【解放】

 

きっかけは、彼氏にふられたことから始まる。

私は…さびしがりやだった。

さびしがりで、甘ったれで、だから彼を重くしていたのかもしれない。

「妹みたいで、特別な感情は抱けないんだ」

その言葉じゃ納得いかずに、別れた。

妹って何?私は彼女なのに!!!
7ヶ月もつきあっておいて…!!


突然の別れで頼る背を失い、あまりのショックで泣けないくらいだった。
徐々に喪失感を感じ始め、そして徐々に悲しみが襲う。
2ヶ月間くらいは地獄を味わった。
何故?私がいけなかった?私のこの性格が…
そして始まる自虐な心。

でも。

やっと時が経つにつれ、薄れてきたんだ。

大丈夫。

大丈夫だから。

にっこり笑って言えるようになった。

それを見て友人は安心してくれる。
心配かけたね。ごめん。
もう大丈夫。
そう、思っていた。。。

 

でも喪失感は変わらなかった。

 

7ヶ月の間、休みごとに彼氏、友人と遊ぶことに費やしていたため、独りきりでいることが耐えられない。
独りだと、暗い想いに苛まされ、過去に引きずられてしまう。
だから、休みが怖かった。

そのころ私はソーシャル・ネットワーキングにハマっていた。
日記を書くと知らない人がコメントをくれる。
即コメントを返して。
コミュニティにもずいぶん入った。
その中でもオフ会コミュに心惹かれた。
誰かとお友達になれる!!
初めてのところに初めての人と会うなんて、以前の私だったら考えられないこと。
でも、今は新しい誰かと友達になれることが嬉しい、と思った。

「リアル友達作りましょう」トピックスに、勇気を出して書いてみた。
自己紹介。趣味。一度遊んでみますか?など。

早速、メッセージが舞い込んできた。

「会いませんか?僕もダーツ好きですよ。カラオケはヘタですけど」

指定された日が、ちょうどヒマだったので、即会おうの返事を出し、会うことに。
これが間違いだったのだった。


****


その初対面の人は、近頃の若者、とゆーやつだった。

でも、気にしない。

ダーツをやってれば、ただ単純に勝負を競って楽しいもの。
ツキは私にあって、時々勝ったりして嬉しかった。
その人は…悔しがったりしながらも、マイダーツを操り、2時間ほど時が過ぎた。
その間はダーツに関することしか喋っていない。
友達になるなら、もっと他に喋らなくちゃ。
そう思ったから、カラオケに誘った。
私、カラオケ大好きだもの。
でも、彼は違ったみたい。
あんましらねーんだよな…と言いながら、曲を選んでいた。だから、会話をすることにした。
それまでは、お互い敬語だった。

でも、「彼氏いるんでしょ?」というきわどい発言からだんだん、雲行きがおかしくなる。

大人ぶって応えてたつもりでも、どうしてもぽろぽろボロが出る。
そのたびに、その人はびっくりしていた。

「3ヶ月でキスっておそくない!?」

「ヤるのもそうなの?」

「ええ〜〜〜!?普通付き合う前にヤるでしょ!?」

今度は私がびっくりした。

付き合って、愛が深まってからそういうことはするんでしょ?
付き合う前じゃ愛がないじゃん!!

「身体の相性は大事だよ〜」

嫌な予感がした。

「ねえねえ、ホテル行こうよ!!」

いやよ!なんで、初対面の人と行かなくちゃならないの!?

「いいじゃん、それから知り合えばいいんだし」

「気持ちいいよ?これを知らなきゃ人生80%損してるよ?」


カラオケから出てもそんな会話が続き、ついに私は帰る事にした。

こんな後味の悪い別れ方は初めてだった。
友達になろうと、他の話題をふっても、すぐホテルと結びつける。
そのメビウスが気持ち悪かった。

話が通じない!!

確かに彼氏と別れて寂しかった。
ぬくもりや温かい背が欲しかった。
でもこんなヤツなんて、私の内面を初めから知ろうともしないでひたすら身体を狙ってるヤツなんて、触れる価値もない!!!
ぞっとするほど、イヤだった。


****


帰宅してから、おさまりきらない気持ちを日記に書く。
でも、きわめて抽象的に、だ。
こんなこと誰にも言えない…!
不愉快なことがあった!と。

中学からの親友だけが、すぐに異変に気づいただしい。

ケータイにメール。

「何があった?」

この親友にならいい、と思ってありのままを書いた。

「その男、最低!!」

怒ってくれて、嬉しい。
ほっとした。

同時に

「でも、君もね、反省すること」

う。

それを言われると弱い。

「とりあえず、詳しくはまた明日ね」

明日はもともと、そのコのお家に遊びにいくことになってたから。
メールだけじゃ、まだるっこしいし、直接話ができるほうがいい。

 

*****

翌日。
10時に親友――エマちゃんちへ向かった。

「おじゃまします」

「いらっしゃい」にこにこしながら、迎えいれてくれる。

大好きな彼女。


リビングでお茶を飲みながら、一息ついて、沈黙が訪れる。

なんとなく居心地が悪くなって、昨日のことを謝ってみた。

「ご、ごめんね」


すっと、目が細まったような気がした。

「何が?主語はしっかり言いなさい」

「昨日、心配かけて…ごめんね」


にこにこしていた彼女が急に、変化した。


「そうだよ!!何やっていたの?そんなことして!」

目が…怒ってる。
私と彼女は対等で。

甘えたがりの私が子どもっぽく接するのでお姉さん的存在だったが、
彼女の悩みには私がお姉さんになって精一杯一緒に考えてきたし、ケンカしたこともなかった。

こんな目は初めてだ…!

