【魔法が解けた日】
「ごめんなさい」
それは魔法の言葉。
罪が帳消しになり、それ以上、叱られることもない。
「ごめんなさい」と言えば、大丈夫。
きっと…
******
散乱した服、新聞紙、おもちゃ。
壊れたマグカップも見える。
さっき癇癪を起こして暴れた結果。
暴れるだけ暴れて、最後におもいっきりマグカップを投げ壊したら気分がすっきりした。
とりあえず、この惨状にはお父さんもお母さんもびっくりするかもしれない。
でも、先ほどはむしゃくしゃしたのだ。
大好きな忍たまのアニメを見ようとしたら、野球でつぶれてたのだ。
なんで!?
あんなつまんないモノのせいで、アニメがつぶれた。
許せない。
ムカムカする。
これは仕方ないことじゃない?
割れた食器は、触ってはいけない、手を切ってケガするから。
いつも言われてたから、ちゃんと守るよ。
早くお母さんとお父さん返ってこないかな?
片づけてよ。
そんなことを思いながら、しばらくうろうろ歩きまわってみた。
―ガチャ。
玄関のノブを開ける音!
あぁ、やっと帰って来た。
「遅いよ!」
怒鳴ったら「悪かったな」
ぬっと現れた、背の高い男。
「タカ兄ちゃん!!」
従兄のひろたか兄ちゃんが現れた。
でも何で?
「おう、久し振り…ってなんじゃこりゃ!!」
入ってきたとたん、部屋の中を見て大声を上げる。
うっさいな。
「ゆき、どうしたんだよ、この部屋!」
「べつにいいでしょ!タカ兄ちゃんにはカンケイないでしょ!それよりお母さんたちはどうしたの?」
「あ?ああ、それ。おじさんとおばさんはウチのおかんと一緒におじいちゃんのお見舞いに行ったぞ。今日は帰りが遅い。だから、俺が面倒見にきた」
「は?なによそれ!!私もう、8歳だよ?面倒なんていらない。とっとと帰って」
なんだか再び怒りがわいてきて、怒鳴る。
お母さんとお父さんのバカ!
なんで帰ってこないのよ!!
「かわいくねーな、お前は…(^^;)夜ごはんどうするんだ?」
「いらない!」
「あっそう…デザートにはお前の好きなシュークリーム買ってきてやったのになぁ…。
ハロウィンのかぼちゃのチョコがついてるやつ。売り切れ寸前のおいっっし〜ぃシュークリームなのになぁ…」
Σ(゜□゜)シュークリーム!?
「いる!」
「じゃぁ、夜は俺と一日一緒だ、いいな?」
「しかたない!」
ホントにかわいくないとかなんとか、ぶつぶつ言ってたけどしらないよ。
早く食べたいな。
「もう6時半。夕食にしてもいいだろう。だが、なんだ、この部屋は。びっくりしたよ。何してたんだよ。ゆき」
「しらない!早く片付けてよ」
「しらないってことないだろ!もしかしてお前がやったのか?」
「そうだよ」
「そうだよじゃない!なんでだ?」
「イライラしたから。」
「なんでイライラしたんだ?」
もうしつこいな〜
「忍たま、やってないんだもん!!野球なんかつまんないよ!なんであんなのやるわけ?見たかったのに!!」
「…そんなことで、こんなにしたのか?」
はぁ、とため息をついてこっちを見た兄ちゃんの顔にまた、いらっときた。
うるさいな!
「だってむかついたんだもん!うるさいうるさい!!」
そばにあったリモコンを投げつける。
「だっ!あぶねぇ」
あ、よけた。
リモコンはそのまんま壁に当たって、床に落ちて電池とかがバラバラになった。
「コラ!!!」
兄ちゃんの、こっちを見る顔が険しくなった。
大声でどなって、眉がつりあがってる。
もしかして怒ってるのかな??
これはちょっとヤバイのかな?
