【悪魔が現れた日】

 

 

 

――カァ!!


バサバサバサ…
境内に集っていたカラスたちが一斉に飛び立ち、生ぬるい風が吹く。


「…?イヤな風だなぁ…」

黒い生き物がもさっと逃げていくなんていかにも不吉っぽい…と、思いながら俺は掃除を止めてホウキをしまった。
みるみるうちに雲が集まり、辺りを暗く染めていく。
貧乏で、どこか古びた神社なんかこの時間来るヤツは…まぁほとんどいないな。

俺は、なにも信心深くて掃除してんじゃない。
関係者で、親父に命令されたから、しぶしぶやってるだけだ。
おかげで、高校2年生の貴重なとある日の放課後を潰した。
好きで跡取りに生まれたんじゃないよ!
なんで神社なんだよ!(しかもビンボー)
生まれて幾度思ったかもしれんが、やっぱりまともな家に生まれたかったぜ!
サラリーマンとか、公務員とかの!


ぶちぶちそんなことを思いながら、自室へ向かった。
ちなみにドアなんてなく、和室なためふすまだ。

カラ…無造作に開けたら、男が座っていた。

「あ…」

「あ、お客さんでしたか、失礼しました!」

反射的に営業スマイルになり、頭を下げて開けたふすまをまた閉める。

…。


…あれ、ここ、俺の自室。
プライベートルーム。

「なーーーーにやってんだーーーーー!!!
  誰だ、てんめーーーーーーー!!!!」

ガラ!!!

再度素早くふすまを開けて、怒鳴りこんだ。


俺と変わらないくらいの図体。
変質者か?
親父の囲いモンか?
だが、俺の部屋は17年間俺のモンだ!!


「おちつけよ。」

これが落ち着いていられるかぁぁぁぁぁ!!!!
思わず、鼻息荒くなっちまったぜ!


「よく見な」

指差した先には、頭。になんかついてる。
角に見える。
肩まで伸ばした髪。
上の方ににょっきりとツノ。

「お前、鬼かっ!」

「違う、悪魔だ。」

「なんだ、悪魔か。…ってそんなもん誰が信じるかぁ!!!」

ガッ
ツノをつかんで、揺さぶる。
何、コスプレしてんの!
上半身も裸だし、ズボンは黒い革っぽい。
このオタクやろーーーーがっ!!!


「イタ!おま、やめろって!痛いって!離せよ!」

なんだこのツノは。
接着剤でもつけてんのか、こら!

「…
 …痛いっていってんだろぉぉぉぉ!!!!」


ドゥン!!!

Σ(゜Д゜)

突然、ものすごい力が襲ってきて、吹き飛ばされる。
俺は壁にしたたか頭をぶつけて、畳に這いつくばった。
しかも、

「ぐぇ!」

背中を足蹴にされて、身動きがとれなくなった。
ちきしょ。

「落ち着けってんだ。人間。このまま挽肉にされたくなかったらな」

低い声が囁いてくる。
そのまぎれもない殺気。
思わずびびってしまった。カッコわり。
コイツが何者であろうと、強ければ殺ラレル。
侵入者を刺激してはいけない。

「わか…わかりました。」

なるべくおとなしく…答える。
隙を見て、逃げて警察呼んでやるからな!と思いながら。

 

 

そして、またコイツは正座した。


くそ、入口ふさがれた。
しかたなく俺も正座した。
対面である。
なんの見合だ。これは。

「はい、それで、どうしたんでしょうか?
 なぜ、ボクの部屋にアナタがいるんですか」

「それはですね、たまたま出てきたところがこちらの部屋だったからです」

なんで敬語なんだ。
どうして、たまたま出てきたところが、俺の部屋だったんだ?
頭の中にたくさんの????が浮かぶ。
やっぱり、頭が少しおかしい人なのかもしれない。

「お前。信じてないだろう。俺が悪魔だってこと」

こく。
反射的に頷いて、あわてて取り繕う。
が、困惑はお見通しのようで、自称悪魔はため息をついた。


「じゃぁ、証拠見せてやる。」

そういっった途端、俺の体は宙に浮いた。
ぶつぶつとあいつが唱えたとたん、光が身体を包み球体になる。
角からは禍々しいオーラを放ち、目が煌めいた。
そこから光線発射される。
反射的に目を閉じたが…
身体に届く前に球体が跳ね返し、消滅する。
消滅の断末魔かまぶしい光が部屋中を照らす。

まぎれもなく超常現象だ。
そしてそれを起こしているのは、目の前の男。

宙に確かに浮いているし、人間にできないパワーを持っている。
あー…

 マジかよ…

 

俺はあっさりと認めた。

コイツは悪魔。

変わり身早いって?
うるさいな、世の中臨機応変にしないと生き残っていけないぜ。
神社に現れるなら、悪魔じゃなくて霊とかでいいと思うんだが。
(しかも、漫画的には可愛い女の子幽霊とかが望ましい)
現れるならドラ○もんでも良かった。
いや、むしろドラ○もん「が」良かった。
あー…どこでもドアほしー…

なのに、なんで現れたのは悪魔ヤローなんだよぅ…

 

 

しばらく、超人的なパワーが暴れた後…
やっと解放された。
うー目がチカチカするぜ。

 

 

そして、また俺らは正座で向かい合った。
(なんでじゃ!)

