【天国?地獄?】

 

11月中旬。
俺は季節外れの引っ越しを終えたばかりだった。
大学生になったってゆーのに、色々うるさく言われるのに耐えかねて、一人暮らしをする!と家を出てきたのだ。

親も、図体と態度のデカイ息子を家で持て余すよりは、と喜んで送り出してくれた。

学校まで1時間半だった道のりが15分になる。
これってすごい嬉しい。
寝坊もできるし。

それから、部屋のレイアウトも思うまま
いつ帰ってきても文句言われない。

ああ。もしかしてこれって天国(←パラダイスって呼べよ!)…!?

一人暮らし。

それは、自由を手にするためのキップだと。
そう信じていた。

信じていたのだが…。

 

 

「こらぁ、宇佐見!」

朝8時半、イイ感じでまどろんでた俺の部屋へ、がなり声。

「ふひゃ!?」

いきなり布団をひっぺがされて、ひんやりした空気にさらされて俺はびっくりした。

 

見ると大家だ。

藤堂冴子。
御歳、30歳…以上!?

かなりの大柄だが、けっこう美人。
美人をウリにしてるこの人のあまぁい誘いに乗って、この1kのアパートに決めたのだが…


「てんめぇ…いつまでも寝てるなんて学生の分際でふてえ野郎だ…!」

口は悪いわ、おせっかいだわで、辟易している。

 

「さ…冴子さん!今日は1限目ないんす…だから大丈夫っす…!」


寝坊したんだが、とっさに嘘がでる。
名前呼びなのは、そう呼べと命じられてるからだ。
ナイス、俺!


しかし、冴子サンは

「ほほう…そんな嘘が…通用すると思ってんのかーーーー!!
 うつけ者が!」

ぴし。
笑顔に怒りマークが浮かび、俺は失言を悟った。

まずい。

「アパートの住人の授業スケジュールくらい、把握済みだ!」

はっはっは!馬鹿がぁ!
と俺は猫よろしくえりくび掴まれて、絶体絶命になった。
把握済みって…!(・д・;)

それってストーカーってゆーんじゃぁ…(汗)


「この私に嘘をつこうとしたな?その態度…ゆーるーさーんぞぉおぉ」

「さ、冴子さん!お…おちついて!って何を、何をしようとしてんすか!」

襟首をつかみながら、もう片方の手でジャージのズボンをひきずりおろそうとしている。
な!
何をするんだよ!

やめて!

やだ!

おーかーさーれーるぅぅぅぅぅ!!!


「誰が貴様のようなお子ちゃまなんぞ犯すか!!
 10年早いわ!」

冷たい声。

「じゃぁ、何すんですか!
 やめてくださいよ!」

「お仕置きにキマっとるじゃろが!
 悪い子供は尻を叩いて躾けるのがキマリだ!」


ええーーーーーーうっそぉぉぉぉぉ!!!!

無理やり彼女の膝に乗せられ、ベッドのシーツに顔が埋まる。
抵抗むなしく、ズボンが膝までおろされてしまった。
彼女いない歴=18年。母親以外の女性一人も見せたことない尻が、今日見られてしまった。

かなりマヌケな格好だと思う。

 

恥ずかしがってばかりもいられない。

「ぎゃーーーーーー」

ビッターーーーン!!!と生尻に振り下ろされた、打撃音は部屋中に響き渡った。

  イ タ イ

あぁ!と思わず目をつぶったほどだ。

「やめーー!こんなことしていいんすか!」

「大家は、住人をまっとうな道に進ませる義務がある!」

そんな、義務聞いたことねーーーーーー!!!

俺の抗議もむなしく、手のひらの凶器は次々と雨のように降り注ぐ。
尻全体が、カっと火がついたように熱く、そして痛くなった。
こんなこと、子供のころだってやられたことねーよ!

うぁ!

「イタイイタイイタイイタイイタイ!
 やめてください〜〜〜〜!!!」

「うるさい男だ。やはりこの程度でネをあげるなんぞお子ちゃまよの♪」


ぐ。
そう言われたら、黙るしかないではないか。

バチーーーン!
ビシーーーー!

 

耐える。

だけど…
だけどそれをいいことに、容赦なくぶっ叩くなよ(涙)

「この私をたばかるとは!
 なめた真似を!」

つまり、冴子さんにウソをついたことがいけなかったらしい…。


「す、すいません!もう嘘つきません!」

「すいませんじゃない!『すみません』だ!それでも大学生か!」

「す、すみません〜〜〜〜!!」

 

叩かれる合間合間に必死に懇願し、やっと許してもらった時には
尻がひりひりと耐えがたくうずいていた。

「ホラ、早く学校行け!走れば間に合うだろ!」

時刻は8時50分。
超長く感じたのに、20分ほどしか経ってなかったのか…

たしかに走れば間に合う。

だけどさ…お尻痛いし…
髪の毛セットしてないし…

「まぁだ、叩かれたりないようだな(#^ー^)ノ」


「すんませんっした!行ってきます!」

急いで鞄に財布やケータイ、教科書なんかをテキトーにつめこんで俺は出かけることにした。


「宇佐見クン。君はなかなか素直なコだね♪
 これからも、私がよぉく面倒見てあげよう…!」

「いりません!」

バシッ!

「なにか言ったか?」

「いえ。ぁっとーざいます!」

 

念願の自由が…大家によって奪われて行く…!
これじゃ、実家の方が尻叩かれないだけマシだった…!

俺は涙目になりながら、ひっぱたかれたばかりの尻をさすりさすり学校へ行くのだった。

 

 

その後。


羽目外しすぎて泥酔したとき
アパートの規定破って、釘打って壁に穴をあけたとき
寝坊したとき
冴子さんに逆らっとき
         etcetc
俺は彼女の言う「お仕置き」とやらを何度も味わう羽目になった。
ちきしょーーーー!!

なにが天国だ!地獄じゃねーか!

大学生にもなって、子供のようにお尻を叩かれている。

恥ずかしい。のに。

…実はいつしか、嫌がるそぶりをしながら心待ちにしている自分がいる…なんて。
冴子さんの膝に乗せられて、ズボンをひっぺがされる時が一番ドキドキする。
俺のこのフクザツな気持ちを知ってか知らずか、実に楽しそうに叩いてくるのだ、彼女は。
ちきしょ、Mじゃねーぞっ(悔し泣き)

この秘密は、墓場まで持って行ってやる!

 

 

 

 

はやと

2009年11月10日

 

――宇佐見拓朗18歳の秋空への叫び。

彼はきっと戻れないところまで行くと思うwww

久しぶりに勢いだけで、書いたので楽しかったです。こんな大家さんいたら楽しいよね(^^)

 

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