【ついてない日(?)】

 

〇月△日水曜日。

私は度重なる不運に、ただでさえ少ない忍耐力をすり減らしていた。

 


まず、遅刻。
今まで無遅刻無欠席を誇っていただけに、かなり落ち込んだ。
目覚まし時計が壊れていたらしい。
(それは自分のせいではない)

そのために、上司にねちねちと言われた。

「社会人としての自覚が足りない…」云々。


わかってる、そんなこと。
わかってるからこそ、落ち込んでいるのに。
言われても仕方ないと思いつつ、厭味ったらしい言い方に傷つき腹を立てる。

 

第二。

上司に言われて不機嫌になっても、気分を切り替え仕事モードにしようとした。
なのに、隣の部署のセクハラ親父が慰めるふりをしてボディーダッチ。

気易く触るな!!

 

第三。

こちらで出した注文が、相手先の会社に正確に伝わっていなかったらしく、納期に間に合わないと電話がきた。

そんなことを言われても困る!

こちらはきちんと確認して出したのに。
このアホ会社!
部下の教育くらいしやがれ!


その他にも、ボールペンのインクの出が突然悪くなったり、昼休みの食堂でお気に入りのメニューが売り切れていたとかなんとか…
とにかく細かいことだが、朝のことをひきづっていた私にとっては不運が重なったように感じたものだ。


イライラはMAXに達した。

 

トイレから帰る途中にあった、ごみ箱にあたるほどに。

 


がすっ

蹴っ飛ばしたら、鈍い音とともにごみ箱は倒れ中のものが散乱する。


こんなもんで気分を完璧に晴らすことはできなかったが、確かな感触と結果にちょっと満足する。


ふっと意地の悪い笑みが浮かんだ。

ごみが散乱しているが、誰も見てはいない。
(ここの階は、あまり人が立ち入らない場所なのだ)
ならば、直してやる気はない。

直さなくてもいいよね…。

このまま立ち去ってしまえばいい…そう思って、歩き出した時だった。

 

「コラ!待ちな!!」

大声に思わずびくっとして振り返る。

小柄だが恰幅のいい掃除のおばちゃん(推定60歳くらい)が、こっちを睨めつけていた。

「なに?」

「なに、じゃない!散らかしたゴミはちゃんと片付けていけ!」


カチンときた。

「見てないくせにそんなこと言わないでよ!」

「見てたよ!」

「誰もいなかったわよ!」

「見たんだよ、男便所掃除した後になっ」


ぐ。

女子トイレに誰もいなかったので、いないと思い込んでいたか。

でも、指摘されても今の私は素直に聞ける気分ではなかった。
もう自棄になってどうしようもないのである。
ごみ箱けっとばしたらいけないか。
こちとら、イライラしてんだよ。ババァ!!

 

で、あくまで反抗的な私を見て、そのババァはふぅと溜息をついて頭を振った。

「まったく…近頃の若いもんときたら…」

次の瞬間、私は手をつかまれ強引に引きずられていた。

「なっ…ちょっと!放して!!」

「放すか、あほんだら」


意外と握力があり、引きはがせない。

その引きずりは、案外すぐ終わった。
ほんの5〜6mだけである。
ババァは、廊下の真ん中にさりげなく存在している扉を開けた。
6畳くらいの(想像より広い)部屋にどんと押し込まれて、私は思わず尻もちをついた。

室内にはトイレットペーパーがたくさん積みあがってある傍ら、ロッカーと小さい椅子と机があった。
机の上には湯のみが。
どうやらここは、倉庫兼休憩所になってるようだ。

尻もちをついた私には目もくれず、ババァは鉄製の扉にしっかり鍵をかけた。

 

そして、振り向き、腕を組んで見下ろす。

 

小柄だが、今は座ってる私の方が小さくなり、不思議とババァが大きく見えた。
怖い顔をしている。
(当り前か、さっき喧嘩売ったし)
迫力負けしそうになって、私は愕然とした。
ここで、負けてはいけない。


「なによ!」

「ふん、そんな口がどこまで聞けるかね」

ババァはニヤリとしていきなり私の耳をひっぱった。
いや、ひっつかんだという表現の方がぴったりである。
思わず痛みで飛び起きたくらいだ。

「なっ」

なにすんのよ!と怒鳴ろうとしたが、そのまま引っ張られて思わず前のめりになった。
それこそが思うつぼだったとも知らずに。


前のめりになった私を捕まえ、ババァは椅子にすわりその膝にこの体を落とした。


そして、

バァン!

   バァン!

      バァァン!!


突然、音高く私のお尻をひっぱたき始めたのだ。

 

ぴったりと密着したタイトスカートだから、衝撃がもろにつたわってくる。
私はびっくりした。

おばあちゃんとも呼んでもいい年ごろのおばちゃんが、こんな力があるなんてしらなかった。

お尻はすぐに熱くなり、ズキズキと痛み出した。

「やめて!放して!!」

「だめだね。この小娘!」

「小娘ってなによ!」

「小娘だから小娘と言って何が悪い!いくつだよ!」

「失礼ね!もう26なんだから!」

「ふん!アタシの子どもは42歳だよ!26なんてまだまだくそガキだね!」


やり取りをする間にも、絶え間なく力強い掌が降ってくるのである。
たまったもんではない。
加えてこのババァ口が達者である。
しかも!

スカートをめくり上げ、ストッキングを下着ごと下ろそうとするではないか!


「キャァーーー!!」

じたばたするが、「おとなしくおし!」ととびきり強い平手を喰らって、その痛みに私は固まる。
その隙に、やすやすとババァはストッキングと下着を脱がしてしまったのだ!

