【二人のトランクス】

 

いつも通り、平和な日になるはずだった…

そうソイツが来るまでは…

 

  ――ピンポーン

「ハァイ!」

「お久しぶりです、母さん!」

ブルマが扉を開けると、そこには藤色の長い髪をした背の高い青年がにこやかに立っていた。

「あら、久しぶりじゃないvトランクス♪」


「母さん、呼んだ?」

名前を呼ばれたような気がして、悟天と共にオヤツを食べていた少年トランクスは玄関へ出て行った。

「あら〜、違うのよ!トランクス。
このコはね、未来のアンタ。大きくなったアンタなのよ!」

「はぁ!?何言ってるの!?」

「や…やぁ…トランクス…大きくなったな…」

「つか、アンタ誰?」

○月×日…カプセルコーポレーションの午後が一気ににぎやかになった。

 

******

「今、お茶入れてくるわね〜♪」

「あ…ども。おかまいなく…」

ブルマがるんるんと出て行くと、
ぽかーんとした悟天と険しそうな顔の少年トランクス、若干気まずそうにしている青年トランクスが残された。

「じゃぁ、アンタ、未来から来たオレだってゆーのかよ?」

「あ、ハイ…そうですね」

「その口調なんとかなんねーの?全然オレらしくねーぜ!!弱っちぃ感じだしよ〜」

「ハハ…^^;」

この前来た時は、母さんに抱かれていた赤ん坊だったのに…こんなに大きくなって…少しナマイキになってるし…

青年トランクスは感慨深げに少年を見つめた。


やはり、タイムマシーンでの行き来には多少の時間差ができてしまうものらしいな…

「本人と本人が会ってしまう」という不思議な現象が起きてしまうと、未来は変わってしまうものだが、
「どうせ変わっても今以上悪くはならない」と信じているので、トランクスもあまり気にしないことにしている。
それよりも、復旧に必要な物資をカプセルに入れることが先決だ。
未来のトランクスの世界では、人造人間を倒したとはいえ、壊滅的にボロボロにされてしまっている。
タイムマシーンに必要なエネルギーをなんとか往復分ためて、今回は物資補給のために過去に来たわけだが…

思っていたよりも時間が進んでいたらしい。
悟飯さんに弟もできてる…オレも8歳になってる…
ぜんぜん別の世界のようだ…。

 

――コイツ、本当にオレなのかよ?

少年トランクスは全くべつなことを考えていた。
もしかしたら、コイツは悪いヤツで母さんは騙されてるのかもしれない!
そうだ!父さんならこんなアヤシイヤツほっとかないだろう!!


ニヤリ、とすると、少年トランクスは部屋を出て行った。

「あっ待ってよ、トランクスくん!」

悟天が追いかけてくる。

「どうしたの?いきなり出て行っちゃうなんて」

「悟天!アイツさ、アヤシイと思わないか?
イマドキ、タイムマシーンなんてよ!それに全然オレらしくねーじゃん!」

「そうだね〜、あんまり似てないよね〜」

「だーろ!アイツもしかしてこのカプセルコーポレーションを狙う悪いヤツなのかも!!」

「えーーーーーーー!!!大変だぁぁぁ!!!」

「母さんはすっかり騙されてるみたいだから、
俺たちが母さんとカプセルコーポレーションを守らなくっちゃ!わかるな!?」

「うん!!どうするの?」

「決まってるさ…追い出してやるんだよ!!」

「わかったぁ〜!!」

「まず手始めに…父さんに言いつける!」

「え?」

それはなんだか姑息なような気がした悟天だが、トランクスくんのゆーことにはとりあず従うのであった。

 

カプセルコーポレーションの裏の庭に、ブリーフ博士が開発した重力トレーニング室がある。

トランクスの父…ベジータは大抵はここで修行に励んでいる。

魔人ブウが滅んでからも、ずっとそのスタイルは変わらない。
なぜなら…ベジータは生まれながらの戦闘民族サイヤ人の王子であり、そのことに並みならぬプライドを持っているからである。
故に、自分が一番強くないといけない…忌まわしいカカロットがブウに勝利してからも
「俺がその壁を超えてやる…」と改めて闘志を燃やしているのだ。


