳴り声。
全部思い出して、頭の中がごちゃごちゃになってわからなくなる。



「けいごっ」

ドスドスドスドス!!!

お母さんの本気で怒ってる声がして、階段を勢いよく上る音がした。

あぁ、ヤバイ…ヤバイよ…こわい…
逃げたいのに、逃げられない…!!!!

  
 ガチャン

ドアが乱暴に開けられ、まるで…鬼みたいな顔をしたお母さんが僕を見下ろしていた。

「やっていいことと悪いことがあるでしょ!今日という今日は許さないわよっ」

僕はとっさに頭をかばった。
お母さん、いつもイタズラをするとゲンコツするから。


でも、今日はとんでこなかった。

代わりに、脇の下に手を入れられて持ち上げられた。
僕の身体が宙に浮く。
抱っこ…?
なはずがないんだけど…



僕はそのまま運ばれて、ベッドに座ったお母さんの膝にうつぶせにさせられた。

まさか…うそ…
急に、ずっと前に先生にお尻をぺんぺんされた記憶が蘇った。
うそだ…
お母さんがこんなことしたことないよ?

あの時の記憶…辛かったことや痛さやも思い出す。
そんな、そんな、そんなっ
あんなこと、お母さんにされたくない!!!


うそ――――!!??

ばたばた暴れるけど、お母さんは力が強いから敵わなかった。
(↑ママさんバレーでいつも鍛えてる)

嘘だと思いたかったけど、ズボンとパンツが勢いよく脱がされてお尻に冷たい空気を感じた。
そしてそのまま、



 バッチーーーーーン!!!


「いってぇ!!!」

うそじゃない!
やっぱりお尻ぺんぺんされるんだっ

そんでもって、そんでもって…

「いたぁぁぁいっ!」

 バチーーーン!!

先生より、ずっと痛い〜〜〜〜〜〜(>□<)
初めっから本気だっ

お尻がいっぺんに火事になったみたいに、痛んだ。

バチンバチンバチンバチン!と、とっても強く、早く降ってくるお母さんの手。
あっという間にお尻が熱くて痛くてたまらなくなった。
でも、終わらない。
終わってくれない。

ゲンコツなら1発か2発で終わるのに…これじゃゲンコツの方がマシだよぉ!

バタバタしても逃げられないし、痛くて苦しくて、僕は泣くしかなかった。

「うわぁぁぁんうわぁぁぁぁぁん!!!」

「泣いてもダメ!しばらく泣きなさいっ!」

よっぽど怒ってるのか、そんなこと言われた。
それがまた怖くて悲しくて涙が出てくる。


そうしてる間にも、どんどんどんどんお尻はひどいことになっていった。
こんなに痛くされたの初めてだ。

お母さん、お母さん、お母さんっやめてぇぇぇっ

もうしないもうしない もうしないぃぃぃ!!!






わんわん泣き続けて、気が付いたらお母さんの手が止まっていた。
でも、お尻はひりひりしてズキズキして熱くて、叩かれてないのに痛くてたまらない。
涙と鼻水もとまらない僕を立たせて、お母さんはティッシュで拭いてくれた。
まだちょっとその手も強かった。
パンツとズボンは元に戻していいのかわかんなかった。

お尻がまる出しのまま、涙でぼやける目で、座ってるお母さんを見ると目があった。

まだ…怒ってるのかな?
お尻、もう叩かないかな…?


「あれは、大事な、大事な、お雛様なの。
 あれは、お母さんが子どもの頃から大事にしてきたお雛様なの。
 それを壊していいんですか?」


「ヒック…だ…だめです…」

「だめなことしたのは何故ですか?」

ですます調の言葉が怖い。
何故?
何故、僕はあんなことしちゃったの?


僕は今までのことをゆっくりゆっくり思い出しながら、話したんだ。
おだいりさまに選ばれたら、皆がからかってきたこと。
追いかけてきたふーちゃんが転んだのに置いてきちゃったこと。
嫌な気持ちになって帰ってきたら、家でもおひな飾りがあって…。


「ぼ…僕…壊すつもりじゃなかったんだけど…、気が付いたら投げちゃったの…
 ホントに…ホント…」

涙がまた滲んできて、袖口で拭く。

全部話すのにいっぱいいっぱい時間がかかったけど、お母さんはちゃんと聞いてくれた。
途中で怒ることもなかった。
そして、

「わかった」

ぎゅーって抱っこしてくれた。
ゆーらゆーら。
お母さんの胸があったかい。

しがみついてると、だんだんと涙がひっこんできて気持ちも落ち着いてきた。
お尻だけまだまだズキズキしてたけど…。


「おし、圭吾っ これからふーちゃんとこ言って謝ってきな」

「え?」

「圭吾のからかわれて、イヤだった気持ちはわかるよ。
 でもね、ふーちゃんだってイヤだったと思うよ。イヤって言うか…悲しかったかもしれないよ?
 アンタと一緒に毎日帰ってたのに、勝手に置いてかれて。
 転んだのに助けてもくれないで。」

「……」

そうだ。
またあの泣き顔と声が聞こえてきたような気がした。急にまた心臓がドキドキする。

「後悔してるんでしょ?」

「コウカイ?」

「やらなきゃ良かったなぁって…失敗だったなぁって思うこと。
 後悔すると、気持ちが悪いんじゃない?」

当たってる。お母さんすごい。

「お母さんのお雛様にバッグ投げたことも後悔した?」

うん。
あれはたしかに失敗だった…。
やらなければ、こんな目に遭うこともなかったし…。

「ふーちゃんにひどいことしたと思う?」

うん。


「きっとね、ごめんねって謝ってふーちゃんが許してくれたら、その気持ち悪さはなくなると思うよ。」

でもさ、またからかわれるよ…

「からかってきた子も、本当に結婚するとは思ってないから。
 だってそんなことで結婚してたら、世の中結婚した人だらけよ〜。
 馬鹿だな〜って笑って、言い返したらそれで済むわよ。
 だから、安心して謝ってきな」