それが膝のあたりが絡まって、足が動けない。

お尻がジンジンすると共に、ひんやりと風を感じた。

 

「さぁって、こっからが本番だよ!
 アンタは悪い娘(コ)だ。
 そんな娘はお仕置きが必要だからね。」


ぞくり。


「たーーーーっぷりと、思い知るがいいよ!」


バッチーーーーン!!

バッチーーーーン!!

バッチーーーーン!!


激しい音とともに、お尻に火花が散った。
その痛さといったら、先ほどの比ではない。

「この…悪い娘!」

「いたぁぁーーーい!!!」

「悪い娘!」

 
「ワルイコ!」と何度も言われ、お尻を叩かれている。
その屈辱…。
痛くて無我夢中だったが、うっすらと過去のことを思い出す。

小学生の時に嘘ついて子どもたちだけで行ってはいけないところに行って、お母さんにこうやってお尻を叩かれたこと…
長らく忘れてた。
その時も「わるいこ!」とぴしゃんぴしゃんぶたれて、泣いたのだ。
う、嫌なこと思い出した。

胸がきゅぅと締め付けられて、不安感が増した。


膝の上で、逃げられなく、みっともない恰好でお尻をぶたれてる自分…。
まるで本当に子どものように。

 

イライラしている気持ちが急に萎え、代わりにじわじわと不安感でいっぱいになる。


痛い…

痛い…


痛い…!!!


何回叩かれたかもうわからない。
バチン!と降ってきたら、びくんと身体が跳ねて悲鳴が漏れ、お尻がますます熱く痛くなる。

「いやぁ…!」

頭がぼんやりして
もう小さく悲鳴を上げるしかできなくなっている。

 

 

****

 

どれくらい経ったのだろうか。

「反省したか?」

「………」

口を開く元気もなく、こくりと頷く。

「まだ悪い娘か?」

 

ふるふると首を振る。
ジワジワ、ズキズキ、ジンジン…とにかくお尻自体が言いようのないくらいほど痛い。
それになんだか、泣きたいのに泣けなくて変な気分。

喉元まで出かかった言葉がなかなか出てこなくて、もどかしいような。


「ちゃんと散らかったモン直すか?」

こくり。

「ごみ箱にあたるんじゃない!
 あたしが心をこめて清掃してるんだよ!?」

こくり。

「わかったらなんて言うんだい?」

「はい!…ゴメンナサイ!」

反射的に昔のように、答えてしまった。
(「悪かったらごめんなさいでしょ!」と母親にこっぴどく怒られてたので)
が、それが良かったようだ。
ふ、と笑う気配がして、雰囲気が柔らかくなった。
 

 

 


それからは、ストッキングやスカートを直されて、まず清掃道具を渡された。

散らかったごみをまとめ、捨て、べたべたしたとこを雑巾で拭く。

廊下がまた何もなくキレイになったら、少し達成感がでてすっきりした。

道具を片づけて手を洗ったら、そのババァ…もといおばちゃんが笑顔でまたあの部屋へいざなってきた。
入ったら、違う湯のみに湯気が出てるお茶。
それから、お茶菓子が用意されていた。


座るときはお尻が痛くて顔をしかめたけど、お茶もお菓子も美味しくて…

かなり和んだ。

ついでにあれこれ、おばちゃんが聞くので今日遭ったことについてぽつぽつ話す。

「そりゃー災難だったねー」なんて相槌打ってもらって、気づけばすっかりそのおばちゃんと仲良くなっていたのだった。


おばちゃんはさっきの鬼ババァっぷりがウソのように、穏やかな顔して
「アンタ、今の方がいい顔してるよ」って。

…まぁねw

すっきりしたことは確かだ。

 

今朝からずーーっとムカついてて、たまってて。
おばちゃんにお仕置きされたのは痛かったけど…今朝からのイライラが全部飛んで、仲良くなれたからいいや。
美味しいお茶菓子も食べられたし(横浜中華街にしか売ってないお菓子だった♪)

 

 

「また遊びに来なよ。
 話だったらいくらでも聞いてやるからね」

「はい、ありがとうございました」

「ほぅ、挨拶がきっちりできるのはイイコだよ」

へへ(*^^*)
なんか照れくさい。
会社では完璧でいなきゃといつも気を張っていたのが、急に甘える対象ができてほっとしたとゆーか。

うん。ついてない日!と決めつけなくてもいいかもしれない。

…うん、午後はいつものペースで、仕事ができるかな。


おばちゃんと別れ、
お尻を撫で撫でしながら、とっくに終わってしまった昼休みに気付きながらもゆっくりと仕事に戻る私だった。

 

 


2009年5月9日

はやと

 

 
 

 

ババァVS小娘、思いついてしまいました…www
ええ、突然イメージが降ってきたんです!
カーがおばちゃんでも、なかなかいいと思うんだけどな(笑)
実の母親は気まずいのでイヤだけど、これはアリかな…ってさ(・∀・)ヘヘヘ

 ちょっといつもと違って、背景もなし、名前もなし。
シンプルイズベストにしてみたです。
挿絵はもしかしたら入れるかもしれないけど、入れないかもしれないです。
とゆーのは、お勤めしてる人が自分のことを反映させて読んでくれるかなぁとも思ったもので。

ストレス爆発させてーーー!!って時、あるでしょ?(笑)

上司とも違う視点から自分を見てくれる、そして受け止めてくれる。
こーゆー、厳しいけど実はあったかいおばちゃんは…ある意味理想ですよねv
(しかし、こーゆーオフィスワークは今までしたことはなく…想像です^^;)

どうかなぁ…と思いつつ、書いてるのは楽しかったです♪
(しかし最後のgdgd感が否めないのはいつものことwww)

 

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