「信じたか?」

はぁはぁと息をつきながら、言う姿が心なしかやつれている。
魔法とは…結構疲れるものなのだろうか?


「あー、まぁね」

「ぐ。まぁねってことねーだろがよ」

「で、なんで俺の部屋にいるんデスカ?何がしたいんですか?」

そうだよ、ここが肝心なんだよ。
コイツが何者であろうと、まぁ俺には関係ない。
これからコイツがどう行動するのかが、問題だ。
もし、悪魔が人間界を狙っているとして…俺はどうすればいい?

魔法なんてつかえるわけでも、腕っぷしが強いわけでもない。
ただの善良で非力な男子高校生が。

…願わくば、このまま帰ってくれませんかね〜。

 

問いかけは、沈黙によって答えられた。

「なんで黙ってるんデスカ?」

うつむいた顔が心なしか青ざめている。
こう見ると、たいして悪いやつにも思えんのだが…


「俺を、かくまってくれ!」

「は?」

唐突に切り出した言葉は意表をついたもので、俺はびっくりした。
かくまってくれ。
なんだそれは????


「俺は…ある者から逃げている。
 頼む。こうやって出てきたらこの部屋だったとゆーのも何かの縁だろう!?
 何もしなくてもいい。
 ただ、衣食住を与えてほしい。
 あ、衣はどうにでもなるから、住むところだ!食うものだ!
 それだけでいい!!」

決死の形相でまくしたてるそいつは、何かに脅えているようだ。
しかし、住むところと食うものを「無料」で与えてやれる権限なんか俺にはねーよ!
無理だ!

「ちょっと待てよ!んなこと無理に決まって…」

「無理ではない!
 ちっ!頭を下げてこんだけ頼んでるのに…!
 こうなりゃ力づくで…」

爬虫類にも似た瞳が、妖しげに輝いた。
まずい。
魔法が…殺される…!?

 

 

 

「ぶぁかもんがーーーーーーー!!!!」

男の変異にちょっとビビった途端
突然雷にも似た轟音が鳴り、俺の押入れの扉がスパーーーーン!!!と空いた。

だ…誰!?
何!?
まだ何かいるの??
俺の布団と漫画(押入れに収納してる)どこにいっちゃったの!?


紫と黒いスモークが部屋中に立ちこめ、視界が悪くなった。
第二の悪魔表れる!?


「ぶぁか息子がぁ…!」

どすの利いた低い声だが…
女性のような…

スモークがさっと消え去り、まばゆい光が一瞬部屋を包んで…
俺が目を開けた時には…
絶世の美女と呼んでも差し支えないくらいのキレイな女の人が仁王立ちで、見下ろしてきた。
(俺達はまだ正座してたのである)

てっぺんで複雑に編みこまれ、なお腰まで流れた黒髪。
額の白い肌には、濃い目の化粧を施したような模様が描かれている。
目もとに赤いラインを入れ、唇に深赤の紅を引いていて…整った造形だった。
そして豊かな胸、くびれたライン。
完璧なボディーラインを、カラスの濡れ羽色のような黒々としたドレスで覆い隠している。
思わず見とれてしまったほどだ。


しかし注目すべくはそこではなく、その頭からにょっきりと生えた象牙のような角。
美貌を誇る顔は怒りのため歪み、爬虫類のような瞳から炎を感じさせるような殺気を放っていた。


これって…


よく似ている先ほどの悪魔をちらりと見ると、その顔は驚愕のあまり口がO(オー)の字に開かれていた。
青ざめていた顔がはっきりと、恐怖の顔に引きつり…
拳が細かく震えているのを、観察上手な俺は見てしまった。

この女性は何者か?

それは、おのずと明らかになるであろう…
なんちゃってwww
俺にはどうすることもできないもんね。
さっきから、巻き込まれっぱなしだ。

 


「母ちゃん!」

ほらね、やっぱりね。
そんなことじゃないかと思ってたよ。
安直過ぎるんだよ、話が!
「息子」って言ってたもんね!
そっくりな瞳に角。
納得するぜ。
とりあえず、俺は落ち着こう。そうしよう。


息を整えていると、怒っている女性――悪魔の母親はちらりと俺をみた。

ドキン!

心臓が早鐘を打つ。
お…俺…何もしてないスよ…?

何かをされるのではと身構えた俺に、母親はにっこり微笑み
「…そなた…。…邪魔するぞ」
と言った。

優しげな声に、キレイな笑みだ。

「は、はい!」としどろもどろで答えると、満足気に頷いた彼女は相貌を変えた。
天女の如くの笑顔から、般若の顔へと…。


「亜邪璃!!来やれ!」

鋭く犬でも呼ぶように、声をかけると悪魔ヤローがビクとした。
逆らえないらしく、ガタガタ震えながらも立ち上がる。

アジャリ…こいつの名前か…


彼女が手を鷹揚に降ると、畳の真ん中に豪奢なイスが現れた。
!!!
俺のたたみぃ…(;□;)
が、突っ込めない。
展開が読めない俺は、固唾を飲んで見守るだけだった。

 

 


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