「ごめんなさい!」
おっきな声で言った。
「は?」
「ごめんなさい!って言ったの。怒っちゃいやだ。」
「…」
「ごめんなさいしたから、もういいでしょ?部屋片付けて。
早くシュークリーム食べたい」
「…」
さらに顔が怖くなったような気がするけど、気のせいだよね。
ゴメンナサイって言えば、お父さんもお母さんも何も言わなくなる。
魔法の言葉。
挨拶はしっかりと、って言われてるもん。
ゆき、ちゃんとゴメンナサイもありがとうも言えるもん。
ホラ、タカ兄ちゃんも黙った。
黙ったまま、リモコンを拾う。
マグカップのカケラを集めて、新聞紙と一緒に捨てた。
服は隅にまとめて、おもちゃもおもちゃ箱にしまった。
それから掃除機をかけて、数分で部屋はキレイになった。
その間、私は、ソファーに座って見てた。
足をぶらぶらさせながら。
「片付け、おわったね!ごはん食べようよ!」
「まだだね。終わってねーよ」
なんで?部屋にはもうなにも落ちてない。
なんの問題もないはずだ。
なんで、まだそんな怖い顔してるの?
すっと屈んで、まっすぐ顔を合わせてきた。
「誰がこんなに散らかしたんだ?」
さっきと同じ質問じゃん…(−−#)
「ゆきだよ!」
「それはいけないことだとは思わないのか?」
「だってイライラしてたって言ったじゃん!」
「どうして片付け手伝わない?」
「だって手切れたら困るもん。割れたものには触っちゃいけないもん」
「だれが割ったの?」
「ゆきだってば!」
「割って良かったの?」
「だってすっきりしたもん!」
「なんで、俺にリモコン投げた?人に投げたら危ないだろ?」
「だってタカ兄ちゃんがうるさいこというのがいけないじゃん!!」
こんなに一生懸命話してるのに理解してくれない。
バカなんじゃないの!?
兄ちゃんはため息をついた。
「わかった。お前、ちっとも悪いと思ってないだろ?」
「ゴメンナサイって言ったでしょ!」
カッ
目が見開かれると、世にも恐ろしい顔で兄ちゃんが
「ゆき!!!!」
と怒鳴った。
ビク∑(゜皿゜)
一瞬身体が固まった。
そしたら、ソファーに座ってた私の身体を持ち上げて、兄ちゃんがソファーに座った。
ゆきの体は膝に乗せられる。
???
ナニ?
ナニ!?
お腹に膝が当たってる。
瞬間、お尻が痛くなった!!
「ひゃぁ!」
「お前、このまんまで済むと思うなよ!たっぷりとお仕置きしてやる!!」
お…オシオキ??
お仕置きって…
マンガで見たよ。お尻ぺんぺんの。
アレ!?
びっくりしたその間にも、お尻がどんどん痛くなってきてる!
スカートの上からだけど、そんなのお構いなしにぶたれて衝撃が走る。
うわぁ、痛いよぅ!!
やめて!!
「ごめんなさい!って言ったじゃん…」
「ただ言えばいいってもんじゃねーだろ!」
べし!べし!べし!べし!べし!!
じたばた、動いてみたけど、腰を抑えられてるからか逃げられない。
手も足も動かしたけど、関係なくどんどんお尻が熱くなっていく。
あぁぁぁん。
「ゆきが、本当に反省するまで、ずっとお尻を叩くからな!
いいか?
ず〜〜〜〜〜〜〜っとだぞ!?」
ええ!!
ずっと、お尻叩かれちゃうの?
もうやめてほしいのに!
どんどん痛くなって耐えられないよ!
「いたぁいいたぁい、やだーー!!」
「やめてーーーー!!」
「ダメだ。ゆきは悪い子だったんだから。悪い子は、お仕置き!!」
スカートとパンツを下ろされて、裸のお尻になっちゃった。
なのに、ぴしゃんぴしゃん!ってぶってくるの。
痛いぃ〜
痛いよぉぉぉぉ!!
熱くてひりひりして、身体全部がビクン!ってなっちゃうくらいなの。
ぴしゃん!
ぴしゃん!
ぴしゃん!!
ずっと続いてる。
何回ぶたれたんだろ?
なんだろ…
なんだか泣きたくなっちゃった…
もうダ、 ダメ…
「痛いよぉ〜…もうやだぁ〜…うえぇぇえぇん」
「泣いても許さん!」
本気で怒ってるらしい兄ちゃんの声に、心臓がきゅぅってなるほど怖くなった。
なんで怒ってるんだろ…?
ますます痛くなってもう後は声にならない。
息ができなくなるまで、泣いて泣いて、せき込んで。
ひたすら「いたぁいぃ〜」を繰り返してたかも。
頭から足まで、全部お尻の痛みに支配されたような気分だ。
ぴしゃん!