ため息をつかれて、こんなこと言われた。

「もっとしっかり注意しておけば良かった…」


しどろもどろになって、言い訳する。
ホテルに誘われたけど、ひっぱりこまれてはいないから、大丈夫。


「そういう問題じゃないでしょ!?」

途端、また怒られた。

「もう…!全然分かってないんだから!!」

「危ないところだったの!分かる?」


…う、うん。
一生懸命頷いたけど、まだ怒ってた。

「来て!」

手首をつかんで、エマちゃんの部屋へ連れて行かれる。

なに?なに?なに?

戸惑うけど、素直に従う。

すると彼女は手首を掴んだままベッドに腰掛けて、膝を叩き、「ここに腹ばいになって」と言った。

悪い予感がした。
急に心臓がどくどくしはじめる。
腹ばいって…

腹ばいって…

なにするの!?


頭の中によぎったのは、マンガの中のお仕置きシーン。
子どもがお母さんの膝で、お尻をぺんぺんされてるところだった。


顔に脅えが出ていたのだろう。

表情で考えていることがわかったみたいで、彼女はきっぱりと言った。

「そう。そういうことね。」

や!やだ!


と言おうとした。けど。

もともと悪いのは私なんだ…こんなに心配かけちゃったから…
だから、今までにないくらい彼女を怒らせてる…と思ったら、逆らうことは出来なかった。

もたもたしながらも、おずおずと膝の上に腹ばいになった。

同じくらいの体型だ。
自分の体重がのしかかることに、若干の罪悪感を抱きながら相変わらずドキドキして戸惑ってしまう。

 

スカートが捲り上げられ、下着一枚の姿になってしまう。
恥ずかしいよ!

ピシャン!

第1発目がきた。

「いたぁ!」

ピシャッ

ピシャン!

ぺシィ!!

力が篭っていた。

いたい!

いたい!

いたい!!

あっという間に真ん中らへんがひりひりとしてくる。


しばらくは無言で叩かれ続けていた。

エマちゃんも喋らない。

私も、食いしばって息が漏れるのをガマンする。
耐えて耐えて。
でも、耐え切れなかったのは私のほうだ。


ピッシャーーーン!!

一番強烈な一打がお尻に来た時は、叫んでいた。

「うわぁぁぁん!!」

そっから、歯止めがきかなくなって。

「やだ!やだ!」

「やぁぁぁん!!!」

声があとからあとから出てくる。

ピシャン!  「いたい!」

ぴしゃん!  「やだ!!」


「やだじゃない!本当に理解してないでしょ!」

「もっと痛い目になってたかもしれないんだよ!?」


エマちゃんも対抗するように、声をだした。


「寂しかったなら初めからそういいなさい!」

「大丈夫だっていうから、信用してたのに!」

「メールのやり取り1回しかしてないで、会えば、そりゃ餓えてる女の子だって思われてもしかたないでしょ!!」

「付け入られる君のほうも、イケナイんだよ!?」


次第にヒートアップしていく力に、なす術もなく、翻弄されていた。

考えが次第にマヒしていく。
彼女に言葉だけが、文字通り叩き込まれ…。
痛くて痛くて。
でも泣けなくて。
苦しかった。
ぼんやりと過去を振り返り…そして今を省みる。

「君に何かあったら…私は…」

その言葉で急に現実に引き戻された。

心配してくれるのは…愛があるから。

こんなにも怒ってるのは、私のことを想ってくれているから。
それが分かった。


2ヶ月間、自分のことを呪い、嫌い。

自分のことなんて好いてくれる人はいないと、時に落ち込み。
自分の存在価値すら悩んできた、私に、痛いほどの思い遣りがぶつかって。

はじけた。


バシィィ!!

「う、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

泣いていた。


失恋して初めて。


カナシイカナシイ、イタイイタイ!!

圧倒的な痛みが、涙をもっと誘う。

「いたいよ〜!」

「ごめんなさ〜い!!」

「寂しかった!!!」

「痛い、痛い!!」


自分でもびっくりするような声。

涙。

泣きじゃくるのは恥ずかしかった。

でも、不思議な気持ちになっていた。

2ヶ月間の色々な感情が一気に吹き出たみたいだった。


もう、エマちゃんも何も言わなかった。
ひたすら、叩いて叩きつくした。

 


*****

「大丈夫?」


いつしか膝から下ろされ、今度は頭が膝の上。

よしよし、とずっと撫でられていたみたい。

でもそれすらも、さっきの激情の後の余韻でぼーーっとしていた私には気づかなかった。
急に、頭が働き始めた。

「うん。ごめん」

「いいよ。わかってくれた?」

「うん。怒ってくれてありがと」


お尻は燃えるように痛くて。
泣いた顔はくしゃくしゃで。
でも、すごく気持ちがすっきりした。
驚くほどの解放感だった。

苦しい気分も悲しい気分も消えていた。


「愛情が欲しかったんだよね?」

「うん」

「素直に言いなさい☆側にいるから。
いい人が見つかるまで一緒に探してあげるから。」

「2人で会うなら、もっと見極めて。その人の人柄を判断してからいきなさいね。
オフ会全部がだめっていってるんじゃないの。複数ならむしろ安全だから。」

「でも軽はずみな行動は、2度としないでね」

「うん…ありがとう」

もやもやがすべて消えていって


私は…もう同じ間違いはしない。

恋愛にあせらない。

自分のペースで、次への恋がうまれるまで、ゆっくり進む。

そう決めたのだった…。

 

それから、エマちゃんと私は、手の平とお尻を氷で冷やして。

顔を見合わせては、二人とも照れたように笑い。

その後は何事もなかったかのように、違う話題で盛り上がった。

 

 

この親友に…心からの感謝を。
 

 

はやと

2006年08月27日(日)

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