【モノトーン】

 

雨に濡れた街…

眺める景色が灰色だ。

窓ガラスにはりついた水滴が…より一層のやるせない気持ちを感じさせる。


す。

と触れてみると、冷たいガラスが指を拒んだ。

 

「悪あがきか?」

静かな声が呼ぶ。

そっぽを向いていた私も、その視線と言葉を完全に無視することは出来なくて。
横目で彼を睨んだ。


「うるさい!」


「…」


言ってからしまったと思った。別に怒鳴られたわけでもないのに、苛立ちから勘違いなことを…。
また、馬鹿にされるじゃないの。
負けたような気になって、また目をそらす。


「いつまでそうするつもり?」

あぁ、やめて。

いつまで経っても終わらない。

雨はやまない。

この憂鬱な空気も変わらない。


分かってるって。
自分が悪いことくらい。
我儘を言い過ぎて、叱られたからってむくれて。
彼のことを突き飛ばした。

それから強制的にホテルに連れてかれ、お説教モードに入った。
こんな時間はキライよ。

楽しくしてたいのに。

うざったいこと言わないでよ。

もう!!


いつまで経っても終わらない、この雰囲気に嫌気がさして。
扉を閉めて、ガラスを隠した。
外界から閉ざされる。
薄暗い照明の中に、2人だけの世界が出来上がる。


「…」

黙って椅子から離れて、ベッドに座っている彼のほうへ行った。
わかってるって。
ぞっとするような、恐れが心の奥から這い上がってくる。
でも、そんな感情は認めたくないの。
気の弱い、甘ったれの女なんてタイプじゃない。
だから、許しなんか請わない。
逃げもしないわ。
やるなら、やって。
そして、早くこんな茶番は終わらせてよ。
私達は…恋人同士でしょ?もっと楽しいことしましょう。
だから、早く終わらせてよ。


気持ちを抑えて近づくと、彼も黙って腕をとり…私は膝の上に腹ばいになったわ。
いつもは穏やかな瞳が、今、眼鏡に阻まれて見えなかった。
不安な気持ちになる。
何を思ってるの…?


不安定な格好が、無様よ。
羞恥心を刺激するようなことはやめてもらいたいものだわ!
はやくやって。忘れるほどに!!


   ――――バッシーーーン!!!!


「!!!!」

薄いドレス生地からの衝撃に息を呑んだ。

続けざまに痛みが襲う。

唇をかみ締める。

息を止める。

下半身に力を入れて。

覚悟して!!!

それでも…

それでも、痛みは私の想像を超える!


――――バシッ  バシィ!

一定時間の規則正しい打ち方。
叩かれる場所がわからない。
熱い。
お尻全体が、赤く染め上げられていく…!
う…
  あ…


スカートがめくりあげられて、下着になる。
下着が腿と膝の間まで下げられて、覆い隠すものがなくなった。

そこにも強力な一打が加わる…

連発して打たれていると、思わず身をよじってしまう。
右ばかり叩かないで!
なのに、左を叩かれたら右にして!と思う。
嗚呼、なんて愚かなダンス。
息遣いは荒く、次第に漏れ出す。
激しい衝撃が、じ〜んとした痛みをもたらす。
声は…声は出さないわ!!
かっこわるいもの!!
でも…
息が詰まる。
苦しい…
痛い…

 

私は意地っ張り。
涙は見せない。
謝罪の言葉なんて口にしない。
それでも、この痛みに…
あとどれくらい耐えれば…??

 

気が狂うような灼熱と痛みに、身を翻弄され…

目をつぶり…歯を食いしばり…眉をしかめて…醜く歪んでいる顔が見られなかったのは幸い。

終わって。

早く終わって!!!!


それだけを願ってた。

分かってる。自分がしたことくらい。だから、甘んじて受けるわ。

でも、辛いの。

辛くて痛くて、苦しいの。

…早く終わって………!!!!

 


いつしか気がついたら、終わっていた。

生の傷ついた肌に、指先がふれている。
まるで、お尻と会話しているみたい。
痛みとは違う、ゾクっとするような感覚が遅い、身震いしたわ。
しばらくは、彼の指が這うようにまかせて疼きを感じていた。
そして、起き上がり…


静かに私の顔を見つめていた、彼のおでこにキスをした。


謝罪は言わないわ。

でも、もうしない。

言葉はいらない。

おでこの次に、掌で頬を挟み唇へキス。

顔に回した腕の力をほんの少し強めて、気持ちを伝えた。

 

はやと

2007年01月24日

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