 
なんかお母さんに言われるとそんな気もする…。

バカだな。バカなことだったんだ。あんなことで腹を立てて。

「ふーちゃんとこれからも仲良くしたいでしょ?」

「うん」

「なら、行ってきなさい」

そしてお母さんは、台所からあるものを取ってきてくれた。

「わぁ…!キュアアクアのハンカチとキャンディだ!」

「もう少しでホワイトデーだからね。
 どうせ圭吾はバレンタインにもらったのに、お返しなんて頭なかったでしょ?
 だからお母さん買っといたの。これ持っていって気持ち伝えてらっしゃい」

う。お母さんって…なんでもお見通しなんだ…
確かにふーちゃんにチョコもらったよ。小学校の帰り道に一緒に食べた。
お返しは…忘れてた(汗)
ふーちゃんは、キュアアクアが好きだから、喜んでくれるよね♪


「じゃぁ、いってくるね」

その時、おひな飾りが元のように飾られてるのに気がついた。
あれ?

「三人官女の扇子が曲がったのと、牛車の足が1本とれたのだけで済んだわ。
 他は壊れてなかったから、良かったわよ。
 お雛様が壊れてたら、お母さん泣いちゃう☆」

あぁ、良かった。良かった!
これでちょっとすっきりした。
あとはふーちゃんに謝って、許してもらおう!


僕はお母さんに手を振って、家を出た。





ふーちゃんちに行くと、おばさんがニヤニヤ笑いながら入れてくれた。
おばさんとうちのお母さんは仲良しだから、電話で何か聞いたのかも…。
気まり悪く思いながらも、なんにも聞かれないことにホっとしてふーちゃんの部屋へ行く。

「ふーちゃん、入るよ」

「!けいちゃん…」

泣いた後のうっすら赤い目。椅子に座ってぶらぶらさせてる膝にはバンソウコウが見えた。
やっぱり、ケガしたんだ…。

「ふーちゃん、ごめんね」

僕は一生懸命に、気持ちを話した。

途中、「ひどいよ。けいちゃんがふーのこと嫌いになったかと思って、悲しかったんだよ」ってふーちゃんに言われた。

ゴメン。
嫌だったのは皆にからかわれたことで、ふーちゃんが嫌いなんじゃない。
転んだのに、逃げちゃってごめん。

「明日のひな祭り、ふーがおひなさまでいいの?」

いいよ。
もう…夫婦って言われるの別に気にしないことにしたんだ。
一緒にがんばろうって思ってるよ。

そう言うと、ふーちゃんはニッコリ笑ってくれた!
良かった、許してくれたんだ!

あ、そうだ。これ。

小さい紙袋の中には、プレゼント。
渡すと、笑顔がみるみるうちに大きくなった。

「わぁ、ありがとー!うれしい!!」

満面の笑顔。
それを見て、僕もやっと笑えた。
なんか、すごい嬉しいや。
コウカイがなくなったのかな☆


「実はさ、家でさ…」

こっそり、お母さんに怒られたことを話した。
お尻ぺんぺんされて、ものすごく痛かったこと。
…夏にふーちゃんのママがふーちゃんをぺんぺんしてるのを見たし、ずっと話したくてしかたなかった。
お尻叩かれるのって、痛いね(^^;)

ふーちゃんも、「そーそー、すっごく痛いよね!」と頷いてる。

「誰にも内緒ね」ってゆびきりげんまん。
なんだか秘密を一緒に持ててるような、そんなくすぐったい気持ちになった。
僕、ふーちゃんと友達で良かった!




*****

次の日の学校。
昨日急に帰っちゃったからか、からかった友達が「怒っちゃったの?ごめんね」って気にして謝りに来てくれた。
あぁ、良かった。

ひな祭り集会。

ピンクの着物を着たふーちゃんが笑ってる。
僕は緑の着物。


今日はひなあられが食べられるし、給食は大好物のちらし寿司だし。
帰ったらふーちゃんちで、ひな祭りパーティーがあるんだって。
わぁい!

他の学年のおだいりさまとおひなさまたちと一緒に舞台の上に立って、皆とひな祭りの歌をうたう。
特別なカンジ。
なんか…楽しい。


女の子の日だけど…いい日だな〜

僕はそんな風に思った。


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           おしまい☆


桜桜桜桜桜桜 

はやと

2011年3月4日
 


お、終わりますっ

ひな祭り終わっちゃったけど、1日だけだからセーフかな??

(と言いながら、アップしたのは9日だとゆー…汗)

久々に小説書いた…。

しかも、1年以上ぶりの圭吾とふーちゃんシリーズ(いつの間にかシリーズ化してたw)。
疲れたけど、楽しかったです。

スパメインというにはあまりにも最後が長いですが…あせあせ(飛び散る汗)
なにかとフォローいれたくなってしまうのだ。

小学生目線なので、読みづらいところなどもあると思う…たらーっ(汗)

でも、ちょっとでも楽しめましたら、幸いです(^▽^)
長いのに、読んでくださいましてありがとうございました!
 

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