プシュー…

扉が開けられる。

「何の用だ、トランクス!!」

「父さん!変なヤツが来てるんだよ!」

叱責のような怒鳴り声にはもうすっかり慣れているので、トランクスは懸命にアヤシイやつの特徴を言い訴えた。

「未来から来たオレ、って名乗ってるんだ。このままじゃ、母さんが危ないよ!!」

「…そうか」

「何!?よしすぐ行ってぶっ飛ばしてやる!」系な言葉を予想してたが、意外なことにベジータはにぃと笑った。

「と…父さん?」

「邪魔だ。とっとと消えうせろ」

そしてまた、仏頂面に戻り、修行を再開した。

…こうなると、いくらトランクスが騒いでも自分の殻に閉じこもるばかりだ。

――もういい!
父さんには頼まない!!

 

ぷんすか怒ってトランクスは、重力室を飛び出した。

「あー、待ってぇ〜」

そのまま、部屋に逆戻りする。

――こうなったら、しかたない!自分でなんとかしなきゃ!!

未来のオレと名乗る変なヤツ…追い出してやるからな!

トランクスは燃えていた。

 


*****

【追い出し作戦 その1】

「ねぇ、母さん、アイツ嫌い!追い出してよ」

「バカね〜、なんでよ?」

「だって、母さんのこと狙ってるんだ!」

「まーさーかー!あっはっはっはっは!!あ、そうだ、今日は泊まるからね、仲良くするのよ!!」

母に直接訴えても、ラチがあかなかった…。

 


【追い出し作戦 その2】

「オイ、コラ!テメーなに考えてるんだ!!」

「…は?」

「とっとと帰れ!」

「帰れって言われても…まだ物資補給してないんです…」

「そっちが出て行かないなら、力づくで追い出してやる」

ギュィ…!
戦闘力を高め、一気に決着をつけようとしたが…

ゴン!!

「仲良くしなさいって言ったでしょ!!夕ご飯抜きにするわよ!」

あえなく母からのゲンコツで撃沈した…

「どうも…嫌われてるみたいですね…」

苦笑しながら言う青年トランクスだった…

 

【追い出し作戦 その3】

「おい、悟天!おめーもなんか考えろよ!」

「だってぇ…」

「好きなオモチャやるから」

「♪ホント!?♪♪」

というわけで、本気になって考えた悟天の作戦は…

「ホラよ」

☆夕食のときにキライなものをてんこ盛りして渡す(ちなみにニンジン・ピーマン・パセリ)。

キライなものとはつまり悟天の嫌いなものであって、もちろん青年になんのダメージも与えられなかった…。

「バカ、悟天!」

「だってぇ…」

 

【追い出し作戦 その4】

「もう怒ったからな!!」

「どーやんの?」

「ふっふっふ…オレを甘く見るなよ!」

要はブルマがあの青年を嫌えばいい!

…ブルマが入っている風呂に青年を送り込めば…
結果はどうなるか?
気性の激しい母だ…激怒してたたき出すだろう…!

「ふぇー、トランクスくん、なんだか悪いヒトみたいだ…!」

「あたりまえだ!オレはサイヤ人の王子の子だぞ!」


とゆーわけで、作戦遂行。
お風呂道具を渡し、案内するだけ。
何も知らない青年トランクスは、あっさりとひっかかった。


――ふぅ。

自分に嫌われるというのはおかしなものだ。
だが、自分と言う気があまりしない。
昔はこんな性格だったかな?
もうちょっと大人しいような気もしたが…

青年トランクスは、あれこれ考えながら何気なく服を脱ぎ…湯気で覆われている浴室へ入っていく。


次の瞬間!!
悲鳴が聞こえた。

「やったぜ!!」

「でもなんか変じゃない?」

…悲鳴はブルマのものではなく、青年トランクスのものだった…。


「あああああ!!!かかかかかか、母さん…!」

「あーらー、トランクスじゃない!どうしたの?久しぶりに一緒に入る?」

「ここここ、これはなにかの間違いで…!」

「いいじゃないの!アンタはアタシの息子じゃない!」

必死に目をつぶって後退するトランクスに、ブルマはあっけらかんと言い放った。

「だ、だめです!し、失礼します!!」

「アラ、行っちゃった…☆照れちゃって!かーわいーのvv」

のんきに笑うブルマであった…。
 が。そうはいかないのはトランクス。

「あんの、クソガキィ…!」

普段は温厚なのに、半分キレて青筋が浮いている。

着替えが無い。
母親の入浴しているところに入り込んだ挙句に、着替えをとられるなんぞ…
不覚!!

