【無題】

 

鏡の中の自分の顔は見ない。

くるり、と回って振り向く。

裸のカラダが見えた。

うーん、太腿がやっぱり気になるかも。


  す。

とお尻に手を置いて、すこし撫ぜる。

  
    きゅ。

と胸が高まって、急にドキドキし始めた。


つまんでみたら、少しだけ痛い。
でも、これだけなんてガマンできない。
熱く…でももどかしい気持ちが湧き上がる。

ねぇ、叩いて。

誰か叩いて。

この生白いお尻を…赤く。

熱く。

痛みを与えて。
激しい痛みを。
ガマンできなくて暴れるくらい。
暴れたら押さえつけて。

「暴れるな」って命令して。

それでも動いてしまうカラダとあたしを、叱って…。

低い静かな声で、言われる。

絶対に回避できない罰の宣告。

「…お仕置きだ」

 

恐ろしいはずなのに甘美で。
淫媚な響き。
妖しく胸がときめき…
それを隠して、幼い子のように振舞う。
その言葉と存在に屈服する。

「ごめんなさい」

幾度言ったら許される?

好きにして
好きにして

好きにして!!!


嗚呼、そんな苦痛の時間に身を浸したい。

でも私は一人。
誰もこの嗜好を知る人はいない。
誰も漫画のお尻ぺんぺんのようにしてくれない。

つまんだ手をどける。

振り上げて、ぱしっと打ってみる。

だめ。
こんなんじゃ効かない。

思い切りできない自分がもどかしい。


誰か。

誰か。

無理やりこの身を引き裂いて。
無理やり、お尻を思いっきりひっぱたいてみて!
痛みが欲しい!!!

 

鏡の中…の自分がにやりと笑った。
そして、唇が動く。

「いいよ…」

 

「え?」

疑問に思ったときはもう遅い。

「出てくるはずのない」手が出てきて、「行ける筈のない」鏡の中へひきずりこまれた。


部屋の中。さかさまの部屋の中。
窓の外は真っ暗くて不思議な青い光をはなっていた。


その中で、ゆっくりと恐怖がしのびよる。


さっきまでは普通の世界。
今は、何!?
ジブンガキバヲムク…!!


「さぁ、望むものを与えてあげる」
 
自分だけど、自分じゃない。
勝手に動くソイツは、きらきらと異様に目を光らせて近づいてきた。

突然の非日常な出来事に凍ってしまったあたしを、立たせて、ソイツはいざなう。
 
抵抗もできないままに、イスに腹ばいになる。

そして、悪夢の時間が…


バシィィィィッ!!!

夢ならありえないくらいの灼熱の痛みが弾けた。


「あああああああああ!!!」


コレだ!

コレの痛み…!!!

でも…もうだめ…!!
堪えられない!!!

涙目で振り返ったらにぃと笑われた。

 

「ダメだよ…あれほどまでに望んでいたんだろ?」

「…!」

「呼び出しておいて、1発で音を上げるなぞ許さない」

「…」

「こんなもんじゃすまないよ。
  オマエのお尻が熱く痛く堪えられないほどに痛んでも…終わらせない。」


バシィ!!!

「あぁう!!」

ビシィ!!!

「うわぁぁ!」

ビシィッ!!!!

「あーーーーーーーーーー!!」

「暴れるな!!!」

そんなこといったって…

「悪い娘には…たっぷりと罰を与えなくては。」

 

さっきまで考えていた妄想が現実になる…。
ここは何?
どこ?
どうしてこんな目に??
望んでいたことが現実になって嬉しいはずなのに、どうしてこんなにイヤなの??

「いや…」

小さく悲鳴をあげても無駄だった。

ソイツは魔法の言葉を唱えたのだ。

「悪い子はお仕置きだ…!」

「!!!!」

「気が済むまでいたぶってあげよう。
  蚯蚓腫れがついて、それが押しつぶされて。赤みが増していき、痛みは激しくなる」

「いや…」

「手を出してはいけない。暴れてはいけない。
 そんなことをすれば…わかっているね?ずっと終わらないよ?」

「やだ…」

「さぁ…思う存分に味わうがいい…」

「イヤァァァァァァァァァ…!!!!!!」

 


――地獄が展開される…

暗い…暗い…部屋の中で鞭打ちの音と悲鳴だけが交錯して…、絶え間なく苦痛のみが与えられていく……――――


鏡の中。

閉じ込められた私には

もう

助かる

術は
  


ない。

はやと

2008年04月24日(木)

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