【どこかで行われている日常】

 

悪いことをして見つかったら?

やってくるのは詰問の時間。

静かな沈黙。

これが私には怖ろしい。


「どーすんだよ」


低い声。

言い訳もできなくて、俯くだけ。

時が重くなって、全身が痺れるような緊張感。

彼の視線は刺すように私を見つめるのに、自分は言葉さえ失い目線をあわすことも出来ない。

悪かったから。

自分の甘さが招いた、完璧なる失態。

自業自得。

今になって解った。

もう、バカなことはしないから。


「どうすんだって、俺は聞いてるんだよ!」


もうしません、その言葉と言い訳が頭の中をぐるぐるしてるのに、彼が怖くて喉が引き攣れてしまう。

このまま時が止まれば良いのに。

いや、あんなことをしなければ良かったのだ。

喉の痛さと共に、涙が浮かんできた。

でもそれで済むはずがない。

そんな人ではないから。


「泣いてもどうにもならないでしょ。どうするのか。はっきりお前の気持ちを聞かせろよ。」


ほら、殊更に険しくなった声。


「…つい…」


ついにどうにもならなくなって、許しを請おうと口を開く。


「自分でも…バカだった…って……。」


「そんな逃げの言葉を聞きたいんじゃない。お前はなにがしたいの?」


「・・・・・・・」


「もういいよ。好きにすれば?そのかわりに俺は知らない。もう。」


「・・・!!」


「お前に言った言葉も、伝わらないんじゃ意味がない。もう俺は何も言わない。やりたいようにすればいい。
もう止めないから。ん。もう、遅い時間だから寝たら?俺も、もう寝るからさ」


「!!!」


待って!

嫌だ!!

分かってるから。責めるのも、叱るのも、全部私を気遣ってってこと分かってるから。
お願い、見捨てないで!
それだけは!!!


「ごめんなさ…い!もうしない!」


「・・・・・・・」


「絶対しない。気をつける。忘れないように気をつける。もうしないっ。から…だから…」


見せ掛けだけの優しさなんていらない。
声のトーンが上がっても、それはいつもの貴方じゃない。
そんなの優しさじゃない。
厳しくされても、貴方は優しいもの。

だから!

私が悪かったの。
忠告も聞かなかったから。普段言われてることも忘れて。甘ったれてた。
分かったから、見捨てないで・・・・・!!


すがるような気持ちで手を伸ばした。

でも触れることがどうしても怖くて出来ない。

震える手が、空白な時間を恐れて引っ込もうとしたとき彼に掴まれた。

そのままじっと見つめられる。

瞳から真剣な光。見据えられて動くことも出来なかった。


「本当?」

また涙がこぼれてきて、口が開かない。だから頷いた。
何度も。


「バカ。だったら初めからそんなことすんなよな。」


呆れたように言う口調が、いとおしい。

・・・・・・良かった!!

声にならない気持ちが、分かってもらえたみたい。
言い訳や逃げは絶対許してくれないけど、本当に反省した時はすぐ分かってくれる。
もう…怖くない。
うん。自分でも悪かったと思う。

もうしない。

もう一回大きく頷いた。
  

「じゃあ、これからどうする?」


ぎくり。


突然心臓がさっきみたいに踊りだした。
この声のトーンは・・・この展開は。

悪いことをしたらお仕置きだよ。

彼の言葉が甦る。

嫌。
痛い痛いモノ。
怖い。

でもまた沈黙が起きそうだったから、さっきみたいな気まずさは絶対避けたかったから。
勇気を出して言った。


「・・・・・・お、お仕置き・・・」


して下さい、まではとてもじゃないけど言えなかった。
でもちゃんと彼は分かって、頷くと私を膝に引き寄せた。
スカートが捲くられ、下着がおろされる。
恥ずかしいのに抵抗はできず、無防備になったお尻が不安げに現れてしまう。
空気が、意識がそこだけに集中しているように寒かった。


バシッ


「ああっ」


真ん中に振り落とされた掌が、力強い鞭となって私を襲う。

続いて左。右。また右に真ん中。

上。

下。

左。

下。

真ん中。

計算されたような動きに翻弄されて、身悶える。

痛い。
熱い。

痛い。

痛い!!!


大きな鋭い音に脅え、駆け巡る電流のようなショックから逃げようと全身を動かして逃げようとする。

でも、動かない。

動けない。

背中に置かれた腕が、がっちり押さえつけてるから。
もう今は言葉はいらない。
無言で叩く彼と、泣き叫ぶ私。
話し合いが済んだから。
今度は体に教え込まれるのだ。
反省している心を更に煽るための罰。

心ゆくまで泣いて、泣いて、泣いて。


何回、何十回、数が分からないほど打たれたお尻が火傷しそうに熱くなってる。
鋭い痛みのあとに来る、うずきが狂おしいほど憎くて愛しい。

 

 

そうして身も心もさんざんに荒れ狂った後に、平和はやってくる。

 

 

彼の腕の中で。嗚咽がだんだん治まり、涙が出なくなるまで。
抱きついて、心の中で「ゴメンナサイ」何回も繰り返す。

お仕置きが終わったら、もう悪いコじゃなくなるから。

嫌わないでね?

嫌わないよ。

お互いの鼓動がそんな会話をしているよう。

 


こんな沈黙は・・・・・大好きだったりする。

はやと

2005年10月28日(金)

戻る

 

inserted by FC2 system