自分が何をしたというのだ。

久しぶりの過去の我が家でくつろぐのがそんなに罪なのかっ

許せん、あのガキっ!!

何より、「あのガキ」が自分ということが許せない。

根性…叩き直してやる!!

脱衣場の棚からバスタオルをひっかけて、憤然と出て行く。

どうしてやろうか…?


「トランクス…?」

「あ!!!悟飯さん!!」

「また来てるってブルマさんから連絡受けたから、遊びに来たんだ。久しぶりだな〜♪♪
あれ…その格好…?」

「あ…(恥)」


「じ…実は…」

訳を話すと、悟飯は苦笑して言った。


「嫌われたもんだな〜」

「だって、オレはなにもしてない!
それに…あの根性…やり方がキタナイと思いませんか?」

「ま、確かに…。一回ちゃんと話さないとな…。悟天もいるんだろ?」

「ええ、悟天くんはわけもなく小さいオレにくっついてるだけですが。」

「邪魔だから、今日はつれて帰ろう。その方が徹底的にできるだろう?どうやる?」

「子どものお仕置きは…きまってますよ」

ぱしぃと拳を手の平に打ち付けて笑うトランクスを見て、悟飯は親指をたてた。

「うまく効くといいな」

「効かせますよ」

 

その頃悪ガキたちは戦利品(服)をタンスの裏に隠していた。

「こうすれば、もうアイツは手も足も出まいww」

「お風呂から出てきたところを、この卵爆弾で狙えばいいんだね?」

「おう!転ぶようにロープも張っておこう」

見事な連携プレーである。
しかし…

「ごてーん」

「あ、兄ちゃん!」

「悟飯さん!?」

階段をのぼってきたのは悟飯だった。
あわててロープを隠す。

「トランクス〜…お前…まぁいいや。悟天。帰るぞ」

「え!?」

「人のケンカには手をだすな…ほら。
じゃぁな、トランクス。しっかりと反省しろよ」

「!?」

抱きかかえるようにして悟天を連れて帰る悟飯…のうしろには、にぃぃと不敵に笑う青年トランクスの姿がいた。

「げぇ!!」

その笑みは、強敵を見つけた父のような迫力があった。
その殺気にびくついて逃げようとした、トランクスだが…そうは問屋がおろさない。

がしっ

帯をつかまれて、宙ぶらりんになった。

「なにすんだっ、放せ!このヤロー!!」

「なにするんだ、はこっちのセリフだ!」

もがくが、相手も普通の人間ではない。
家の中でエネルギー波を打つわけにもいかない。
じたばたともがくしかなかった。
が、そんなことにはおかまいなしに、青年はトランクスの自室へと入って鍵をしめた。

「服は?どこにある?」

「へっ、知るか!」

「…!(怒)」

必死に平然を装う少年の腰にしっかりと腕をまわし、逃れられないように固定する。
そして…

  パァァァァン!!!


尻を思いっきり叩いた!

「ってぇぇぇぇぇーーーー!!!」

一発で思わず涙目になるような、一撃。

「言うまで、こうだ!!」

パァァァァン!!

パァァァァン!!
パァァァァン!!
パァァァァン!!

怒涛のように叩かれて、少年がもがく。

「ってぇぇぇぇ〜〜〜!!」

「ヤメロー!!」

「はなせーーーー!!!」

威勢の良い掛け声もむなしく、しばらくは尻を叩く音と悲鳴だけが聞こえた。
足をばたばたさせて、隙あらば腹を蹴って抜け出そうとするが、そうはさせない。

――くそっ、一発でもあたりゃーこんなヤツに!!

しだいに、痛みに感情が負けていく…
ちきしょー…
いた…痛い…!!

