【 罰 】


楽しい気分も、帰宅して家の明かりを見たとたん消え去った。

なぜ!?
今日は帰ってこないと言ったのに・・・。

急に心臓がドキドキし始めて、きゅうっとなった。
背筋が寒くてなのに冷や汗が出てくる。
逃げ出したい感情に襲われたが、このままここに立っている訳にはいかない。
半ば諦め、半ば期待するような気持ちでゆっくりとドアを開けた。

「待ってたわよ」

実に冷ややかな声が聞こえて、反射的に身をすくませてしまった。

「澪(みお)・・・」

「龍(りゅう)、説明してほしいんだけど。
こんな遅くまでどこに誰とどんなことをしていたの?」

澪は、・・・私の恋人。そう、私たちは俗に言うレズ関係・・・にあたる。
今は黒いキャミソールとショートパンツを身に付け、腕を組み、
長めの足は開き気味で片方に寄りかかっている。
綺麗に髪は切りそろえられ肩まではかろうじて届かない。
中肉中背で顔のつくりは可愛く少し幼いけど、目の輝きと薄く笑う口元がそれを裏切る。
澪の瞳は、鋭く強い。

その瞳に惹かれて半年前、私は告白し付き合い始めた。

だが、今日は・・・かつてないほどの怒りをはらんで睨めつけている。
言い訳がとっさに浮かんだが、その目の迫力に押され言えなくなった。

「・・・・・・・ごめんなさい」

結局そう答えるしかなくて。
でもそれで済む訳もなかった。

「そう。悪いことをしたと認めるんだね?おいで!!」


明らかに怒りが増したようで、くるりときびすを返すと彼女はリビングルームに向かった。
これは・・・・・とてつもなく悪い予感。
リビングルームが地獄と化すようなそんな錯覚に襲われる。
あながち嘘ではないだろう。

行きたくなかった。

だが「おいで」という言葉が私を縛る。
のろのろと重い足を引きずり後に続いた。

 

「服を全部脱ぎなさい」

部屋に入ったとたん言われた。
一瞬何を言ってるのか考えられなくて、バカみたいに突っ立てたら頬をはたかれた。
痛くて、でもそれでまた我に返った。
澪はいつもはすごく優しいのに。
愛してくれる時も同じことを言うけど、笑ってくれるのに。
これは命令。

逆らうことは許されていない

なんだかすごく悲しくなって、恥ずかしくて泣きそうになって服を脱いだ。

もう、やめて。
許して。
またいつもみたいに笑って、頭を撫でて?

・・・・・でも、罰は始まったばかり。

「四つんばいになって。」

ソファーの下を指差され、しぶしぶその通りにすると、背中に重みが加わった。
澪が乗ったのだ。
私にはソファーしか見えない。
けれど彼女は、しようと思えば私の全てを観察できるだろう。
裸の私と服を着ている澪、四つんばいとその上にまたがる体勢。
この差は罪人と執行人の立場を強調し、羞恥心をいやおうなく高める。
顔が火照ってきて頭の中がジンジンするようだった。

「さあ、答えなさい。今してきたことを」

上手いこと言おうと思ったけど全く考え付かなくて、
澪が出張中なのを良いことに合コンして(私は両性いける)遊んだ挙句に終電を逃して男の車で帰ってきたことを自白させられてしまった。
ちなみに今は2時半。
澪との約束は終電までには帰ること、行き先は必ず伝えること。
それに合コン行ったのは明らかに浮気。
分かってはいたのだが、帰ってくるのは明日と思っていたため守る気はなくて、
退屈していたからちょっとくらいなら平気、とも思った。
結構混乱してメチャクチャな話し方だったが、澪は黙って辛抱強く聞いてた。
話し終わると、恐ろしいくらいの静けさが漂った。
反応はないのかそわそわした時に

バッチ――――ン!!!

「ひぃっ」

お尻に平手が炸裂した。

バシッ バシッ バシッ バシッ
バシッ バシッ バシッ バシッ

続けざまに強く打たれて息が詰った。
体勢が思わず崩れそうになり、慌てて持ち直す。

「そう簡単には許さない。龍はいけないコだったんだから、お仕置きだよ。」

「やっ、ごめん・・・ごめんなさいっ!やめて!!反省してるから!」

「悪いことをしていると自覚した上で行動してるなんて、タチが悪いよ。
すぐ謝るのも気に食わない。ただ謝れば良いってもんじゃないでしょ?
龍は要領いいからすぐ上手いことを言うけど、今日はだめ。
クセにならないように、たっぷりと思い知らせてあげる!」

バシィッ!!!