ぴしゃん!
ぴしゃん!
ぴしゃん!!…
…
…どれくらい時間が経ったかわかんないけど、気がついたら、ソファーの上に立たされてた。
また、顔を手ではさんで目線をあわせてくる。
「なんでこんなにお仕置きされてるんだ?」
「うぇぇぇ…っく…ぁぁあん」
「答えなさい」
「…っく。わ…わっかんなぁいよぉう…うえええええ」
深くため息をついてから、兄ちゃんは言った。
ゆっくり言った。
「じゃぁ教えてやるから、しっかり聞け。
気に入らないことがあったからと言って、モノを壊すな。
自分でやったことはちゃんと責任とれ。
壊したものは自分で片付けるのは当たり前だ。
それから、兄ちゃん…人にリモコンを投げつけるのは危ない。
目にあたったり、頭に当たったりしたらケガするんだぞ?
あと一番はお前のその態度だ。いけないことはいけないってちゃんと分かれ。
ゴメンナサイをすぐ言えば済むんじゃねーんだよ。
ゴメンナサイっていうのは大事な言葉なんだ。
心がこもってなければ…本当に…もうしない、って気持ちでごめんなさいは言うものだ。
嘘があればすぐわかるんだからな。
わかったか…?」
一つ一つ、真剣な顔で言われると、なんとなくわかったような気がする。
「気に入らないことがあったとき、また暴れるか?」
ううん。首を振った。
「部屋を散らかしたら、自分で片付けるか?」
うん。頷いた。
「リモコンのようなカタイものを投げていいのか?」
ううん。また、首を振った。
「よっし、わかってるじゃねぇか。じゃぁ、最後に。もう1回ごめんなさい、言ってみ?兄ちゃんに、「心をこめて伝わるように」言ってみ?」
「…っ。…ご…ごめんなさい…」
もうしない。
いけないことしない。
その気持ちを込めて、丁寧に言ってみた。
さっき私が言った言葉と同じなのに、なんか違う雰囲気に聞こえた。
許してくれるかな…?
お尻がジンジンする。
熱くてじりじりとじわじわと痛い。
涙をぬぐいながら、タカ兄ちゃんの顔を見てみた。
「ぉし!」
ぽん。
頭に手がおかれて、ニコって笑ってくれた。
「ちゃんと心をこめて言ったら伝わるんだ。もうしない、こんなことして良くなかったな…って思えば、それは反省って言うんだよ。」
ハンセイ…
「反省して、もういけないこと、悪いことしなきゃいい。お尻痛かったか?」
ぽろ…
またなんか涙があふれてきた。
「悪い子にならなきゃ、こんなメにはあわねーよ。」
ぎゅ。
抱きしめて、今度は背中をぽんぽんぽんwww
不安な気持ちがいっきになくなって、でも、泣きたい気持ちはまだあって。
「うあわぁぁぁぁぁぁん
わぁぁぁぁぁぁぁん!!」
いっぱい泣いちゃった…。
パンツ直してくれて、お尻とか背中とか頭とかなでなでいっぱいしてくれた。
もう悪い子じゃないのかな…
「ゆ…ゆき、もう…悪い子じゃない?」
「うん。ちゃんと反省したからな。ゆきはゆきになったよ(^^)」
その言葉があったかくて、とっても安心できた。
しばらくくっついて、それからご飯。
買ってきたコロッケとキャベツとご飯とお味噌汁。
それから、やっとシュークリーム♪
タカ兄ちゃんはそれからもずっとやさしくて、良かった。
もう悪い子にならないように気をつけよう…って思った。
「ゴメンナサイ」は魔法の言葉。
だけど、心をこめなきゃダメなんだ。
覚えておこう…。
******
後日談。
「よぉ!」
「なんで、またタカ兄ちゃんが家来てるの??」
「…おじいちゃんのお世話とか、仕事とか…おばさんが忙しくなるからな。高校の帰りにゆきの世話頼まれたんだよ(子守代もらったし)」
「いらないのに〜〜〜〜!!!」
あの日以来、口うるさい従兄がちょくちょく来るようになった。
口だけでは済まない時もあって、それからも何度もお尻を叩かれて泣くハメになったのは…また別な話である。
はやと
2008年9月28日
メディスパさんにこっそり投稿したのを、年明けたのでこっちにぅpします♪