「タンス!タンスの裏だよ!!」

やっと白状した時には、尻全体が腫れあがってジンジンと熱を持ってうずいた…。


叩く手が止まり、しばらく脱力する少年だった…。

が。

それで終わらそうとは、青年は思っていない。
しっかりと襟首をつかんでいるため、片手になってしまうが器用に服を着て…


「さぁ、今からが本当のお仕置きだ…!」

「げ。」

「お前の腐った性根叩き直してやる!」

第2ラウンドを宣告した。

脱力したとはいえ、まだまだ余力を残している…
少年はもちろん解放されたとたん、顔におみまいする気マンマンであった。

エネルギー波が無理でも肉弾戦で、徹底的にヤろう…

そう狙っていたというのに…

――お見通しだっ

というわけで、お仕置きは続行された。

右左…上下…

いたるところに雨あられとふる手の平。

帯もとってしまおう…
ズボンとパンツをひんむくと、そこには真っ赤になったお尻が現れた。

そこに、また狙い定めて鋭い一撃を与える。

「うぁぁぁぁぁ!!!」

痛みのあまりに顔を振って、悲痛に叫んでいる。

真剣な表情で、幼い自分の様子を見守る青年。

――そろそろか…

「何故こんなことをした!」

「だって…」

「だってじゃない!」

「ホントにお前はオレなのかよ!」

「そうだ!納得できないかもしれないが、それでもいい!
俺は物資を補給にきただけだ。明日には帰る!」

「わかったよ!納得してやるから放せ!」

「してやる、じゃない!なんていうんだ!」

「?」

プライドが高いところは父さんそっくりだ…
苦笑しながら、叩き続け、限界まで追い込む。
子どもらしいお尻がますます真紅にそまっていく。

「悪いことをしたら…なんていうんだ!?」

「ちきしょ…」

「俺はなんにもしてないのに、卑怯なやりかたとは思わないのか?」

「…卑怯!?」

「そうだ!あんなこと…母さんじゃなかったら、なんてことになるんだ!?」

卑怯は人間のクズだ…と父から教えられて育った、トランクスにはこの言葉は効いた。

「ご…ごめんなさい…」

「よし」

バシィィィィィィィ!!!!

「ったぁぁぁぁぁ!!!」


最後の一撃を食らわして、青年トランクスは「お仕置き」をやめてやった。


「どうだ?少しは懲りたか?」

「こり…懲りた…もう…ヤメ…」

「ぉし、二度とこんなことするな?」

「…ハイ」

しょんぼりとした少年に、青年は満足したようだった。

 

そして、痛みであえぐ少年の寝る仕度を手伝い、寝かしつけまでしてやった。
ベッドに寝かせ、氷嚢をお尻に当てて、髪をなでる。
最初は恥ずかしそうな顔をしていたが、そこはまだ8歳。
すぐに寝息を立てて寝てしまった。

――俺も…大人気なかったな…

怒りが収まると、やりすぎたかもしれないな…とちょっと反省しながら、
弟のようだ…でもこの子は自分なのだという不思議な感覚に包まれて、青年トランクスは苦笑するのだった…。


****

次の日は、物資を集めるのはコンピューターと操作ロボットに任せ、その間、宴が催された。

カプセルコーポレーションの庭風の広い一室に、昔からの仲間が集まって、青年の歓迎会を開いたのだ。

ブルマ一家、クリリン、亀仙人、ヤムチャ、ウーロン、プーアル、悟飯、悟天、ピッコロ。

そして悟空も。

ごちそうがあるからか、大喜びでがっついている。
よく見れば、木の裏にベジータもいて、同じくごちそうにかぶりついている。


青年トランクスは、一日仲間たちと会話をし思いっきり楽しんだ。

少年トランクスは、すこぉ〜し大人しくなって悟天と過ごしている。

そのうちに物資があつまり、夕方、トランクスは帰ることとなった。
仲間が手を振り、別れを惜しむ。
少年も…

「あ…」

「なんだ?トランクス。」

「また…来てもいいよ…」

「あぁ!」

照れくさそうに言う少年の言葉に、嬉しそうに笑顔になって青年は頭を撫でた。


――仲直りしたようだな…

その様子を見ていた悟飯も、にこっと笑った。

そして、青年トランクスは帰っていった…


物資と、思い出を胸に――――
 

はやと

2008年03月15日(土)

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