さっきの余韻も残ってるのに、四つんばいになってピンと張り詰めていたところにまた痛みが襲ってきて、絶叫してしまった。
何回打たれれば終わるんだろう!?

ベシッ 
バシッ
ビシッ

左の次は右、上の次は下と満遍なく叩かれてすぐにお尻全体が火に包まれたようになった。
叩き方も最初は早かったけどだんだん遅くなってきた。
打たれた瞬間の激烈な痛みの後にじんわりと来る疼きを感じてから、
また強い痛みが与えられその繰り返しにすっかり翻弄されてしまう。

「あぁぁぁ!!!やだ!!やだ!!」

そしてなにより辛いのが体勢が崩せないこと。
崩してへたり込んでしまったが最後、もっと罰は酷くなることを本能的に悟っていたから。
でも無理やり縛られているわけでもなく、動こうと思えば動ける位置にいるのにそれが出来ない。
気力を振り絞って体勢を維持するのがとてもしんどかった。
1回下向きになったときは乳首が床をこすって、ゾクリと電流にもにた快感が走ったがすぐに打ちのめされた。

逃げたい。

せめてソファーの上で寝そべれたら。
そう考えている間にも痛みは断続的に襲ってきて、気が狂いそうになる。

バシィッ!  
バッチ――ン!!

「痛い痛いっ!!痛っ! あうっ」

もう50発は超えてる気がするのに一向に止めてくれる気配がなく、彼女は無言で叩き続ける。
息は切れ涙が出てくる。

ゴメンナサイ、ワタシガワルカッタデス
ユルシテ
オネガイ

頭の中でそんな言葉がぐるぐる回ってる。出るのは泣き喚く声だけだが。
背中の彼女が悪魔に思えた。


永遠にも似たような時間が流れた時、叩く音が止まり背中の重みがどいた。

やっと、終わった・・・

と思ったのは一瞬だった。

「立ち上がり、部屋の隅に行きなさい。
手は頭の後ろに組んで絶対に離してはダメ。そのまま15分間立ってること。」

澪の無常な声が更に私を鞭打つ。

嗚咽を堪えながら言うとおりにすることにした。
だって彼女は私をまだ許してはいない。
最初は叩かれたショックに呆然としていた私だったが、黙って立っているうちに徐々に落ち着いてきた。
しかし痛みは消えずにひりひりとした苦痛に苛まれてしまう。
苦痛と恥ずかしさとどうしたら怒りを解けるのか考えてるうちに15分は過ぎた。

アラームがなる。
近寄る気配がして、顔を振り向かせ澪が真っすぐ瞳を見つめてきた。

「心配したんだ。」

「・・・・・・」

「色んなこと想像して・・・。なのにあんたはノンキに男と遊んでた!!」

「・・・・・・ごめんなさい」

「私の怒りと失望が分かる?
・・・早く龍に会いたいって、急いで帰ってきたのに。好きだと思ってたのは私だけだったんだね」

「違う!!私も好きだよ!!!澪のこと・・・愛してるから!!」

私は慌てた。本当に。
別れることなんか考えられない。
澪が好き。大好き!!
こんなに相性の合う大切な同性の恋人。
ただちょっと留守の間寂しくて、つまらなくて・・・出来心で遊んでしまっただけのこと。

必死に私は思いを伝えた。
怒られるよりお仕置きされるより、澪に嫌われると思うと魂が凍えた。
抱きしめて、懇願して謝って許しを請う。
 
しばらく彼女は黙って聞いてたけど、やっと髪を撫でてくれた。

「本当に?」

「本当だよ、信じてよ!私には澪しかいないんだから!!」

「わかった。その言葉信じるね。」

にっこりと、今までの怒りを解き少し笑った。
ホッとしたのもつかの間、その笑みが今度は意地悪そうに歪む。

「じゃあ、お仕置きの第2幕と行こうか?今まではバカなことをした罰。
次は心配させた罰と約束を守らなかった罰ね。第2幕は膝の上でやってあげる。その代わりパドルで仕上げね」

既にお尻は真っ赤だろう。
先ほどは忘れていた痛みもまた痛み出したところなのに。
これ以上は無理。


だが、澪の怖すぎる笑顔から抵抗するわけにも行かずに、私は凍りついた。

 
はやと
2005年05月01日(日)

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