【 罰 2 】

 

「さて、と第2ラウンドを始めるよ」

澪の声が、冷酷に聞こえる。
無理!
これ以上は無理だよ…

脅える私なんかおかまいなしに彼女は、ゆっくりと歩いていきソファーに座ってしまった。
足も組む。

「パドルはそこの引き出しの中。自分で取ってくるんだよ」

ぽんぽんと膝を叩いた。ここまで来い、と言うことらしい。

「…………」

私は動けなかった。
動きたくなかったのだ。
さっきみたいなお仕置きを受けるなんて、到底耐えられないから…。
考え直してくれないか祈るような気持ちで彼女を見つめたが、余計なことだったらしい。
意地悪くではあるが微笑んでいた口元が引き締まり、険しい表情になる。

「私をあんまりなめないでね」

そういった口調はあくまで優しいものであったけれど。
それだけにとても恐ろしかった。

「龍、私はねけじめをつけたいんだ。
約束を破ったこと、心配かけたことへのお仕置きは終ってないんだよ。きちんとけじめをつけないと、これから先の関係が上手く行かない。
私を愛してるなら、反省してるなら自分でパドルを持ってここに腹這いになりなさい!!!」

きっぱりとした言葉には逆らえないものがあって。それでも自分から自分を痛めつける道具を持っていく気にはなれなくて。大好きな澪が今は怖くて…止まったと思った涙がまたこみあげてきた。

「う、うぇ……」

いやいやと首を振る。
目も閉じた。
涙が溢れる。
あぁ、子どもと同じじゃない。
萎縮して言葉なんかでてこないよ。
もう、イヤ…。
おとなしく約束守れば良かった。
ばれなきゃ良いと思った自分の甘さに腹が立つ。
そしたら今頃、澪とはラブラブでいられたのに。
にこっと笑って、髪を撫でて「ただいま」って…。
もとに戻ってよう…澪…!



ふぅ

現実逃避を図っていた私ははっとした。
溜め息。

「タイムアップ。
もういいよ。龍は。」

「待っ・・・・・」

待ってと言いたかったのに、喉がひりついて声にならなかった。
見捨てないで!
だが、怒って部屋を出て行ってしまうと思いきや、彼女は私に近づいてきた。

「!!!」

そのまま濃厚なキス。
舌が絡み付いて吸い取られ、また絡みつく。
熱い・・・。
頭が真っ白になるような痺れが襲う。
突然だったからその刺激に耐えられなくて、膝ががくがくした。

「もう一度聞くよ。龍は私のこと好き?」

もう何も考えられなくて口が勝手に答えてた。

「好き・・・」

「なら、お仕置き、ちゃんと受けるね?」

「・・・・・・うん」

そして彼女は戸棚の中からパドルを取り出して、私の手を引きソファーに戻っていったのだった。




膝に乗せられ、頭が落ちる。髪の毛が流れて視界が暗くなった。
なんか、も・・・考えるの疲れた・・・・・・。
さっきの余韻か脱力して、恐怖も葛藤もすべてがうざい。
どうでもいい・・・・・・

「悪い子には罰を・・・」



バチィィィン!!!

「うああああ!?」

だが、このすさまじい痛みは!


ベチィィィン!!!

「やあぁぁぁぁぁぁ!!」


皮のうねりかビュッと風を切る音までも聞こえる。


バッチ――――ン!!!

肌が裂けたのではないかと思うほど、激しい。

「やだぁぁぁ!!!」

知らず知らず絶叫していた。

ナニコレ!?

第一ラウンドの澪の手がいっそ懐かしく思えるほど。

オシリガイタイ!!!
ヤメテ・・・ヤメテ・・・コワレチャウ!!

「痛・・・痛い・・・痛い・・・っくぅ・・・痛いよぉ・・・」

バチィィィン!

バシィィ!!

バチ――――ン!!

「嫌だ!痛いっ痛いっ」

足が自然と跳ね上がる。手も背中も頭もこの攻撃から逃げようともがいてる。
だが腰をしっかりと持たれて、思ったように動けないのだ。
手が虚しく空中を彷徨う。
嘘です。
どうでもよくないっ
早く許して!!!

「ごめんなさいっもうしません!ごめんなさいっ痛いっ痛い!!」

ひっきりなしに与えられる激痛に我慢が出来ずに、ひたすら「ごめんなさい」を繰り返した。
パドルなんか大嫌いだっ

う・・・ック・・・

息も絶え絶えになった頃、ようやく打つ手が止まる。

お尻は今や燃えるかと思うほどの熱と痛みを伴っている。

「どう?今のは自分から来られなかったお仕置き。これからが本番だよ。」

冷めた声。
うそっっ!?
今のが?まだ終わらないの?
心底ゾッとした。
もう耐えられない・・・本当に無理・・・・・。



「くすっ」

え?

「嘘だよ・・・。今ので終わり。」

えぇ!?

「だって龍がなかなか素直じゃないから悪いんだよ。だから意地悪したくなった。」

「じゃ・・・も・・・終わり?」

「うん。これオマケね」

パァン!
パァン!
パァァン!

「いっったぁぁぁぁいい!!」

続けざま平手で打たれ、少しの衝撃でも堪えるお尻にまた炎が広がった。

「はい、ホントにおしまい。」

「ホントに?」

思わず身を起こして訊ねる。腰に回されていた拘束も消えていた。
振り返った澪の顔は、優しくて。
口元も微笑んでいて。
安堵した。

「うわぁぁぁぁぁん」

そのまま首に抱きつく。澪の足に腰掛けたわけだが・・・ひりつき熱をもったお尻に当たる、ひんやりとした腿の感触が気持ちよかった。
とにかくまた優しい澪に戻ってくれたのが嬉しかった。
それだけでもう涙は止まらなくて(さっきからだが)、堪えられなくて大声で泣いてしまった。

「ふふ、まるで子どもみたいだよ、龍・・・。」

頬に軽い口付けをしながら、そんなことを言ってる。
誰のせいだ!!(悪いのは私だけど)

「ごめんなさ・・・い!ごめんなさい!」

泣きじゃくると「もういいよ」と言ってくれた。
そしてゆっくりとソファーに横たえられる。
ソファーの生地にお尻が擦れてすごく痛かったけど、これから起きることに思い当たって、ワクワクした。
 
 好き・・・
 好きだよ・・・
 

はやと

2005年05月05日(木)

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